「アカハラ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。アカハラとは、大学などで教授といった優位な立場の者がその力関係を利用し、学生に対して不適切な言動を行うことを指します。

 学生にとっては、卒業や単位などは人生に関わるため、もしアカハラに遭っても相談できないケースもあるようです。

大学の教室
※イメージです(以下、同じ)
「あの時はつらかったです」と語る高木さつきさん(仮名・32歳)。学生時代の経験を振り返ります。

◆就職難時代、希望を持って大学院に進学

 さつきさんは、都内にある大学を卒業後、系列の大学院に進学しました。

「まだ就職難が続いていて、希望通りの就職先には入れなさそうだったので、大学院に進学しました。大学院に進学する前からどのゼミに所属をするか悩んでいたのですが、大学時代に所属していたゼミの先生は、大学院では研究室を持たないので、新たに決めなければならなかったんです」

 さつきさんは、将来的にはテレビ局やドキュメンタリー番組を制作する会社への就職を希望していました。

「大学院で面白い研究ができれば、就職でも有利になるかと思ったんです。私が所属したゼミの先生は、関西の大学から異動してきたため事前に情報がほとんどなかった。先生が作っていたゼミ生向けのサイトでは、レディオヘッドという洋楽のバンドや、映画評などを取り上げていたので、きっと若々しい先生なんだろうなって思って履修しました」

 しかし、実際にゼミの講義が始まると、いろいろと疑問を抱いたそうです。

◆ゼミで唯一の女性…食器洗い担当に

アカハラ告発
「先生の講義は、教室をいっさい使わず、いつも研究室で行われていました。新設の研究室だったので、私のほかにはゼミ生は2人しかおらず、どちらも男性でした。狭苦しい研究室に女性が自分しかおらず、息苦しい時もありました」

 そう語るさつきさん。ゼミの時間は先生が一方的に話すのを聴くような講義だったと語ります。

「講義中、先生はずっと煙草を吸うんです。そしてコーヒーも飲んでいました。私は煙草も吸わないし、コーヒーも飲めない。それなのに、ゼミの日はみんなの分のコーヒーを準備することや、飲み終わった後の食器洗いなどを一年生で女性だった私が全部するように言うんです」

 食器洗いなどは当番制だと思ったため、最初は受け入れていたというさつきさん。ある時、男子に洗い物を指示しない先生に抗議をしました。すると……。

「まさか食器洗いは女性がやるべきと言うとは思わなかったんです。だから私は“自分以外の男性も当番にすべき”と言ったら、ものすごくカンに触ったみたいで、その日から私がやることなすこと、批判が始まったんです……」

◆気に入らない学生には「バイトを辞めろ」とパワハラ

パワハラ 男性
 先生は学生によって態度が違っていたといいます。

「先生は、次年度に研究室に所属したいという学生を、まだ入学試験前なのに研究室に呼んで講義に出席させていました。その女性はお気に入りだったのでずっと褒めっぱなし。

 でも私には“お前はバイトをしているから、本を読むのが足りない。バイトを辞めろ”と言ってきたり、“学生はコーヒーを飲むものだ”と無理やり勧めてきたりしました。苦痛で仕方なかったです」

 次第に大学院を休むようになったというさつきさん。しかし、修士論文以外の単位はすべて取得できていたそう。

「実は先生に何度も修論のテーマを出しても“全部だめ”と却下されて、肝心のゼミの単位を出してもらえなかったんです」

◆学生相談室に行くも、取り合ってもらえず

 困ったさつきさんは、学生相談室に相談することにしました。しかし、そこでも信じられないような対応が待っていたそうです。

「職員に事情を相談すると、肝心の相談したい日に“子どもの保育園の迎えがあるので”と言われて担当の職員に帰られてしまった。教授会の審議にかけられて、単位が出せないという判断になりました。留年することになるので、退学を選びました」

 学生相談室に話したことで学校にも行きづらくなり、つらい思いをしました。

「大学院を辞めて数年経ってから、先生が気にいってゼミに参加させていた女性の学生が、結局、単位が貰えず留年したという話を聞いたんです。無駄な時間を過ごさず、早々と退学を選んで良かったと思いました」

 明るみにでにくいアカハラ問題。今はネットなどもあり、周りに相談しやすい環境ですが、もし困っている人がいたら、我慢しないで声を上げる勇気が大事なのかもしれません。

<文/池守りぜね イラスト/とあるアラ子>