鎌倉幕府の二代執権となる北条義時(小栗旬さん)を中心に乱世の権力争いを描くNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(日曜夜8時~ほか)。脚本家・三谷幸喜が贈る「予測不能エンターテインメント」と銘打たれたこの作品は、年末のクライマックスに向け、さらにストーリーを加速させ、視聴者をくぎ付けにしています。

『大河ドラマ「鎌倉殿の13人」オリジナル・サウンドトラック Vol. 1』(SMJ)
『大河ドラマ「鎌倉殿の13人」オリジナル・サウンドトラック Vol. 1』(SMJ)
 一方、「しぬどんどん」「シヌシヌエヴリバディ」などと朝ドラのタイトルをもじって揶揄(やゆ)されているように、序盤から毎回のように誰かしらが権力闘争の犠牲となり、主要キャストが退場していくことでも話題になっています。

 入れ替わりが激しいこともあり、登場人物の数がきわめて膨大なこの作品。そんな混沌とした中でもいい味を出しているのが、芸人あるいは芸人出身の俳優です。

◆初ドラマでいきなりの大河! スーパーサイズ・ミー・西本

 第39話に初登場し、女性問題が父・北条義時の逆鱗に触れ謹慎をさせられる北条朝時(ともとき)役を演じたのは、吉本興業所属で神保町よしもと漫才劇場で活躍する若手トリオ・スーパーサイズ・ミーの西本たけるさんです。

 神保町よしもと漫才劇場とは、ぼる塾を筆頭に芸歴9年目以下の芸人が所属する若手がネタでしのぎを削るフレッシュな劇場。すなわちスーパーサイズ・ミー自体も、吉本興業の中でも無名に近い、芸人の中では知る人ぞ知る存在です。彼らはテレビ出演も数回のみ、もちろんドラマ出演も初めてです。

 その一方で、西本さんは「私服のセンスが中学生で止まってる男シリーズ」や「マッチングアプリシリーズ」など、インスタをはじめとするSNSで大活躍中。脚本の三谷幸喜さんがそれらの投稿を発見し、役柄の印象を踏まえた上で、今回抜擢(ばってき)したといいます。

◆「古畑任三郎」でも! 三谷幸喜が芸人を抜擢する“アンテナ”

 かつて古畑任三郎シリーズにおいて、当時ボキャブラ天国などで活躍していたアリtoキリギリスの石井正則さんを主要キャストで抜擢した三谷さん。今回の西本さんの抜擢は、その時の驚きをほうふつとさせます。改めてそのアンテナ、そして眼力に恐れ入りました。

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 ちなみに最近はキングオブコントでも健闘したお笑いコンビ・コットンのきょんさんにも注目しているとか(10月8日放送『情報7daysニュースキャスター』にて発言)きょんさんが三谷作品で役者デビューする日も近いかもしれません。

◆『鎌倉殿の13人』を彩った芸人俳優は他にも

『鎌倉殿の13人』には、西本さんのほかにも多くの芸人俳優が出演しています。序盤で注目を集めたのが第1回目から出演する仁田忠常(にった ただつね)役のティモンディ・高岸宏行さん。

 連続ドラマ初出演ではあったものの、純粋で主君に忠実な坂東武士・仁田の姿を、本人の人間性をそのまま映し出したかのような自然さで演じていたのが印象的でした。彼は先日、女優の沢井美優さんと結婚発表したことでも話題になりましたね。

 また、工藤祐経(くどう すけつね)役の我が家・坪倉由幸さんも序盤から出演し、頼朝暗殺計画のキーパーソンになるなど物語で重要な役割を演じました。ほか、九条兼実(くじょう かねざね)役のココリコ・田中直樹さん、安房の漁師・権三役としてほぼ一瞬だけ出演したカミナリの竹内まなぶさんなど、多くの芸人さんが出演しました。

『13人』の合議制の1人・足立遠元(あだち とおもと)役の大野泰広さんもお笑いコンビ「ハレルヤ」として爆笑オンエアバトルなどで活躍していた芸人さんです。一見、重厚な大河ドラマとは合っていなさそうな芸人さん。しかし、三谷さんのコメディ要素の入った作風に驚くほどマッチしています。

◆民放ドラマとは一線を画す? 幅広い出演陣が盛り上げる

 昨今のテレビドラマ界のキャスティングは、限られた売れた役者さんが、ローテーションで様々なドラマを巡回しているような印象を受けます。

 俳優の浅野忠信さんも9月18日放映の『ボクらの時代』(フジテレビ系)にて「どうしても大きい事務所があって、いろんな力関係で物事が動いてると“ここに俺入れねえんだな”とかそれはやっぱり何か、もうちょっとフェアになんねえかなとかって思うときあるから」と嘆いており、他の出演者たちも頷いていたのが印象的でした。

『鎌倉殿の13人 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド)』(NHK出版)
『鎌倉殿の13人 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド)』(NHK出版)
 それだけ、キャスティングが大手事務所主導でありきたりなものになってきていることを役者自身もひしひしと実感していることなのでしょう。

◆無名でもひとりひとりの役柄に合ったキャスティング

 しかし、『鎌倉殿の13人』はそんなどこかで見た配役とは一線を画したものがあります。芸人さんからの抜擢もさることながら、声優、歌舞伎界、ミュージカル俳優をはじめとする舞台中心の役者さんなど、枠にとらわれない幅広さがあります。

 ドラマ初出演ながら、存在感を残し、演技も好評だった高岸さんや西本さん。たとえ無名でもひとりひとりの役柄に合った適材適所のキャスティングが、『鎌倉殿の13人』の視聴者をより深く物語に没入させ、多くのロスが溢れるほどファンが多い理由なのでしょう。

<文/小政りょう>

【小政りょう】

映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦