コメディ・モードに転換する“緊張と緩和”の名演

 ところがだ。その山﨑扮する契約者の石田が建てるアパートの地鎮祭で、何やら怪しげな祠と石碑を壊してしまったことから、不思議な力によって、永瀬は、嘘を付けなくなってしまう。ライヤー永瀬と称され、嘘八百を並べ立てて、営業成績トップを独走してきた敏腕営業マンにとって、これは最大のピンチ。

 帰社すると、受付嬢や同僚たちに今度は片っ端から暴言を吐きまくり、新入社員の月下(福原遥)には、石田を騙し、卑劣な契約を結ばせていることを洗いざらい吐露してしまう。一度、本音モードになると、どうにもならない。マスクで口を塞ごうとしても、どこからともなく吹いてくる突風がマスクを飛ばし、今まで嘘でせき止められていた真実の奔流がどんどん押し寄せる。冒頭で視線を微動だにせず、相手に口八丁手八丁だった姿が、まるで嘘のよう。視線は、あっちへ、こっちへ、漂うどころか、もはや心ここにあらずで、揺れ動く。身体をのけ反らせ、口を必死で塞ぎながら、コミカルな調子で早口でまくし立てる。

 この突風を合図に突如、コメディ・モードに転換する山下は、それまでの“緊張”が一気に“緩和”されたように、非常にメリハリのある名演をみせる。こんなに芸達者になった山下を見て、Twitterで「カメラの前で立派な男になったことを確認」とべた褒めの山﨑もさぞかし、ご満悦だったろう。

山下の等身大の姿とプライド

 でも、物語内の永瀬と石田の関係性は、そうは言っていられない。永瀬の嘘が緩和されれば、石田は当然、騙されていたと分かり、憤慨する。一触即発のドタバタ・コメディな怒涛の展開。さて、山P、どう切り抜ける!?

 と、思ったが、意外にそうでもなかった。永瀬は、自分が嘘を付けなくなった原因が、破壊した祠にあると気が付き、アパート建設予定地に再び向かう。そこに石田がいて、永瀬はやっぱり本音を打ち明けてしまう。このときの本音には、どこか愛を感じる。不動のごとく屹立する山﨑を前に、嘘なく、誠実に向き合おうとする山下の等身大の姿は、まさに「立派な男」だ。石田の前ではなぜか穏やかな表情を見せるのは、どうしたって山﨑の前では、童心に自然と返っていくからだろうか。

 そんな永瀬だが、月下の初めての成約に立ち会い、あと3秒で契約成立というところで、例によって突風が吹き、破談に。彼は、責任を取らされ、会社をクビになる。そこへ乗り込んできた嫌がらせオーナーが、永瀬を名誉毀損で訴えるといきり立ち、かつてのエースもこれは絶体絶命。かと思いきや、何を達観したのか、永瀬は腹をくくった表情で目を据え、一点を見つめ、オーナーに対峙する。

 謝罪を求めるオーナーに対して、土下座をして詫びようとしたそのとき、突風が吹きつけ、彼のサラサラヘアを激しく靡かせる。土下座途中の永瀬は、翻って、勇ましく立ち上がり、決めの一言。

「残念ながら、私は嘘がつけない人間なんです」

 土下座なんて、山下の性に合わない。迷いも不安もなく、今度は自信ありげに相手を見つめる緊張の眼差し。緊張(嘘)から緩和(本音)ではなく、逆に、緩和(嘘)から緊張(本音)に転じたこの場面、山下の堂々たるプライドが取り戻された、ダイナミックで、エモーショナルな瞬間だった。

<文/加賀谷健> 加賀谷健 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。 ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」や「映画board」他寄稿中。日本大学映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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