10月16日からスタートした日曜劇場『アトムの童(こ)』(TBS系、日曜夜9時~)。主人公の若き天才ゲーム開発者・安積那由他(あづみ・なゆた)役に山﨑賢人さんを据え、現代のゲーム業界を舞台に、巨大資本の企業に立ち向かっていく姿が描かれています。

 本作で敵役とされる大手IT企業「SAGAS(サガス)」社長・興津晃彦(おきつ・あきひこ)を演じるのがオダギリジョーさん。この役の当初のキャスティングが、銀座ホステスへの性加害報道で活動自粛中の香川照之さんだったことをご存じの方も多いでしょう。

 放送開始前はオダギリさんの代役について「二人のタイプが全く違うのに大丈夫?」「代役と言えどミスキャストすぎでは」という心配の声もありましたが、いざ第一回が放映されると「大正解」「逆に香川照之だったら違和感」などという意見が大半を占めました。

◆THE・日曜劇場な『アトムの童』、代役で起こった化学反応

『半沢直樹』や『下町ロケット』、『ドラゴン桜』など、成功と挫折を繰り返しながら巨大な権力に立ち向かう主人公の姿を描く作品が多いTBSの看板ドラマ枠・日曜劇場。

『アトムの童』はそんな枠での放映でありながらも、20代の山﨑賢人さんという若い主人公、舞台がゲーム業界ということから、放送前は若者がぶつかり合いながら奮闘していくストーリーを期待した視聴者も多かったと思います(例えるなら、韓国ドラマ『スタートアップ:夢の扉』のような)。

オダギリジョー
オダギリジョー/画像はリリースより
 しかし、ふたを開けて見れば第1話から、挫折した主人公、巨悪の大資本、銀行の融資担当……など、お馴染みキーワードがそろい踏みの“THE・日曜劇場”なストーリー。多少想像とは違いましたが、従来の日曜劇場とは違う新鮮な印象を感じました。その理由は前述の20代主人公・舞台がゲーム業界ということ以外に、敵役のオダギリさんの存在なくして語れません。

◆もし香川照之がそのまま出演していたら?

 もしここで予定通りこの枠の常連俳優・香川照之さんがそのまま出演していたら、ありきたりでどこかで見たような印象になっていたでしょう。オダギリさんが演じたことで、王道の展開でありながらも、現代的で新しい空気感を生み出し、いい化学反応を起こしていたように感じました。

◆朝ドラの「宇宙人」役でも魅せた独特の存在感

 オダギリジョーさんの役柄で記憶に新しいのは、昨秋から今年の春にかけて放映されたNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』です。祖父・母・娘と三世代の女性を描いたこちらの作品で、二部ヒロインの相手役であり三部ヒロインの父親・大月錠一郎という重要な役柄を演じました。

「カムカムエヴリバディ」
『連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」オリジナル・サウンドトラック 劇伴コレクション Vol.2』(SMJ)
 この作品での彼はヒロインから心の中で「宇宙人」と呼ばれていたほど当初は得体のしれない人物でした。通常、朝ドラヒロインの相手役と言えば、爽やかで誠実なのがセオリー。登場時点の雰囲気でだいたい相手役の目星がつくものですが、オダギリさんが演じる錠一郎はその真逆でどこかつかみどころのない人物。だからこそ、恋の行方が成就に至るまで予想できず、私たちをドキドキハラハラさせてくれました。

 一方、父親となった三部では、常識的に受け入れられ難い「働かない父親」でありながらも、悲壮感や嫌味なく、スッと話になじむ独特の存在感を醸し出し、見事にハマっていたのです。

◆どんな役でも納得させる、オダギリジョーの得体の知れなさ

 昨年放映されたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)で演じた役も、数学好きな元ヤングケアラーで、主人公・とわ子と距離を縮めながらも、ビジネスでは彼女に対し非情な決断をする……という、驚くほど多くの面を持ったキャラクターでした。

 しかし、それでも不自然でなかったのは、オダギリさんの得体の知れない存在感があったからこそ。「彼ならあり得る」と十分な説明なくともどこか納得してしまえるのです。

◆オダギリジョーが、物語のドキドキを倍増させる

 オダギリさんが『アトムの童』で今回演じる大手IT企業社長・興津は、主人公と過去に因縁を持ち、今もなお対立する敵役です。香川さんとの交代が報じられた際は、存在に重厚さがないことが不安視されていましたが、IT業界のどこかに本当にいそうな、いけすかなさくて胡散臭い社長を見事に表現していました。

『アトムの童』がオリジナルストーリーの作品であることから、交代が発表されてから彼に合ったキャラや設定に変えた可能性はあるにせよ、今まで彼が演じてきた役柄とはまた違う絶妙さがありました。

 そして、彼が興津役であることによって、裏に「何かやむを得ない理由や過去がありそう」な雰囲気や、逆にサイコパス的な不気味さを醸し出し、この先、この人物の立ち位置や物語がどう転ぶかわからないドキドキを倍増させています。

 つまり、オダギリさんが演じることによって存在自体にミステリーの要素を産み、興味をそそっているのです。もしこれが完全なヒールの印象である・香川照之さんであったなら、役自体への興味などこれほどまで感じさせなかったでしょう。

 物語はまだ序盤。今後、興津と主人公の因縁や過去などが徐々に明らかになっていくでしょう。ストーリーの展開以上に、オダギリ興津の動きに目が離せません。

<文/小政りょう>

【小政りょう】

映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦