松坂慶子主演ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』が、毎週土曜日よる10時からNHKで放送されている。
松坂扮する孤独な老人・一橋桐子が、終の住処を刑務所にすべく、人に迷惑をかけずにどうにかして捕まろうと“ムショ活”に奮闘する中、不敵な眼差しで彼女の犯罪コンサルタントをするのが久遠樹(岩田剛典)。
久遠の役どころは、このところソロ活動で大忙しの、我らが岩ちゃんにとっては、図らずも“原点回帰”となるとみた!
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、久遠役の驚きのイメチェンから、岩田剛典の“現在地点”を探りたい。
◆岩田剛典という人の一貫したマナー
EXILEのライブパフォーマンス、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE(以下、三代目JSB)のメンバーとしてのグループ活動、はたまたソロ活動を本格化させる岩田剛典は、おそらく今の彼が何より実力を試す場に選んでいる役者の世界でも話題を提供し続けている。
そうした彼の振る舞いがいかにもさりげなく、シルク素材のような柔らかさで、岩田剛典という人の一貫したマナーを保っているかのようだ。
11月の広島公演を皮切りに、9都市10公演を予定しているソロ初のライブツアー『Takanori Iwata LIVE TOUR 2022 “THE CHOCOLATE BOX”』に向けて、毎週のようにさまざまなリリースを打ってファンの関心を集め続けるギミックを組んだりするのも、彼らしいサービス精神だが、NHKドラマ『一橋桐子の犯罪日記』でも、またサプライズ的な意味合いで、視聴者を驚かせている。
しかもそれが、岩ちゃんが演じる役のビジュアルにおいてなのだから、インパクトは絶大だと言える。
◆ただ者ではない感を引き出すための“イメチェン”
爽やかなキャラクターから不穏な雰囲気をまとわせたシリアスな人物まで、いまや幅広い役柄を演じる岩ちゃんが今回演じるのが、主人公・一橋桐子(松坂慶子)が清掃スタッフとして働くパチンコ屋の清掃リーダー・久遠樹。
桐子は、同じ屋根の下で晩年をともに過ごした親友・宮崎知子(由紀さおり)を失い、残された孤独な暮らしの中で、途方に暮れている独り身の老人だ。
桐子は、孤独から逃れるため、“塀の中”に憩いの場を想像する。とにかくまずは何か罪を犯して刑務所に入ろうとする“ムショ活”なるものをはじめるのだが、そこでひと役買うのが、どうやら前科持ちで、刑務所暮らしを知っているらしい久遠だった。
桐子は、久遠の経験を見込んで、“犯罪コンサルタント”になってもらう。久遠は、コンサルティング料として桐子から毎回千円札を受け取る。その目つきは、どうもただ者ではない。強面というわけではないのだけれど、このただ者ではない感を引き出すために、我らが岩ちゃんは、大胆な“イメチェン”を果たしている。
◆懐かしさを感じさせる久遠のガングロ
岩ちゃんが、久遠役によってどうイメチェンしたかと言うと、周到に塗り込まれたメイクによって、肌を黒く印象を変えたわけだ。小麦色よりもさらに色が濃い、ガングロな岩ちゃん。でも、ガングロな岩ちゃんをみたのは、何もこれが初めてのことではない。正確には、久しぶりのことだった。
三代目JSBデビュー当時、デビューシングル「Best Friend’s Girl」(2011年リリース)のジャケットを思いだしてみる。色が黒いEXILEのイメージを受け継いだ三代目JSBメンバー7人全員が、まぁよく焼けている。中でもダントツなのが、褐色の肌が色っぽい岩ちゃんだったことを記憶している。
時を経て、三代目JSBは、徐々に白く染め上げられていった。ダントツな黒さを誇った岩ちゃんは、今度は格段に白くなる。先日10月12日にリリースされたばかりのソロ1stアルバム『The Chocolate Box』のファーストトラック「Only One For Me」のミュージックビデオをみると、髪色が明るい一方で、かつての肌の黒さがほんとうに嘘みたいだが、そこへ懐かしさを感じさせる久遠のガングロだった。
◆ガングロな岩ちゃんと色白な岩ちゃんの共存
「久遠樹」の樹という名前自体にも、懐かしさを覚えずにはいられない。「樹」は、映画初主演作『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)で演じた主人公の名前と同名。“ガングロな樹”は、ダブルミーニングで原点回帰なのだ。
そんな原点回帰的な岩ちゃんの演技から受ける印象は、無駄がなく、とてもシンプルなもの。桐子に犯罪のやり方をレクチャーするときの久遠は、視線を動かす以外は、ほとんど無表情。それ以上の無駄な動きはない。
第1話は、あまり多くない出番の中でシンプルな視線の演技で通していたが、第2話では、強盗の方法を伝授する場面が大きな見せ場だった。屋上に上がってきたふたりは、水鉄砲と縄を用意して、実演練習する。縄で縛られ、水鉄砲をかけられる久遠の表情は、とくにエモーショナルなわけではないが、抑制された演技の裏に新たな表情を垣間見せた。
この屋上の場面、ひとつ確認しておきたいことがある。桐子に水鉄砲で撃たれるときの久遠のガングロが、図らずも白く薄められていることだ。これは、メイクが取れたとかではない。この場面を起点に、第1話では強烈にガングロな印象が強かった久遠が、ところどころ白く薄められている。
つまり、本作では、ガングロな岩ちゃんと色白な岩ちゃんとが、場面の差として共存している。この微妙な差異の不思議な印象が、原点回帰をより面白く、その先へ視聴者の想像を駆り立てていく。
◆岩ちゃんの“現在地点”をひも解く
ガングロから色白へ、という久遠のビジュアルイメージの変化が、そのまま現実の岩田剛典のビジュアルイメージの変遷を物語っているわけだが、これは彼のリスタートをも意味している。
一周回って、一皮むけ、シンプルな演技の軸からぶれることがなくなった俳優としての岩ちゃんが、今度は、本格始動するソロ活動を視野に入れる。
『The Chocolate Box』に収録されている「Keep It Up」のトラックタイトルを日本語訳すると、「その調子!」。この掛け声は、作詞を手掛けた自分に対する鼓舞でありながら、これまで一緒に並走してきたすべてのファンに向けられ、アーティストとファンとがお互いに励まし合う図式が、とてもシンプルに浮かび上がる。
それはまた先行シングル「Ready?」のダンサブルなバックトラックの疾走感に受け継がれながら、先へ先へ、止まれないよ?
そんなふうにアーティストとしての岩ちゃんの音像世界をなぞってみると、久遠というキャラクターの捉えどころのない魅力も、あるいはまた彼がただガングロに肌を染めたわけではないこともわかってくる気がする。
そしてさらに、その先へ。今、岩田剛典を理解する上で、もっともアクチュアルなのが久遠樹であり、この役をみつめることで、岩ちゃんの“現在地点”がひも解かれる。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。
ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu