野田サトルによる人気漫画『ゴールデンカムイ』の実写化が決まり、先日10月19日にいよいよ主演俳優に山﨑賢人が内定したことが一部メディアで報じられた。それを受け、ネット上ではおおかた批判的な意見があふれる中、筆者は、このキャスティングを好意的に捉えたいと思う。
だいたいにおいて現在の日本映画界で、興行成績も含め、いったい誰が実写化の大役を期待どおりに演じ切ることができるだろうか?
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、あくまで肯定派の意見として、今回のキャスティングの是非を問いながら、山﨑賢人にとっての“黄金期”をみつめてみたい。
◆山﨑ファン目線による淡い期待
『ゴールデンカムイ』の主人公・杉元佐一は、元大日本帝国陸軍の兵士で、驚くべき戦闘力を発揮する強者だ。あの驚くべき6パックの筋骨隆々を体現するには、確かに山﨑の身体の線は細く、不相応かもしれない。
明治末の北海道を舞台にした漫画内の2次元世界を飛びだして、風格ある元軍人の勇姿を映画の3次元空間で表現できるかについては、正直なところ、不安がないわけではない。
一方、山﨑があらわにする肉体の美しさを期待する声もある。『水球ヤンキース』(2014年、フジテレビ系)では、しなやかな身体と瞬発力が目を見張るものがあったし、たとえ筋骨隆々ではないにしても、なかなか美しく、艶(つや)やかな姿で水球チームの要として全編を躍動していた。
これはあくまで山﨑ファン目線による淡い期待というか、贔屓目だと捉えられるに違いない。事実、筆者は山﨑賢人の大ファンである。だから、もちろん『ゴールデンカムイ』の実写化作品の主演が決まったことをそりゃ好意的に受けとめている。
ただ、実写化俳優としての山﨑のこれまでの歩みと躍進を振り返るなら、彼以上に実写化作品の完成度に貢献してきた才能が他にはみつからないこともまた事実なのだ。
◆実写化ラッシュに湧いていた2010年代
と、あれやこれや意見はたくさんあるが、筆者からすると今や山﨑賢人は、実写化俳優のスタンダードだと言い切りたい。スタンダードという言葉は、映画でも音楽でも長く語り継がれる名作を意味するが、実写化作品の文脈では山﨑以上にスタンダードな存在はいないからだ。今でこそ、彼は幅広い作品に出演するようになったが、日本映画界が空前の実写化ラッシュに湧いていた2010年代は、日本映画界自体が山﨑賢人の歩みとともにあった。
あの当時、少女漫画を原作とした実写化映画に片っ端から出演していた山﨑をスクリーン上にみない年はなかった。いわゆるきらきら映画の金字塔として筆者が偏愛している『オオカミ少女と黒王子』(2016年)を頂点として、山﨑が“実写化王子”の異名を取っていたことが、懐かしくもあり、またそれは山﨑のキャリアの“黄金期”を物語っていた。
山﨑賢人なくして、日本映画はない。これは言い過ぎではないだろう。山﨑は、『オオカミ王子と黒王子』が公開された2016年前後を第一期の黄金期としながら、『氷菓』(2017年)以降、漫画原作作品と小説原作作品を2作品ずつ一定のペースで映画に主演するようになる。原泰久による原作の実写化作品『キングダム』(2019年)では、実写化王子というより、もはや“実写化の化身”としての意気地を多くの映画ファンに印象づけた。
◆実写化俳優としての奮闘史
実写化王子、ないしは実写化の化身としての栄冠の裏では、今回の『ゴールデンカムイ』同様に、必ず原作ファンからの容赦ない批判や批評を受けてきている。それでも彼には実写化を体現するプライドがある。言わば、実写化俳優としての戦いの歴史そのものが、一大スペクタクルというか、まばゆい輝きを放つ奮闘史として日本映画史に刻まれている。
では、歴戦をくぐり抜けてきた山﨑が、今どんなフェーズに入ったのかと考えてみる。毎週日曜日よる9時から放送されているTBSドラマ『アトムの童』では、デビュー以来、彼のスタイルになっている自然体の演技により磨きがかかっている。そこに大きな話題として放り込まれたのが、『ゴールデンカムイ』主演への内定だった。
◆“第二期の黄金期”へ
『斉木楠雄のΨ難』(2017年)公開後、2本の実写化以外の作品を挟み、『キングダム2 遥かなる大地へ』が今夏に封切られたばかり。同作に続く映画作品が、こうして実写化作品になることは、山﨑のキャリアにとってそれなりの意味を保つんじゃないかと思う。いやむしろ、筆者が思うに、山﨑は再び実写化作品に活路をみいだし、そこから“第二期の黄金期”に入ろうとしているのではないだろうか。
第一期が実写化王子の異名を取ったなら、第二期ではよりスケールアップした正真正銘の実写化の化身となる。思えば、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017年)でのあの忘れがたい力強い眼差しの演技に、主人公・東方仗助が憑依した化身的な雰囲気がすでに感じられた。
2020年代は、『ゴールデンカムイ』実写化主演を契機に、実写化の化身・山﨑賢人が第二期の黄金期へ入り、実写化ラッシュの大きな潮流が、再び日本映画界を席巻する気がしている。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。
ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu