『わたし史上最高のおしゃれになる!』『お金をかけずにシックなおしゃれ』などの著書があるファッションブロガー小林直子さんが、愛用しているアイテムをご紹介します。
◆どんな靴も誰にでもぴったりというわけにはいかない
人それぞれ身体の形は違います。ほとんどの人が着ている既製服には、「ゆるみ」と呼ばれる身体の動きに対応する余白があります。「ゆるみ」は、身体の動きに対応するために余分な部分を作る、あるいはストレッチ素材を使用するなどによって作られます。
足も同様に人それぞれ形状に違いはありますが、服ほどにゆるみがあるものではありません。また必ずしもストレッチ素材でできているわけではないので、どんな靴も誰にでもぴったりというわけにはいきません。人によっては、ある種類の靴を履いて歩くのが容易ではない場合もあります。
私の足は、見た感じは普通なのですけれども、幅が細く、甲に厚みがないため、いわゆるパンプスを履いて歩くと脱げてしまい歩けません。靴の学校を卒業した靴を熟知している方に私の足を見てもらったら、「小林さんみたいな足の人は、パンプスは履けません」と、お墨付きをいただきました。
脱げるだけならストラップがある靴を履けばいいのですが、元々かかと骨が少し出っ張っているため、靴の後ろの部分が固く作られているものは、その骨が靴の内側に当たり、まめができて血が出るほどで、これもまた、1日じゅう履いてはいられないのです。
◆1年のうち一番ブーツを履いている時間が長い
そんな足の持ち主なので、もっぱら履くのはサンダルかブーツ、そして柔らかい素材のスニーカーか、バックレスのサボやミュールとなります。この中で特に好きなのがブーツです。ブーツという靴の形状も好きですし、脱げる心配もなく、骨が当たって痛いこともないので、1年のうち一番ブーツを履いている時間が長いです。
いろいろある種類の中でも、一番好きなのがロングブーツです。20代のころ、この一番好きなロングブーツはなかなか買えませんでした。理由はロングブーツはお値段がお高いから。
もちろんワンシーズン履いたらだめになるような安価なロングブーツも売ってはいました。しかし1990年代、自分が気に入って、かつ長く履けるようなロングブーツは、三、四万円はしたのです。それはなんと、私が働いていたアパレル一部上場企業でいただいた手取り額の3分の1なのでした!
正社員としてアパレル企業で働いても欲しいロングブーツは買えないのだと、仕方なくショートブーツばかり履いていた20代を過ぎて、ロングブーツが買えたのは30代になってからでした。
今でも覚えています。つい先日取り壊しが始まった小田急百貨店の新宿店の2階の靴売り場で買った、ヴィヴィアン・ウエストウッドの8センチヒールのロングブーツ。たいそう気に入って、私はそのブーツでイギリスを旅しました。しかも一人旅で、キャリーケースを引っ張って、グラストンベリーまで行きました。
グラストンベリーへ行くために、停留所でバスを待っていたら、現地のおばあちゃまが「よくも遠いところからここまでやってきたわね~」と声をかけてくれました。「好きなロングブーツを履いているのですから、ここまで来られますとも!」と、私は心の中で返答しました。
◆ロングブーツなしでは冬は過ごせない
街を歩いていても、いい年の大人の女性でロングブーツを履いているのは少数派です。確かにロングブーツには、値段が高い、脱ぎ履きが面倒、大きくて置き場所に困るといった欠点があります。しかし脚の形を気にせずミニ丈のボトムをはける、そして何より冬の寒い時期、脚がとても暖かいという利点があります。
こちらの写真のロングブーツは裏がボアで、かつニーハイタイプ。膝の上まで脚を覆います。そのため暖かさもひとしおです。
この暖かさ、その快適さを知ってしまったら、もうやめられません。年齢に関係なく真冬には脚が冷えるようで、この前までシェアハウスをしていた、そのときは20代だったカオリさんも、私に影響されてロングブーツを履くようになり、「もうロングブーツなしでは冬は過ごせない」とまで言っていました。
◆子どものころの憧れの彼女たちはロングブーツが定番だった
さて、この文章を書くに当たって、私はなぜこんなにもロングブーツを履きたいと思っていたのだろうかと改めて考えてみました。
思い当たるのは、小さいころテレビでよく見ていたピンクレディーやキャンディーズ。歌って踊る彼女たちのステージ衣装は、ミニスカートやホットパンツにロングブーツが定番でした。意識してはいなかったけれども、私は子供のころからひそかにあのスタイル、あるいは活躍する彼女たちに憧れていたのかもしれません。
子供のころの憧れが実現するのはいいものです。自分がずっと欲しいと思っていた、自分の足にピッタリ合う靴を自分で買って、それを履いて自分が行きたいと思っていた憧れの場所へ行く。そうやってできた思い出は、いつまでも思い出の玉手箱の中で輝いて、この肉体と別れるときにきっと思い出すでしょう。
◆今までもこれからも、どこへでも
パンプスを履いて歩くことはできませんでした。けれども、私にはブーツやらサンダルやらスニーカーがあるので全く困っていません。今までもそれで歩いてきたし、これからもこれらを履いて、どこへでも行く所存です。
◆ロングブーツ(筆者私物):PELLICO
<文/小林直子>
【小林直子】
ファッション・ブロガー。大手ブランドのパターンナー、大手アパレルの企画室を経て独立。現在、ファッション・レッスンなどの開催や、ブログ『誰も教えてくれなかったおしゃれのルール』などで活躍中。著書『わたし史上最高のおしゃれになる!』など。