セックスレス夫婦を主人公に、夫婦交換=スワッピングという題材を描くドラマ『夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~』(テレビ東京系、水曜深夜0時30分~)。原作漫画(作画:越川珠江、原作:アオイセイ)とともに話題のドラマを、夫婦関係・不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。
◆“夫婦交換”でセックスレスは解消されたが…
幼いひとり娘にきょうだいを作ってあげたい、何より自分が夫に「女」として見られたい。妻の志保(佐津川愛美)はそう思い、夫の浩介(千賀健永・Kis-My-Ft2)は妻が好きなのに「妻だけED」に陥っている。そこで夫が見いだした解決策が「夫婦交換」。
前回、ふたりでスワッピングパーティに出かけ“交換”を果たした。浩介は帰宅後、妻に欲情する。それ以来、浩介は興奮が続いており、志保は「なんだかキレイになってる」とママ友にからかわれている。
ドラマの2回目、夫はスワッピングパーティを主宰する窪塚洋一郎(平岡祐太)の妻・祥子(板谷由夏)とどうやら外で会っているらしい。
それを夫に確かめて本当だったと知ったとき、志保は激しく怒る。
「志保も窪塚さんとすればいいよ。そのほうがオレも燃えるし」と言った浩介に、「そんなバカみたいなことしたくない」と志保は怒りをぶつけた。
◆「スワッピングには段階があるの」と言い切られ
夫の「夫婦交換」にはどうも裏がありそうな気配。祥子と昔、関係があったのかなどと勘ぐりながら見ていると、志保が意を決して祥子に会いに行くことになる。
魅力的な妻であり、「夫にとって自分が最高の女だって自信がある」と言い切る祥子に、志保は気圧されてしまう。
ただ、スワッピングに参加してそれほど時間がたっていない女性に、
「スワッピングには段階があるの。最初は目の前での夫婦交換、その後は目の届かないところでの交換」
と言い切るのはキツいものがある。
◆実際に“夫婦交換”した夫婦「妻は部屋の隅で泣いていた」
スワッピングを「夫婦としての究極の遊び」と言った夫婦に出会い、話を聞いたことがある。ふたりはアラフィフ、子どもたちも大きくなり、夫は浮気をした。それを知った妻は夫を咎めた。すると夫は「だったら、これからは夫婦でしかできない趣味を楽しもう。ふたりだけの秘密を共有しよう」と告げたという。
妻が連れていかれたのは、スワッピングパーティだった。最初は部屋の隅で泣いていた妻は、他の男性に触れられるまでに半年かかった。その間、夫も誰とも交わらずに我慢した。ついに妻が「交換」に応じたのは1年後。そこからすさまじい勢いで妻が「成長」していったというのは後日談だ。
もともと興味があるわけではなかった未知の世界になじむには、それだけの時間がかかる。夫婦としての長年の信頼関係があってさえ、そういう状態なのだから、ドラマの若い夫婦がどこまで「その世界」になじめるのか心配にさえなってきた。
夫に秘密がありそうだし、どうやら志保は、窪塚夫妻に「ゲーム」を仕掛けられているようなので、スワッピングの世界を丁寧に描いている時間はないのだろう。ただ、その世界で葛藤や悩みを抱えながらも「本当の夫婦とは」を追い続けている夫婦も、実際にはいる。「究極の遊び」なのに、「究極の哲学を追う」ようなところがあるのが、こうした異世界にはつきものなのかもしれない。
◆「家族になる」とは、一緒に責任を負うこと
「スワッピングは嫉妬を愛情に昇華させる」
「モラルに縛られたくない」
志保にとって衝撃的な言葉が、窪塚祥子からは次々と出てくる。
一方で、志保のママ友は、夫が浮気したからと30万円する腕時計を買わせてストレス発散している。
夫婦の関係も、愛情のありようも人それぞれ。
その後、志保は洋一郎から、夫の浩介が仕事で大変な思いをしていることを聞かされる。そういうことは心配させるから妻には話せないと浩介は言ったそうだ。
夫婦関係の取材をしていていつも思うのだが、夫婦は同じ船に乗っている。だからこそ話せないこともできないこともあるのだ。一方、他の異性はゲームだろうが恋愛だろうが思いやりをもって成立させることができる。そこに「責任」が介在しないから。「家族になる」ということは「一緒に責任を負う」ということなのだろう。
幼い娘と遊ぶ夫を見守る志保の表情はやさしい。母の顔だ。狭い日本のマンションで、そんな娘を寝かしつけて「さあ、妖しい雰囲気で男女の交歓をいたしましょう」というのが無理なのかもしれない。セックスレス夫婦が増加の一途をたどるのもよくわかる。
◆スワッピングを通して暴かれていくものは
洋一郎は、志保に「うちの妻がお宅の浩介さんに、一緒に逃げようと迫られている」と告げる。志保はあわてて洋一郎とともに、夫と祥子がいるホテルへと向かう。そして志保がそこで見たものとは……。そして浩介の秘密とは。
スワッピングという題材を通して、若い夫婦の何が暴かれていくのだろうか。
と同時に、愛と性を切り離せない女性の心理と、そこを別に考えられる男性との違いがよくわかる。実際には男女の傾向であって、女性でも割り切って考えている人も最近は少なくない。愛と性は表裏一体のこともあれば、イコールのこともあれば、切り離して考えたほうがいいこともある。愛しているからセックスするとは限らない、セックスしたからといって愛しているとは限らない。頭でわかっていても、夫婦交換は、人間のもつモラルや愛にグサリとメスを入れるような行為だ。
「今までの価値観がすべてひっくり返ってしまった」と言う女性もいた。そこで自分を解放できるかどうかは、その人の人生への姿勢と深く関わってくる。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio