世の中にあまたある、育児書。特に初めての育児で手に取ったことのあるという人は多いのではないでしょうか。

『世界一役に立たない育児書』(白泉社)
『世界一役に立たない育児書』(白泉社)
 2022年9月6日に発売された『世界一役に立たない育児書』(白泉社)は「どんなに工夫しても食べない時は食べない」「トイトレは思うようにいかない」など、育児のリアルを徹底的に描いた、一風変わった“育児書”です。

 著者のかねもとさんは前回のインタビューで「育児の悩みに対して『今だけですよ』と書かない」「読者をママだけに限定しない」など、執筆において配慮したことを話してくれました。

 今回は、かねもとさん自身の育児の思い出や、かねもとさんが以前運営されていた、子どもの夜泣きの世話をするママ達がオンラインで語り合うことができるLINEオープンチャット「オンライン夜泣き小屋」の取り組みなどについて聞いてみました。

◆「今でもトラウマ」もっともツラかった育児の経験

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――かねもとさんご自身がもっともツラかった育児の思い出は何でしょうか?

かねもとさん(以下、かねもと):私は子どもの夜泣きが本当にツラかったです。1人目が特に寝ない子で、初めての育児だったので「子どもが夜起きたら寝かしつけるまで抱っこしないといけない」思い込んでいて、最初の半年くらいは本当にずっと抱っこしていました。

「子どもが起きないようにベッドに置く方法」を必死で検索したり、「夜泣きにはこれがいい」といわれる方法はマッサージから、寝る前のミルクの量の調節まで片っ端から試しましたが1つも効きませんでした。「ロッテのCMソングである『ふかふかかふかのうた』で泣き止む」と言われている方法まで試しましたけど、うちの子はまったく泣き止みませんでした(笑)。今でもトラウマというか、あの頃の夜のことは今でも細部まで思い出せるくらいです。

――睡眠が取れないのは本当にツラいですね。

かねもと:まるで拷問のようにツラかったです。眠っていないので日中あまりテキパキ動くことができなくて、「私はダメ人間なんだ」と感じていました。今なら睡眠が取れていないせいだと分かるのですが、当時はそれも分からないくらいツラかったですね。

◆ツラい気持ちを救ってくれた小児科医・森戸やすみ先生の存在

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――育児に関するさまざまな悩みが網羅されていて「こういうことで悩んでいる人もいるんだ」と気付かされました。どんなふうに内容を検討したのでしょうか?

かねもと:自分自身の経験もあるのですが、SNSでよく目にするお母さんたちの悩みを参考にしました。寝ない、食べない、子どもの発達の速さについては「皆さん気にしているんだな」と感じました。あと、役に立つ育児書を読んで項目作りの参考にしました。

 よく雑誌や育児書でテーマになっている「叱らない育児」や「イヤイヤ期対策」について、「この本だったらどう書くかな」と考えて選定したり、全体的にバランスが取れるようにしています。

 個人的には、「ママのイライラが赤ちゃんに伝わると泣く」と言われてイラッときた経験があるので、それについても育児書風にまとめてみました(笑)。

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――本書の監修を小児科専門医の森戸やすみ先生に依頼されたのはなぜでしょうか?

かねもと:私が以前から森戸先生のTwitterをフォローしていたんです。森戸先生は「帝王切開はラクをしてる」だとか「スマホ育児はよくない」といわれることが根拠のない母親への押し付けであることを、とても丁寧に解説されていて、著書(『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』)にもまとめられています。

 小児科で見かけた「スマホに育児をさせないで!」のポスターの印象が強かったのもあって、「お医者さんは、子育てでスマホを使ったりしてラクをしたらいけないという立場なんだろうなあ」と思っていたのですが、森戸先生は違ったんです。お医者さんにもそう言ってくれる人がいるんだ、と思いました。

 私はこの本を書籍化する際には、「一応、育児書なので絶対に小児科の先生に監修してほしい」と思っていたんです。そこで「森戸先生しかいないでしょう」という私の希望と、担当編集さんが森戸先生の担当でもあったというご縁もあってお願いしました。

 お医者様の言葉には、良くも悪くも育児中の親御さんはすごく影響されると思うんです。そういう意味でも、小児科医である森戸先生が監修してくださることで「こういう本もあってもいいんだよ」と言ってもらえたような気がしてとても嬉しく思っています。

◆「他にも起きている人がいる」と思えるだけで救われる

――かねもとさんは、夜泣きの赤ちゃんを抱えるママが集うLINEオープンチャット「オンライン夜泣き小屋」の運営をされていました(※現在は別の方が管理人を務めています)。ご自身のツラかった体験から取り組みを始めたのでしょうか?

かねもと:子どもの夜泣きで寝られないときに「今起きている人いそうだな」「誰かと話したいな」と思って運営を始めました。寝かしつけをしているときは誰とも話せないし、自分が赤ちゃんに対して全責任を負っているという孤独感があって「誰かと話したい」と強く思っていました。でも最初は、あれほど反響があるとは思いませんでした。

――チャットで印象深かったことはありますか?

かねもと:チャットなので、「(子どもが)寝ない」と一言呟くだけで、夜中の何時でもすぐに既読が付くんです。返信がなくても既読が付くことで「私の他にも起きている人がいるんだ」と実感できる。それはTwitterにもない機能なので、ひとりぼっちで深夜の寝かしつけをする親御さんたちは随分救われるだろうなと思いました。

 会話の内容は基本的に悩み相談が多いのですが、育児に関係のない芸能人や「推し」の話をしているのを見るのも楽しくて「息抜きになれば、話題は何でもいいんだよね」と思っていました。

――運営してみてどうでしたか?

かねもと:夜泣きの世話をするママたちが実際に集まることは、セキュリティや立地の面から現実的には難しいと思います。だからこそ、こういったオープンチャットに反響があったのだと思います。

 オンライン夜泣き小屋だけでなく、オープンチャットには他にもたくさんの育児をテーマとしたトークルームがあります。それだけ、みなさん誰かと話したいんですよね。『夜泣き小屋』のような漫画をSNSで発表するといつも大きな反響をいただくのですが、「誰かに話を聞いてほしい」と思っている親御さんたちが多いのでしょう。

<取材・文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】

ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。