【今日のにゃんこタイム~○○さん家の猫がかわいすぎる Vol.83】
「愛妻家で子煩悩で、いざとなったら守ってくれ、リーダーシップもある。タヌが人間の男だったら、私も絶対に惚れていました」
亡き愛猫タヌキくん(通称:タヌくん)への想いを、そう語るのは飼い主のぴっぷーさん(@natsumelone_puu)。
元野良猫のタヌくんは、その身をもって大切なものを守ることの尊さを教えてくれた、漢気溢れる猫でした。
◆ガレージに住みついた1匹の母猫
すべての始まりは、家のガレージにタヌくんの奥さん・トトちゃんが現れたこと。
「子猫ほどの小ささなのに妊娠していました。私は野良猫と接した経験がなく、家にはすでに2匹の猫がいたため、ひとまず妊婦用のフードをあげるようになったんです」
すると、タヌくんもご飯を食べにくるようになりました。
獣医師からは堕胎を勧められましたが、保護か堕胎かを決めかねている間に、トトちゃんは出産。
トトちゃんが近所の飼い猫だと耳にしたため親子の保護を見送っていたところ、西日本豪雨災害の夜、子猫たちは姿を消してしまいました。
「子猫を呼ぶトトの声がガレージで一晩中していたのを、今でも覚えています」
◆苦戦した保護活動…先にタヌくんを捕獲
その後も、毎日ご飯をあげながらトトちゃんを見守っていると、再び妊娠し、出産。同じ思いはしたくなかったため、ボランティアさんに協力を依頼し、子猫を保護。しかし、警戒心が強いトトちゃんを捕まえることはできず……。
すると、翌春にもトトちゃんは妊娠し、出産。再び子猫は保護しましたが、トトちゃんの捕獲はまたしても上手くいきませんでした。
「知能戦でも持久戦でも完敗。トトの保護を最優先に考えていたので、タヌは後回しでした。当時の私は大人のオスの野良猫が怖かったし、オス猫なら外でも生きていけると思っていたんで」
しかし、猫風邪により血の混じった鼻水を出すようになったタヌくんを見て、先になんとかしてあげたいと思うようになりました。
そこで捕獲器を設置すると、驚くほどあっさり捕まえることができました。
◆2ヶ月後に脱走し、家族の元へ
タヌくんは保護して3日後には、おうちでご飯を食べ、トイレもするようになりました。
しかし、人馴れはまったくせず、昼夜問わず、大音量で鳴きつづけました。
「外にいるトトと呼び合っていたんです。タヌを保護した後、数匹のオス猫が家の周りをうろつくようになったので、外の様子を心配していました。ストレスで毛を掻きむしり、食べているのに痩せてきて……」
そして2ヶ月後、タヌくんは器用に窓を開け、脱走。トトちゃんと再会を果たし、翌日から、またぴっぷーさん宅にご飯をもらいにくるようになりました。
一方、トトちゃんはタヌくんのいない間に他のオス猫の子を妊娠。子猫が生まれると、タヌくんは自分の子ではないのに甲斐甲斐しくお世話するようになりました。
「一家は、うちのガレージをエサ場・寝床として使っていました。トトがパトロール中は、タヌが子守り。仲睦まじい姿を見て、今度こそ全員保護したいと強く思いました」
◆妻子と居場所を守り抜いたタヌくん
そんな時、タヌくんの脱毛を発見。それは、縄張りに入ってきたオス猫をエサ場から追い出そうとしてできたものでした。
そんなある日、激しい喧嘩の声を耳にしたぴっぷーさんは庭へ。そこで見たのはご飯の皿、段ボールハウスがある場所や妻子を守るようにして、オス猫と対峙するタヌくんの姿でした。
「タヌは背後に守るものがあるので逃げることができないし、負けるわけにもいきません。立ち位置を変えず、相手に向かっていきました」
その姿に心打たれ、ぴっぷーさんは加勢。オス猫を追い払いました。
「自分より体格が大きい相手と何度も取っ組み合いをし、タヌはボロボロでした。けれど、決して背中を見せずに戦い続けた。あの姿を思い出すと、今でも涙が出ます。タヌは、漢の中の漢でした」
その後、ようやく一家の保護に成功。それは、初めてトトちゃんを見かけてから1年半後のことでした。
「我が家は先住猫2匹とタヌ、トト、4匹の子猫たちという大所帯になりました。タヌとトトは猫エイズ陽性でした。4匹の子猫は2匹を里子に出し、エイズキャリアの2匹がうちの子になりました」
◆食事は必ず妻子の後に…愛妻家で子煩悩
本格的に迎え入れた後も、タヌくんの人間への警戒心は薄れません。
しかし、ぴっぷーさんは健康でいてくれたら、それでいいと思い、無理に人馴れさせようとせず、遠隔カメラでこっそり様子を観察。人がいない部屋の中でウロウロ、ゴロゴロする姿を愛らしく見守っていました。
家猫になっても、相変わらずタヌくんは妻子に優しく、ご飯を食べるのは、いつも最後。
「いっぱい食べている子猫がいたら、頭を軽くポンと抑えて他の子に譲るよう促していました。好きすぎるあまり、トトがよろけるほどタヌに強く体当たりしても、避けることなく、トトの好きにさせてあげていましたね」
◆エイズを発症。抜歯手術後は補液スタート
そんな生活を続け、保護から2年ほど経った頃、タヌくんは少しだけ人慣れし、人間が撫でることができるようになりました。
「大きな図体のボス猫が、おずおずと頭をくっつけてくる姿は堪らなくかわいかったです」
微笑ましい日々はずっと続くように思われましたが、2021年、タヌくんはエイズを発症。
口内炎で、ご飯が食べられず、見る見る痩せていったため抜歯手術を行いました。
手術後はご飯を食べられるようになったものの、もともとあった心臓肥大や猫風邪のぶり返しも関係していたのか、痩せていく一方。ぴっぷーさんは、残っている歯の抜歯を獣医師と相談。通院のストレスを考慮し、自宅で補液をし始めました。
◆トトのそばで、コタツの中で眠るように…
そんなある日。トトちゃんとくっつきながら過ごしていたタヌくんは、こたつの中で排便。
「おそらく、もうトイレまで行けなかったのでしょう。それでも、補液をした後は歩き、撫でてあげるとゴロゴロと嬉しそうでした」
心配だから一緒に寝たいと思ったものの、トトちゃんがまだぴっぷーさんに慣れていなかったため、夫婦水入らずで過ごせるよう、おやすみと言い、就寝。明け方、家族から、タヌくんがこたつの中で亡くなったことを聞かされ、悲しみに暮れました。
「トトは驚いたようで、亡くなった直後はコタツの外にある猫ベッドで、じっとしていました。でも、最期の時にトトがそばにいてくれてよかったです」
◆人生で初めて出会った「敬える存在」だった
ぴっぷーさんは大好きな夫を亡くしたトトちゃんのメンタルを心配していましたが、目の前で亡くなったことで事実を受け入れられたのか、思っていたより回復は早かったそう。
「タヌには、もっと長生きしてもらいたかった。何が正解だったのかは分からないけれど、保護しなかったら、きっと夏は越せなかったと思う。その猫生は幸せばかりではなかったけれど、あったかい家の提供で、少しでも恩返しができていたら嬉しいです」
そばに温もりを感じなくなった今でも、ぴっぷーさんにとってタヌくんは愛しく、尊敬できる存在です。
「今まで人間に対して、偉大だなと感じたことはありませんでしたが、タヌは心の底から敬える漢。偉大、尊敬、大黒柱、武士道などの言葉を体現してくれました」
タヌくんにそっくりな子どもたちと、彼が心から想った奥さんを大切にしながら、ぴっぷーさんはこれからも天国へ旅立った小さな家族を愛し続けていきます。
<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291