初めて新生児を育てるとき、離乳食に悩んだとき、イヤイヤ期が始まったとき――。

 悩みや疑問解決の糸口にと「育児書」を手にとったことのある人は多いのではないでしょうか。しかし、育児書どおりに行かず、「余計に落ち込んだ…」という人も少なくないのでは?

『世界一役に立たない育児書』(白泉社)
『世界一役に立たない育児書』(白泉社)
 そんなパパ・ママたちの心にそっと寄り添うような書籍『世界一役に立たない育児書』(白泉社)が2022年9月6日に発売されました。

 著者のかねもとさんは、赤ちゃんの夜泣きに悩むママを描いた『夜泣き小屋』や、保育園の待機児童問題をコミカルに描いた 『伝説のお母さん』(KADOKAWA)など、これまでにも子育て中のママに寄り添う作品を発表してきました。

 本書は食べムラや少食の悩みに対し「盛り付け方を工夫したり、特別なお皿を用意したりして、(中略)子どもは大喜びするけど食べません!」「子どもは自然と食べません!」と断言したりと、子育てのリアルが描かれています。そして小児科専門医である森戸やすみ先生が監修&推薦もしている、れっきとした“育児書”なのです。

 今回はかねもとさんに本書の狙いや、読者のママ、パパたちへの思いを聞きました。

◆「育児の真実だけを描いてみよう」と思い立った

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――「世界一役に立たない」というタイトルですが、本書に救われるママは多いと思います。どうやって企画がスタートしたのでしょうか?

かねもとさん(以下、かねもと):私は2016年に2人目を産んだとき、Twitterを始めたんです。フォロワーさんと育児についてやり取りをしていると、「アドバイス通りにやっても育児がうまくいかない」「育児書通りにいかない」という声が多かったんです。それに、妊娠中のつわりや、体調不良についても結局は「産まなければ治らない」ことは普通の本にはあまり書かれていません。

 そこで「育児の真実だけを描いてみよう」と思って「世界一役に立たない育児書」というタイトルで画像を投稿したのが最初でした。そこから1~2年経ってから編集者さんに「これを連載して書籍にしませんか?」と声をかけていただいたのが、本書のきっかけになりました。

――どんな狙いがあったのでしょうか?

かねもと:古い習慣や著者の主観で書かれた育児書もあるので、そういうものとは違う育児書になればいいなと思って書きました。

 赤ちゃんは一人ひとり違うので、医師がエビデンスに基づいて紹介する育児法でも上手くいかないことがあります。それは当たり前のことなのですが「どうして上手くできないんだろう」と傷ついてしまう人もいます。

 頑張った結果、上手くいかないと、何もやらないときよりも傷つくのではないでしょうか。「この通りにやったら上手くいくかも」と期待する分、それが外れた時に努力が無に帰すような気がするので、落ち込みが激しくなることがあります。アドバイス自体が悪いわけではなく、それで成功する人もいると思うのですが、「やっぱり自分はダメだ」と思ってしまう人に「そんなことないよ」と言ってあげたいと思いました。

◆「そのツラさは今だけです」と言われてツラかった

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――執筆にあたってどこに配慮しましたか?

かねもと:一番配慮したのは、「そのツラさは今だけです」「あとでいい思い出になりますよ」といった「今のツラさ」をないがしろにするような書き方を控えることです。

 私は1人目の子どものトイレトレーニングがなかなか進まなくて悩んでいたのですが、「大人になってもオムツしてる子はいないから」と言われたり、お箸の練習でも「小学校になったら皆使えるでしょ」と言われてツラかった経験があって。確かにその通りなのですが、当時はそういうことを言われる度に、今のツラさのやり場が無くなり、追い詰められているような気がしていました。

 もう1つ、妊娠・出産や母乳に関すること以外は、顔のアイコンを男女両方にして、文章も「ママ、パパ」どちらかに限定せず「親御さん」と書くようにして対象がママだけにならないようにしました。料理やトイレトレーニングの悩みを相談しているのがパパだったりしています。

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――確かにパパ、ママどちらの立場でも読めるようになっていますね。

かねもと:いろいろなご家庭があるので「誰でも当てはまるようにすること」はむずかしいですが、できるだけ多くの方に当てはまるように心がけたつもりです。

◆「3歳児神話」「スマホ育児」は“新解釈”を紹介

――本書では母乳とミルクなど、比較して語られがちなテーマをポジティブに表現されていたのが印象的でした。

かねもと:「母乳で育てないと〇〇になる」という情報があったりしますが、「初めてのお子さんを育てている親御さんは絶対気にするだろうな」と思います。「比較して優劣を決めるのではなく、家庭にベストな形で」と思っています。

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――「3歳児神話」や、「スマホ育児」の新解釈も面白かったのですが、書くときはどんなことに配慮したのでしょうか?

かねもと:「子どもは3歳までは母親の手で育てないと,子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」といった「3歳児神話」は厚生労働省のホームページ(平成10年版 厚生白書)でも否定されています。かなり昔の研究結果ですし、よく読むと「母親に限らず特定の保護者がずっと一緒にいてくれればいい」くらいのニュアンスだったりするんです。

 でもそれが今も「子どもは3歳までお母さんと一緒にいないとダメ」みたいな脅し文句として使われているところがあります。だから私が書いたように「3歳くらいまでの子どものかわいさ、神話じゃない?」というような意味になればいいなという願いを込めました。

「スマホ育児」についての項目は、「子どもにスマホは絶対ダメ」という考えの方の人にとっては、私の書いた内容は、「スマホOK」という主張が強いと感じられるかもしれません。でも今は小学校でタブレットを使って授業をしたり、早い子はスマホを使って友達とコミュニケーションをとったりする時代です。だったら「小さい頃から親が使い方を教えておいたほうがいいのでは」と思います。

◆育児で「ラクしようとするな」という風潮に思うこと

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――スマホに関しては、上の世代からの批判が特に強いかもしれません。

かねもと:昔はテレビやゲームが批判された時代があったと思います。親世代が新しいものの使い方がよく分からないから、子どもに頭ごなしに「ダメ」と言ってしまう、それが今はスマホなのだと思います。

 心配な気持ちは分かるのですが、「本当にスマホは悪者なのかな?」という疑問が私の中にあったのと、今まで育児においてスマホをかばうような記事を見たことがなかったのでぜひ書きたいと思いました。

 何事もやらせ過ぎは良くないと思うのですが、それはスマホも勉強もスポーツも同じだと思います。使う時間を守ったり、適度に使えば大丈夫ではないでしょうか。

 それなのに、以前小児科で「スマホに子守りをさせないで!」というポスターが貼ってあるのを見たんです。私自身「そんなこと言わないでよ」と思ったし、コロナ禍でスマホやタブレットに頼ることが多い中、あれを見た親御さんはツラくてしょうがなかったんじゃないかと思いました。

――子育てでは「ラクしようとするな」という圧力を感じることがあります。

かねもと:粉ミルクを使うことを「ラクをしている」と言われたりします。粉ミルクは毎回哺乳瓶を消毒したりして作るのが大変だし、後片付けもあるし、全然ラクじゃないのですが、そもそもラクをしたとして何がいけないんでしょうか?洗濯を手洗いではなく洗濯機を使っても何も言われないような時代だし、他の家事もどんどんラクになってきているのに、育児だけは責められがちです。

 育児をしていると、小児科のポスターや育児雑誌の見出しなど、遠回しに責められているように感じる文面に遭遇するのを避けられません。それを真に受けたり、「今日も動画ばかり見せちゃった」と自分を責めるよりは、子どもと一緒にスマホやタブレットの使い方を楽しく勉強したほうが有意義ではないかと思っています。

<取材・文/都田ミツコ>