【BARのマスターに聞く! 第9回】
こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。
30代、40代、と大人の階段を登っていくと、当然ながら結婚する人が増え、恋愛とは距離ができることがほとんどです。そんな中でも、ときどき「いつまでも恋愛現役!」という勢いのままに、恋や愛を謳歌(おうか)している人もいます。
とても素敵なこととはいえ、中にはハタから見てちょっと痛々しいタイプの恋愛を続ける男女もいるような。それってどうなの!? ということで、恋愛相談を受けることも多い、渋谷のワインバー「BAR BOSSA(バールボッサ)」店主で作家の林伸次さんに、筆者の思う大人の痛々しい恋愛について聞くと、意外とポジティブな話が出てきます。
◆大人になっても“痛々しい恋愛”をしている人とは
おおしまりえ(以下、おおしま):大人からの恋愛って、素敵だなと思える一方で、ちょっとそれは…と思うような痛々しいタイプもあると思うんです。
私の周りだと、ある40代女性は、彼への心酔がすごくてSNSがポエム化しちゃってるケースがありました。気持ちが若くて純粋だなあとは思うんですが、一方で「いい大人がどうした!?」って思ったりしています。
林さんの周りにも、そういったちょっと痛々しい恋愛をされている人っていますか?
林伸次さん(以下、林):いますね。でもね、僕はもうそういう恋愛は一種の中毒だと思っています。タバコやお酒と同じで、恋愛中毒だろうなと。
◆盛り上がってパッと破局する、一連の快感が忘れられない
林:というのも、こちらはあきれ気味で見ているのですが、本人は周りの目は全く気にしていなくて、ただただ楽しそうなんです。「こんな人と知り合って~デートはこうで~こんな風に誘われて~」とかって、いつも言っているんです。
これってお酒を飲んでワーっと盛り上がって失敗してっていうのと同じだなって。あれはあれで、本人が楽しいなら良いのかなと思います。
おおしま:「恋愛依存症」という言葉がありますが、そこまで言わないにしても、お酒やタバコと一緒で中毒性があるというのは納得です。
林:もう脳内に回路ができている感じだと思います。ドキドキした出会いがあってワーッと盛り上がって、パッと破局する。その一連の快感が忘れられないんですよ。
本人もそれが分かっているようで、自分でも「恋多き女」って言っています。見ていて時にすごく痛々しいこともあるんですが、それはそれで楽しんでいますよ。結婚しようとか安定しようとかって思ってないのが、逆に清々しいですね。
◆痛々しい恋愛も、突き抜けてしまえば清々しい
おおしま:そこまで行くと、キャラとして確立されていますね! そう考えると、いわゆる結婚適齢期頃の痛々しい不倫などの恋愛では、結婚とか出産を口にしながら矛盾するように行動していた人が多かった気がします。
そんな矛盾が、聞いているほうとしては後味が悪いというか、あきれる感覚があったかもしれません。それが50代くらいになってくると、逆に突き抜けて聞いている方も気持ちいいのかもしれませんね。
林:そうです。あれはあれでひとつの生き方です。今ってすごい時代で、いくつになってもマッチングアプリで出会えるらしいですね。
その女性はアラフィフですが、10歳以上年下の男性から会いたいって言われて、関係が始まることもあると言っていました。その出会いがどこまで本気のものかは定かではありませんが、アラフィフでもモテているというのは間違いありません。
◆不仲自慢! 大変自慢! が日本の婚姻率をサゲている?
おおしま:痛い恋愛は50代くらいになると、キャラとして定着するという結論が見えたところで、逆に大人同士のいい恋愛や夫婦関係について、考えていきたいと思います。
そもそも日本は、夫婦になったら恋愛卒業みたいな側面がありますよね。「いつまでもイチャイチャするのは恥ずかしい」的なノリといいますか。
林:日本の夫婦って、「僕たちは仲がいい」っていうのを表明しない文化がありますよね。これって、僕はあまり良くないことだと思っています。本当は結婚しても仲が良い夫婦って、日本に沢山いるはずなのに、大体の人が「私たち夫婦は上手くいっていません」て表明しがちです。なんだかすごく寂しいですよ。
おおしま:Twitterとかでは、夫婦のノロケより愚痴が圧倒的に多いですからね。ノロケることで周りを白けさせたり、自慢に聞こえたりしてしまう可能性があるから、あえて夫婦生活のネガティブな話だけ発信するって人は結構いると思います。
◆結婚生活は、もっとポジティブな情報で溢れていい
林:僕は妻とすごく仲が良いので、積極的に良い部分を言っています。みんながそうやって言うようにしたら、結婚っていいかもって思う人も増えるかもしれないですからね。あと、お父さんとお母さんが幸せそうにいつも仲良くしていると、子どもにも結婚や夫婦のイメージがポジティブに伝わりますよね。
だから結婚や夫婦生活はもっとポジティブな情報で溢れていいし、いくつになっても夫婦は手を繋いで歩いて欲しいです。
おおしま:私は最近Twitterで、子どもと夫のポジティブな話しかしてないんです。でも、そういう発言をするようになって、初めて「嬉しいことや楽しいことをそのまま書くのが恥ずかしい」っていう感覚に気づきました。
◆ついオチをつけたり、謙遜してしまう自分に気づく
おおしま:私は今、夫ともすごく仲が良いし、産後うつとかガルガル期もないし、子どももよく食べよく寝る性格なので、楽しく子育てができています。と、こういう話を書こうと思ったら、心にものすごいブレーキがかかって、その結果オチをつけたり、謙遜(けんそん)気味に書いたりしてしまう自分がいます。これは私の中の“負け組病”だなって思って、絶賛気をつけているところです。
林:それはちゃんと書いた方がいいですね。今ってネガティブな情報が多すぎますから、それを読んで「結婚って大変!」「子育てってシンドそう」って感じる人も多いと思うんです。ポジティブな情報が目に入ることで、「結婚っていいな! 子育てって楽しそうだな」って思う人が増えたらいいですよね。
【林伸次さん】
渋谷のワインバー「BAR BOSSA(バールボッサ)」店主。中古レコード店、ブラジル料理店、ショット・バーで働いた後、1997年「BAR BOSSA」をオープン。バーを経営する傍ら著作家としても活躍している。著書に『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)など。
<取材・文/おおしまりえ 写真/林紘輝>
【おおしまりえ】
水商売やプロ雀士、素人モデルなどで、のべ1万人以上の男性を接客。現在は雑食系恋愛ジャーナリストとして年間100本以上恋愛コラムを執筆中。Twitter:@utena0518