「あなどり難し…小栗旬……」
これが9カ月にわたり大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合、日曜夜8時~ほか)を観た筆者の感想でした。もともと、歴史にはとことん疎くて、大河ドラマは途中で脱落すること多々でしたが、本作は全話楽しく観ています。
どの登場人物も魅力的に描かれており、物語の展開は不勉強な筆者にも分かりやすく面白い本作。そのなかで改めて際立つ、主演・小栗旬(北条義時役)の力量の凄まじさについて、過去の出演作とともに語りたいと思います。
◆常に95点をとり続ける、小栗旬という俳優
筆者が小栗旬をはじめて認識したのは、いじめられる生徒・吉川のぼる役で『GTO』(1998年、フジテレビ系)に15歳で出演したとき。彼に対して「演技が上手いイケメン(当時、俳優とアイドルの区別がついていなかったので)」と感じたのは、『Summer Snow』(2000年、TBS系)で、主人公(堂本剛)の難聴の弟役を演じたときでした。
そこから20年以上、数えきれないほどのドラマ・映画、そして舞台にも出演してきた小栗。「まーきの」でいまだイジられる『花より男子』花沢類役で一世を風靡(ふうび)し、人気漫画の映像化には欠かせない人物として映画『クローズ』『ルパン三世』『銀魂』などで幅広い役柄を演じてきました。
◆「演技が上手いイケメン」からの脱却は
驚くほど多彩な作品に出演している小栗ですが、一方で私のなかの印象はずっと「演技が上手いイケメン」。「この役はぜったい小栗旬にしかできない!」と感じさせるthe代表作は見出せていませんでした。
しかし、そう思わせることこそが小栗旬という俳優の凄さなのだと思います。なぜなら、彼の出演する作品の多くが面白いと評価されているから。
小栗は主演であっても、脇役であっても、作品一つひとつのなかにとても馴染んでいるのです。その存在を主張し過ぎるでもなく、その場面・シーンに溶け込み物語のメッセージを伝えてくれる。そう。彼は小栗にしかできない演技をあまりに自然に表現するからこそ、そのことを観る側に押し付けてこないのです。実にバランス力のある俳優であり、だからこそ小栗の出演する作品の完成度が高いのではないでしょうか。
◆受けの演技が秀逸だった『鎌倉殿の13人』前半戦
『鎌倉殿の13人』でも、小栗のバランス力は遺憾なく発揮されています。
源頼朝を演じた大泉洋をはじめ、坂東彌十郎、佐藤浩市、宮沢りえ…と豪華な実力派・個性派の俳優が多く登場してきた本作。描かれている時代背景もあり、毎話のように登場人物が亡くなったり、失脚したりします。物語から消えていく人々は皆とても魅力的に映り、その人がいなくなる回は、それぞれに話題となりました。
その話題性は、主演の小栗を上回っていました。しかしこれは、主人公である小栗が共演者をよく観察し、彼らの呼吸に合わせて演じていたからこそではないでしょうか。三谷幸喜の脚本力・個々の役者の力量ももちろん前提にあるものの、小栗の「受けの演技」により各登場人物に一層光が当たり、より輝いていたのだと思います。
◆大泉洋・頼朝の“代役”を完璧に演じた逸話も
そんな小栗の観察力の高さは、10月9日に放送されたNHK特番「『鎌倉殿の13人』応援感謝!ウラ話トークSP~そしてクライマックスへ~」でも明かされました。大泉洋演じる頼朝の“代役”を、急きょ演じた回があるというのです。いそいそと階段を上るその後ろ姿は、大泉の歩き方の癖を見抜いて表現しており、大泉本人すら別人と気づかなかったとか。そんなエピソードからも、小栗の高い観察力と表現力が伺えました。
◆前半と後半で別人!大河の真骨頂「人の一生」を演じきる
最後に強調しておきたい、小栗の演技の凄さ。それは、人の成長と変化を繊細に表現していることです。前半の義時(小栗)は、主に頼朝(大泉)や周囲に振り回されることが多く、純朴で青臭さも残る青年を、実にリアルに演じていました。
しかし義時は、頼朝の死後、徐々に鎌倉を守るために犠牲を厭(いと)わない人物になっていきます。そのまるで別人のような変化を、小栗は実に丁寧に表現しているのです。
多くの人たちの想いを受け継ぎながら、自分のなすべきことを見つけ、戸惑い苦悩しながらも粛清(しゅくせい)していく姿。その変貌ぶりは、顔つきや眼光の変化からも伺えます。差異を示している要素の大半は、メイクや衣裳の違いではなく、小栗の演技力に他なりません。
番組公式HPの写真で、第1話と第39話の義時を比較すると、とても同一人物とは思えないのですが…物語の過程を観ている視聴者には納得の表現なのです。
◆義時の生涯をどのように締めくくるのか
いよいよ『鎌倉殿の13人』は、主人公・北条義時(小栗)と後鳥羽上皇(尾上松也)が戦うクライマックス「承久の乱」へ。小栗がどのように義時の生涯を締めくくるのか。残り10話が今から楽しみでなりません。
<文/鈴木まこと(tricle.llc)>
【鈴木まこと】
tricle.llc所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201