おいしいから大丈夫という時代は、もう終わり。

船橋屋と言えば、くず餅。和菓子で唯一の発酵食品です
船橋屋と言えば、くず餅。和菓子で唯一の発酵食品です
 和菓子の老舗店「船橋屋」の渡辺雅司社長(当時)が引き起こした“逆切れ恫喝”問題と辞任劇が物議をかもしています。

◆社長の“逆ギレ恫喝”動画が拡散

 起点となったのは2022年8月起きたという自動車の交通事故。9月下旬頃から渡辺氏が事故の相手を恫喝する動画がSNS上で広く拡散されたことをうけ、9月27日には船橋屋公式サイト上にて、「事故並びに現場での対応は概ね事実であり、弊社としても到底容認できるものではない」との文書を公表。渡辺氏は29日の取締役会で辞任し、新社長が就任しました。

 多くの人々に大きな衝撃を与えた、記憶に新しい出来事でしょう。同店の和菓子を食べたことがない人も、強い不快感を抱いたに違いありません。企業トップという立場以前に、人としてあってはならない言動に満ちていたことは確かな事実なのです。

 私は幼少期から船橋屋のくず餅を食べて育ちました。大人になった今も“好きな和菓子ベスト5”には入るほどで、亀戸にある本店に通い続けているファンの一人でもあります。それゆえに、今回の問題は本当に残念でした。特に最近の船橋屋が生み出す新商品は独創的でありながらも唯一無二のおいしさが印象的なのです。

 そこで今回は、船橋屋の新しいお菓子をご紹介しながら、「これからの時代に愛される和菓子の条件」について考えていきたいと思います。

◆1.親近感を洋菓子から取り入れていること

くず餅プリン(399円、以下税込)、かぼちゃくず餅プリン(453円)
くず餅プリン(399円、以下税込)、かぼちゃくず餅プリン(453円)
 船橋屋の創業200年を記念して誕生した、新しい和の形を提案するお店「こよみ」。そこで人気ナンバーワンなのが、「くず餅プリン」です。

 くず餅の原材料となる「発酵小麦澱粉」を生かしながら洋菓子のエッセンスを取り入れた蒸しプリンで、季節限定でかぼちゃ味も登場しています。

 和スイーツがヒットする条件は、ビジュアル、価格、親近感などが複雑に関係していますが、親近感を洋風で提案することは、若い世代から愛される秘訣といっても過言ではありません。

◆2.季節感などの変化を楽しめること

恵みの秋のフルーツあんみつ(670円)
恵みの秋のフルーツあんみつ(670円)
 くず餅と並んでクラシカルな和菓子と言えば、「あんみつ」。求肥の代わりにくず餅が入っているのが船橋屋流です。

 そして定番和菓子のフレームの中で季節感を味わえるのは和菓子の強み。秋の季節には柿やブドウ、栗と栗あんが添えられています。

 季節感の演出はいつの時代も変わらない提案。変化の中にも揺るがない姿勢を見せていくことは、和菓子だからこそ心に響く最高のメッセージにつながります。

◆3.濃厚クリーミーであること

もちり(450円)
もちり(450円)
 こよみで指名買いするファンも多いのが、「もちり」。発酵小麦澱粉に生クリームや牛乳を合わせて練り上げられた新感覚スイーツで、黒蜜味がリニューアルして期間限定で登場しています。

 和菓子のトレンドも他ジャンルと同様に“濃厚さ”が歓迎される傾向にあり、もっちりとした食感も、濃密さを味わう体験とも言えます。

 こだわりの食材をシンプルに使いながらも、どこかクセになるような重厚感のある味わいは今後もますます喜ばれることでしょう。

◆4.健康効果を手軽に味わえること

飲むくず餅150g(375円)。大容量タイプの520ml(1300円)もある
飲むくず餅150g(375円)。大容量タイプの520ml(1300円)もある
 くず餅が和菓子で唯一の発酵食品であることを実感しやすい「飲むくず餅」が登場しています。

 船橋屋のくず餅を食べると何故か調子が良い!というお客の声から生まれたくずもち乳酸菌が入ったドリンクで、原料は水、米、乳酸菌のみ。常温保存が可能で、無添加、砂糖不使用、グルテンフリーといったヘルシーさを、手軽な飲料で実現させている点が成功する条件のように感じます。

 同店ではドリンクの他にサプリメントも発売しています。継続しても実感がない時代はもう終わり。安心かつ手軽に取り入れて健康効果を実感できるような食品がますます注目されていくに違いありません。

くず餅は1人分から購入可能になっている
くず餅は1人分から購入可能になっている
 最後に……。船橋屋のくず餅は、個人的には日本一のおいしさであると思います。しかしながら、老舗の歴史や商品へのこだわりと並んで重視されているのが、お店(企業)の姿勢や情報発信力。

 おいしいものを作り続けているから大丈夫という社会ではなくなっていることを、今回の船橋屋問題で再確認させられたように思います。新社長には創業家ではない執行役員企画本部本部長だった神山恭子氏(40)が就任。船橋屋の今後をじっくり見守っていきたいと思います。

船橋屋亀戸天神前本店
船橋屋亀戸天神前本店
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>

【スギアカツキ】

食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12