親との同居には、いろんなメリットもありますが、同時にデメリットもあります。たいていは譲り合う気持ちを持つことで良好な関係が築けるものですが、無意識の内に自分本位な行動をとってしまい、ぎくしゃくすることも少なくありません。今回は、同居する嫁と義父との間でおこったエピソードです。

◆大豪邸で義両親と同居

「義父は少し気難しい人なんですが、義母が理解のある仲介役となってくれていて、なんとかうまくやっています」

大豪邸で義両親と同居
写真はイメージです。(以下同じ)
 そう語るのは、専業主婦の咲奈さん(仮名・28歳)。

 咲奈さんは夫との結婚を機に義理の両親とも共に暮らし始め、現在1年半になるそうです。現在暮らしている家屋は、築年数こそ古いものの大豪邸の部類に入る住まいで、部屋数は多いそうなのですが、リビングやキッチンは共有だといいます。

 普段は各々自分達の時間を大切に暮らしていて、食事や団らんの時は笑いが耐えない温かみのある家庭に、咲奈さんも不満なく日々を過ごしていたそうです。

◆エアコンの温度を下げる義理父にイラッ

 しかし、そんな中でも毎年秋になり少しずつ気温が下がり始めると勃発する問題があるのだと咲奈さんは言います。それはいつもみんなが集うリビングのエアコン温度設定にまつわるものなのだそう。

義父と意見が合わないあること
「実は、義父極度の暑がりなんです。そのせいか、季節が秋に移り変わってエアコンいらずな気温にも関わらず、義父は冷房のボタンを押すんですよ」

 秋と言っても、日中はまだ暖かさが残っているので、義父の冷房攻撃になんとか耐えることができるそうですが、さすがに日が暮れると一気に気温が下がってきてしまい、咲奈さんはいつも膝掛けを持ち出して防寒対策をする始末。おまけに、お酒が入った時の義父は話がやたらと長く、かなりの苦痛とのことです。

「去年の秋にはたまりかねて義父に温度を上げてもらう様やんわり伝えたんです。そうしたら少しは改善されたんですけど、それも束の間のもので、翌日からはいつも通りのちょっと寒いリビングに逆戻りしてしまったんです」

◆義母も夫もお手上げ

 咲奈さんは部屋の温度について義母に伝えたところ「お父さんこれだけはどうしても譲らなくて…ごめんね」と、困った顔で謝られるばかりだったそうです。咲奈さんの夫に至っては、もう諦めているのか、今更言っても無駄だとの一点張りだったといいます。

義母も夫もお手上げ
「寒いのはさ、着込んだりできるでしょ? でも、暑いのはねぇ、エアコンしか頼れないからね。昔から僕は暑がりなんだよ。情熱派だからかな」

 義父は冗談混じりで持論を展開するだけで、咲奈さんの困惑には全く気づかない様子。ただ、咲奈さんには例年にはない、どうしても譲れない理由があったそうです。

◆室温を上げて欲しいもう一つの理由

「実は、今、第一子を妊娠中なんです。夫とも相談し、安定期に入るまでは周囲に伏せることにしていたんです」

 元々冷え性な上に、それが原因で流産などしたら取り返しがつきません。咲奈さんはなんとしてでも義父に理解してもらいたい気持ちでいっぱいでした。

 その夜、義母に妊娠していることを伝えた咲奈さん。それを聞いた義母は顔色が変わり、自分がなんとかすると約束してくれたそう。

◆やっと義母から義父へ注意

 次の日の夜、いつものようにリビングで食後の団らんが始まり、咲奈さんはエアコンが少し効いていることを察し、部屋の片付けをすると言ってリビングから出ようとした時、義母が「咲奈ちゃん、フルーツ用意したから、少しだけ食べていかない?」と声を掛けられた咲奈さん。

「さっきより冷んやりしたリビングだったので、断ろうと思ったんですが、せっかく義母が用意してくれたので、少しだけみんなと時間を共にしてから自室に戻ろうとしたんです」

やっと義母から義父へ注意
 少し諦め顔の咲奈さんがソファに座りみんなと一緒にテレビを見ていると、突然義母が義父に向かって強い口調で話し始めたそうです。

「パパ、ちょっといい? 咲奈ちゃんはおめでたなの。あなたの孫ができたのよ。咲奈ちゃんの体のこと、お願いだから考えてあげて」

 さっきまでテレビをみて大笑いしていた義父が、急にテレビの音量を下げて、咲奈さんのことを目を丸くしてじっと見つめていたそうです。

◆義父の変わりようにびっくり

 しばらくして義父はエアコンのリモコンに手をかけ「ピッ」という音をさせました。どうやらエアコンのスイッチを切ったそうです。

「咲奈ちゃん、ごめんね。赤ちゃんのために何でも協力するからね。私が馬鹿だった」

 それ以降、義父は薄着をしたり工夫をしたりしながら咲奈さんに合わせた温度設定に協力してくれるようになったそうです。

「まあ、年齢のせいもあるかもですが、お義父さん、最近では以前よりも暑さを訴えなくなったんです。初孫のことが気になっているんですね、きっと」と、咲奈さんは嬉しそうに語ってくれました。

―シリーズ「秋のトホホ」―

<文/浅川玲奈>

【浅川玲奈】

平安京で生まれ江戸で育ったアラサー文学少女、と自分で言ってしまう婚活マニア。最近の日課は近所の雑貨店で買ってきたサボテンの観察。シアワセになりたいがクチぐせ。