熱海にある「猫に会えるかもしれないバー」に住んでいるのは、超個性的な猫たち。『浮世絵猫、おどる! バーにいる保護猫トリオの日常』(KADOKAWA)は、バーMuddy Catの飼い猫、てんてん、ミチル、タビ子の日常を切り取った写真集です。著者の熱海Muddy Catさんが撮りためた5万枚以上の中から、ツイッターでバズったものを中心に掲載。今やツイッターフォロワー数は7万人という、スター猫たちです。

写真は本書より(以下同じ)
 可愛いだけに収まらない、芸術性も感じられる華麗な舞踏(猫たちはいたってナチュラル)をぜひとも堪能してください。

◆てんてん、ミチル、タビ子はこんな猫

 MuddyCatの看板役者ならぬ看板猫、3匹を本書からご紹介します。

てんてん、ミチル、タビ子はこんな猫
(左から)てんてん、ミチル、タビ子
 てんてん(店長)は2016年3月生まれ(推定)。唯一の男の子で体重は5kg、身体も大きく力も強いのに一番繊細で怖がりです。実はとても甘えん坊なのだとか。

 ミチル(広報担当)は2018年6月生まれ(推定)。個性的な柄にひと目惚れした熱海MuddyCatさんが、里親募集サイトから引き取りました。明るく天真爛漫な女の子です。

荒ぶるタビ子
 タビ子(接待係)は野良猫時代が長く年齢は不詳の女の子。2019年11月に熱海の保護猫団体「NPOくすのき」から譲り受けました。3匹の中では一番人に慣れています。

◆浮世絵之猫、現代にあらわる

世絵之猫、現代にあらわる
 浮世絵に描かれた猫を、誰もが一度は見たことがあると思います。とりわけ猫を題材にした作品を数多く残したのが歌川国芳です。精緻でありながらコミカルに描かれる猫は、まるで生きているよう。

 そんな浮世絵の世界が、熱海の世に舞い降りました。てんてん、ミチル、タビ子、3匹が織りなす日常は、可愛くておもしろく、何よりも小粋。それはもちろん、飼い主の愛情ありきです。

◆1枚の写真が話題に

きっかとなった1枚の写
 Muddy Catがオープンしたのは2018年。ご夫婦で東京から熱海へ移住したので、友人知人はいませんでした。熱海駅から徒歩25分、繁華街からも外れた場所に、お客様がまったく来ない日もあったといいます。ある日、お店の宣伝のためにはじめたツイッターに、1枚の写真を投稿しました。それが「ねこじゃらしで遊ぶミチル」です。

 まるで浮世絵の猫又のようなミチルに、河鍋暁斎の絵と並べてアップしたら、なんと「イイネ!」が10万超。テレビやネットニュースが相次ぎ、お客様も増えて……、とミラクルが続きました。てんてん、ミチル、タビ子は「本物の招き猫」に違いありません。

◆もっともっと幸せに

もっともっと幸せに
「せめてもの恩返しに、これから先、もっともっと猫たちを幸せにしてあげたいと思っています」と熱海Muddy Catさん。引き取られる前は、3匹それぞれ苦労もあったでしょう。でも今は、こんなに動きも表情も豊か。

 自由気まま、味わい深い猫たちと、猫たちを見守る飼い主の絆があるからこそ、こんなにも私たちの胸を熱く、ほっこりさせてくれるのですね。

<文/森美樹>

【森美樹】

1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx