私たちの“朝ドラ”が帰ってきた。
10月3日より放送開始したNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』(月~土曜朝8時~ほか)が、第1週「お母ちゃんとわたし」を終えすでに朝ドラファンを惹きつけています。
※この記事には『舞いあがれ!』第1週のネタバレを含みます。
◆開始早々から魅せられる、優しい人たちの物語
ものづくりの街・東大阪と豊かな自然が美しい長崎・五島列島を舞台にした本作。町工場で生まれたヒロイン・岩倉舞(福原遥/幼少期・浅田芭路)が、さまざまな困難に翻弄されながらもパイロットに憧れ、空を目指す物語です。
1994年の大阪から始まった第1週、原因不明の発熱で小学校を休みがちになってしまった舞。医師の勧めから、環境を変えるために母・めぐみ(永作博美)の故郷である五島列島に引っ越し新たな生活をスタートさせました。
新しい環境や課外授業に意欲的な娘を過保護に心配するめぐみと、そんな母親の顔色を伺う舞。そんな娘と孫を見た祖母・祥子(高畑淳子)は、ふたりへ別々に暮らすことを提案します。はじめは祥子の提案に戸惑うめぐみも、舞のことを想い別離を決意。母を見送った舞は「私と一緒にいてたら、お母ちゃんしんどそうやから」と涙ながらに語り、祥子はそんな舞に「よう頑張った」「ちゃんと自分の気持ちを言えた」と、肩を抱きました。
◆第1週から涙がこぼれてしまったシーン
第5話、母・めぐみが舞との別れを決めてから、離れるまでのシーンでは互いを想う気持ちがとにかく切なく、ふたりの関係性を見抜き厳しくも寄り添う祖母・祥子の温かさにも涙が止まりませんでした。
他にも、第1話から舞の家族や周囲の人たちが想いあう優しさに心打たれるシーンがいくつも散りばめられています。
◆丁寧に描かれる、登場人物たちの思いやり
受験を控えた兄・悠人(横山裕/幼少期・海老塚幸穏)に「合かく」と書いた手作りの“けん玉”をプレゼントする舞。学校を休みがちな舞を、優しく励ます友だちのお隣さん。思い悩むめぐみの隣にそっと寄り添い、環境を変えることを提案する父・浩太(高橋克典)。浩太は、めぐみと絶縁状態にあった実母・祥子へ、毎年の年賀状で家族の近況を伝えてもいました。
『舞いあがれ!』にはそんな、ささやかだけれども日常を生きる人々の思いやりが丁寧に描かれているのです。子育てに正解はないし、きょうだいで性格も違うし、親子といっても何でも分かりあえるわけではない。だからこそ、互いを想い、尊重しながら懸命に家族の幸せを模索する登場人物たちの姿がとにかく愛おしく、視聴者の心に響くのだと思います。
◆現実に押しつぶされそうな母、三世代の母娘のつながり
第1週のサブタイトル「お母ちゃんとわたし」は、ヒロイン・舞と母・めぐみのことだけでなく、めぐみとその母・祥子の関係も合わせた三世代の母娘のつながり、そして距離感の難しさを描いていました。
夫の工場の仕事も手伝いながらも、受験を控える悠人と発熱に苦しむ舞というふたりの子育てに奮闘するめぐみ。彼女からにじみ出る生活の疲れと子育ての苦悩を、永作博美は見事に表現しています。
家族のために頑張るも、現実に気持ちが押しつぶされて台所で涙する姿。駆け落ち同然に飛び出した実家の母への葛藤を抱きながら「五島に帰ってもよかかな…」と電話する姿。舞に対して過剰に心配をくり返してしまう姿。いずれも、実にリアルでした。
第5話で「舞を心配しすぎ」と祥子に諭(さと)され、自らを振り返りながら別れを決意しためぐみ。寝るとき、背中から抱きついた舞を、抱きしめるのではなくそのまま手を握った仕草と表情。そして、起きた舞と向き合い微笑む瞬間。一連のシーンでめぐみの“母”としての葛藤と強さを見事表現しており、心動かされました。
◆永作博美と高畑淳子が表現する、繊細な母娘の絆
そして、自分の娘・めぐみへの複雑な気持ちと、娘と孫に会えて嬉しい気持ち、本当にふたりのことを想うからこその厳しさと温かさを、どれも丁寧に表現しているのが高畑淳子。
船着き場へふたりを迎えに来たときの佇まいや、初めて小学校に登校するふたりを見守っていた表情は、心の機微まで伝わる秀逸さでした。第2週からは、何をするにも臆病な舞を自分でなんでもできるようにと導く祥子を、高畑がどう魅せてくれるのか楽しみです。
また、ちょっと頑固にもうつる芯の強さが、祥子からめぐみへしっかり受け継がれている様も描かれており、ふたりが母娘であることを強く感じます。第1週の副題「お母ちゃんとわたし」を、永作博美と高畑淳子の演技が体現していたからでしょう。
永作と高畑がそこまで計算して演じていることも、彼女たちの高い表現力から伺えるのです。脚本・演出の力の大きさはもちろんですが、このふたりが物語に圧倒的なリアリティをもたらしていることは間違いありません。
◆温かな物語への期待が止まりません
まだ第1週が終わったばかり。物語の展開がどうなるかは分かりませんし、演出の好みも人それぞれだとは思いますが、筆者はこの作品に対し、多くの朝ドラファンへ心温まる物語を届けてくれる期待が止まりません。
<文/鈴木まこと(tricle.llc)>
【鈴木まこと】
tricle.llc所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201