【BARのマスターに聞く! 第8回】
こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。
最近食料品から日用品、色んなサービスまで、物価がどんどん上がっています。そんな状況にドキドキしながら財布の紐をギュッと締める今日この頃ですが、同時に意識することがあります。それは「豊かなお金の使い方」について。
締める部分は締めるとしても、あまりに節約に走りすぎると、ケチさが人としての成熟を妨げてしてしまうように思うのです。
無駄遣いは避けたいけど、大人としての豊かなお金の使い方は叶えていきたい。じゃあそれってどんな使い方なのか。渋谷のワインバー「BAR BOSSA(バールボッサ)」店主で作家の林伸次さんと一緒に考えます。
◆大人の「豊かなお金の使い方」ってなんだろう
おおしまりえ(以下、おおしま):最近、私の中でお金の話題がマイブームです。世間の厳しい流れも受けながら、自分の中にあるお金の使い方をアップデートしたいなと思うんです。例えば、「何にお金をかけるか」ってその人らしさが出ますよね。
私の話で例えると、スキルアップ系にはお金をどんと使えるんですが、お祝いとかお礼とか、人とのお付き合いにお金を使うのはまだまだ上手くない自覚があります。
これは私が改善したい“お金の使い方のクセ”なんですけど、BARを経営されている林さんは、人のお金の使い方を間近で見ている立場だと思います。そんな林さんから見て、お金の使い方が「上手いな」とか、逆に「ちょっとそれは…」と感じる人はいますか?
林伸次さん(以下、林):お客様ではないですが、少し前に「ケチな男」の定義について知ったことがあります。
◆結婚相談所で「男女平等だから割り勘」と言い出す男性
林:結婚相談所で婚活するとき、初回はカフェデートで支払いは男性が持つことになっている相談所がほとんどだそうです。それに対して、男性側から「男女平等なんだから割り勘だろう」と言い出す人が、2割くらいいるそうです。
おおしま:初対面のお見合いなのに……。
林:確かに時代は男女平等ではありますが、ここでのデート代は性役割を求めているわけではないんですよね。女性の多くは「自分に与えてくれる異性に好感を持ちがち」という心理をくすぐるために、男性が払った方が恋愛のチャンスは広がりますよという話なんです。
それを相談員さんが説明しても、嫌がる男性が一定数いるそうです。そういう人は、結婚相手として一緒になると、その後もケチで大変そうだからやめた方がいいのかもしれないですよね。
おおしま:おごりおごられ論争はいつの時代もヒートアップしがちですが、男性の中に「損したくない」「女性に搾取(さくしゅ)されたくない」みたいな、過剰な気持ちがあるのかもしれませんね。
◆付き合うなら、ケチでも浪費家でもなく「倹約家」
林:かといって、とにかく気前のいい男性と付き合えばいいかと言われたら、ちゃんと見定める必要もあります。
男性って、見えるところでは気前よくお金を使う人っていますよね。後輩とかには必ずおごるし、付き合っている頃は良いお店に連れて行ってくれる人とか。そういう人は家庭を持ったとき浪費家であることも多いので、これもまた付き合う際は要注意です。
おおしま:ケチもダメ、浪費家もダメ。では、どんな人なら良いんでしょうか。
林:「倹約家」ですかね。ケチと倹約家で明確に違うことは、ケチは「自分にはお金を使うことができるけど、相手のためや雰囲気のためなど、自分以外の利のためにお金を使えない人」のことを言うと思います。
◆自分にはお金を使うけど、人のためには使わない人たち
林:ある女性がすごくお金持ちの男性と付き合って驚いた、という話を聞きました。その彼は1000万以上する車に乗っている、金銭的にかなり余裕のある方だそうです。でも彼女とレストランでワインを頼むとき、1000円高いワインを「コスパが悪い」と言って避けたんです。
「その1000円で味が全然違うのに…」って彼女は驚いたそうですが、これって「自分には使うけど相手には使わない」の典型だと思うんです。
程度問題はあるにせよ、自分の趣味や興味のあることにだけお金を使って、彼女や彼女との時間にはお金を使えないって、ケチな感じがしませんか。結婚したらすごく大変そう。だから、自分の趣味だけにお金を使いすぎない倹約家が良いのではと思います。
◆「結婚はコスパが悪い」発想との共通点
おおしま:その話を聞いていて、よくいる「結婚はコスパが悪い」って言うタイプの人も、その気(け)があるのかなと思いました。
コスパが悪いって表現は、言い換えれば「自分にとっての利が無い」ってことですよね。結婚して家族ができると、自分以外にお金を使うシーンは必ず出てきますし、そういう使い方の中で、お金に替えられない充実感を覚えるときがあります。
こればかりは体験しないと理解できない部分もあるかもしれませんが、「結婚すると自分にかけられる時間もお金も減るから価値を感じない」って、要は自分に全てのエネルギーを向けたいって発想だから、先ほどの男性と根底にある考えは似ているなと思いました。
◆「おごられるのがすごく嫌」という女性の意見
おおしま:男性の話が続きましたが、女性にもお金の使い方や受け取り方が下手な人っていますよね。その典型はいわゆる「おごられ待ち」だと思いますが、一方で「おごられ下手」な女性も最近増えているように思います。言い方を変えれば、“受け取り下手”と言えるのかなと思うんですが、林さんはどう思いますか。
林:おごられ待ちばかりでは嫌な顔をされるかもしれませんが、男性が出すよって言ってくれた時、そこで喜べる女性の方が恋愛の視点で言えばモテますよね。男性って、気質としては相手のために何かしたいと思う生き物だと思っているので。
ただ、おごられることを嫌がる女性の話で、僕もなるほどと思ったケースがあります。彼女は若くして年収が1500万くらいあるのですが、バーでおじさんがおごりますよって言ってくるのがすごく嫌なんだそうです。
理由は、明らかに自分の方が稼いでいるのに、おごられたことでおじさんが上で自分は下になって、感謝しなくちゃいけないという関係性になるからだとおっしゃっていました。
おおしま:すごいパワフルな女性の匂いがします。でもそれって、自分が年収とか行為とかで上下をよく意識しているからこそ、抱く感覚ではないでしょうか。
◆おごることで出てくる「上下」問題
林:僕は50代男性なので、彼女の言う感覚はとても良くわかるんです。男性同士でおごると上下は必ずできますし、年齢差があったら割り勘って考えが持てないのが僕らの世代です。この女性がおじさんにおごられることで説教されたくないし、自慢話も聞かされたくないっていう気持ちは分かります。
おおしま:男性と競いながら上昇してきたからこそ、上下といった関係性に敏感なのかもしれませんね。
その話を聞いて、私は比較的「ご馳走します」は素直に受け取るタイプですが、彼と何か一緒にしようみたいになった時は、「自分も頑張るから気を使わないで!」って、ちょっと主張して受け取り拒否をしがちなタイプかもと思いました。
例えば、彼氏と旅行に行こうとなった時、向こうが費用を持つよと言ってくれたのに「いやいや、私も出せますから」みたいに言いがちです。根っこには「相手に悪いな」があるんですけど、これもまた一種の受け取り下手かもしれませんね。
こうして客観的な話をすると、自分のお金のクセがより実感として理解できるような気がします。
【林伸次さん】
渋谷のワインバー「BAR BOSSA(バールボッサ)」店主。中古レコード店、ブラジル料理店、ショット・バーで働いた後、1997年「BAR BOSSA」をオープン。バーを経営する傍ら著作家としても活躍している。著書に『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)など。
<取材・文/おおしまりえ 写真/林紘輝>
【おおしまりえ】
水商売やプロ雀士、素人モデルなどで、のべ1万人以上の男性を接客。現在は雑食系恋愛ジャーナリストとして年間100本以上恋愛コラムを執筆中。Twitter:@utena0518