英国で敬愛されていたエリザベス女王が天に召され、ウェストミンスター寺院で厳かに葬儀が行われました。即位したチャールズ国王の傍らでしめやかな表情で座っているカミラ王妃のお姿を見て、あれ? かわいくなっている……? という感想を抱きました。今までヒール感をまとっていたのが、王妃になって丸くなって余裕が出てきたのでしょうか……。
◆不倫で世界的な悪女キャラに。後に妻へ昇格したけれど
この数十年間、カミラ夫人はずっと英国民に嫌われ、世界的にも悪女として認知されていました。
時を遡(さかのぼ)ると、2人の出会いは1971年のこと。「私の曾祖母は、あなたの先祖エドワード皇太子の愛人だったのよ」というカミラの言葉が、2人のその後を宿命づけたようです。先祖の業を背負った2人は86年頃に不倫関係に。92年「ダイアナ妃の真実」が出版され、「カミラ・ゲート」と呼ばれたチャールズ皇太子とカミラ夫人のあられもないテープが公開、エリザベス女王には「邪悪な女性」呼ばわりされ、カミラの憎まれキャラは決定的なものに。
ダイアナ元妃がチャールズ皇太子と離婚後、1997年に交通事故で亡くなり、自然な流れで愛人から妻に昇格したカミラは、ついに2005年に結婚式を挙げます。しかしカミラの支持率は低迷。出てくるのは性悪エピソードばかり。報じられた中には盛られたものもありそうですが……。
◆義理の息子の妻たちへ姑的な圧や、炎上行動も
例えば、ウィリアム王子と婚約していた時のキャサリン妃に「ダイアナのようになってはいけませんよ」と忠告して怒らせたり、ヘンリー王子の婚約者だった頃のメーガンさんを呼び出し「プロポーズを受ける前に再考するように」と忠告したりしたそうです。姑的な立場から圧をかけています。
ウィリアム王子とキャサリン妃が結婚した後、キャサリン妃不妊説という心ないデマを流した疑惑や、カミラ夫人の誘いを断ったキャサリン妃に対し、「王子も男なので(派遣先の)現地で不倫をするわ」と呪いの言葉を言い放った説も。カミラ夫人とメーガン妃という世界の二大巨頭的なヒールに挟まれていたキャサリン妃が不憫(ふびん)です……。
◆もっと性悪キャラのメーガンさん登場でカミラ夫人の支持率アップ
カミラ夫人とチャールズ皇太子(当時)が公式訪問したカナダで、イヌイットの喉歌という伝統芸を観賞していて、思わず笑い出した姿が失礼だと炎上したこともありました。
ひそかにボトックス注射を打っていて、エリザベス女王にも勧めたら、女王がひどい痛みに見舞われる羽目になった、という噂もあります。かつて「性悪女」と言われたことの呪い返しのようなエピソード。ボトックスだけでなく、カミラ夫人は公式写真を修正しまくっていた件もありました。
そんな毀誉褒貶(きよほうへん)が激しいカミラ夫人ですが、このたびカミラ妃になり、支持率が上昇しているようです。原因の一つは、現在カミラ夫人よりも強力な性悪キャラになっているメーガンさんの存在。キャサリン妃ともめて泣かせたとか、王室スタッフをいじめたとか、ティアラの貸し出しでゴネたとか、悪女エピソードは枚挙に暇がありません。彼女に比べたらカミラ夫人はまだエレガントで優しさがあるような気がしてきます。
◆メーガンさんと友好的には見えなかったけれども…
世間が手の平返し状態になって、ここ最近は次々とカミラ夫人の良いエピソードが出てきています。ガーシーch.に例えると、暴露話ではなく、いい話のカテゴリーに入れられたような……。今までの刺激的な王室ストーリーを求めていた身からすると物足りないですが、メーガンさんでもうお腹いっぱいという説も。
良い話というと、例えば、カミラ妃は実はメーガンさんに親身にアドバイスしたあと、「私はメーガンが好き」と語っていたというエピソードが急に英ミラー紙で報じられました。そんな友好的な関係には見えませんでしたが……。カミラ夫人が慈善活動に力を入れている、という話題も浮上。
カミラ夫人が悪女として描かれている、Netflixドラマ「ザ・クラウン」で、カミラ夫人役を演じた女優を慈善パーティに招き、フレンドリーに接した、という話も彼女の好感度を高めました。カミラ夫人は「もし私の地位や立場が損なわれることがあったら、私の分身が後を引き継いでくれます」というジョークまで言ったそうで、炎上慣れしている余裕が感じられます。
◆チャールズ王のいらだちにみせた年上の包容力
そして世界に報じられたのは、即位直後のチャールズ国王が癇癪(かんしゃく)を起こしたときの冷静なカミラ妃の姿。北アイルランド訪問中、記帳する時に万年筆のインクが漏れて「大嫌いなんだこういうの!」「ああ、もうイヤだ!」と苛立(いらだ)ち、部屋を出て行ったチャールズ国王。そんな姿を見ても慌てふためくことなく、落ち着いて自分のサインをしていたカミラ妃の姿に、年上の包容力を感じました。
英調査会社によると、一連の行事を通してカミラ妃が立派につとめを果たしたと思う,という回答が過半数の53%にものぼったそうです。
◆持ち前の忍耐力&鈍感力で痛みに耐えた
さらに、カミラ妃は、国葬などの一連の儀式の間、実は足の指を骨折した状態で、痛みに耐えながら公務を続行していた、という驚きのニュースも報じられました。痛みに耐えながら、集まった群衆に挨拶したり、儀式で立ちっ放しだったり……。
今まで数十年もバッシングされてきたカミラ妃なので、足の指の骨折に耐えながら公務する、なんてことは、大した痛みではなかったのでしょう。持ち前の忍耐力&鈍感力があるようです。前途多難な英国王室ですが、カミラ夫人ならどんな試練にも耐えられることでしょう。まさに時代に選ばれた王妃なのです……。
後世に名が残るカミラ夫人と同時代に生きられることに感謝しながら、これからも動向を見守りたいです。
<文・イラスト/辛酸なめ子>
【辛酸なめ子】
東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著書は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。