舞台はアモーレの国イタリアの隠れ家のような高級ヴィラ。そこのフロントで働く私の下には、電話やメールで世界中からさまざまなリクエストが届きます。今回は、胸キュン必至の初逢瀬の現場から。思わずにんまりしちゃったエピソードです。

◆「部屋にバラの花束を」モナコから届いたリクエスト

イタリア高級ヴィラ
※写真はイメージです
「ボンジョルノ(こんにちは)、来週末に2泊予約したフランソワです。相談があるんですけど…」

このアツ~い夏、何気なく受付にかかってきた電話を取ると、フランス語まじりのイタリア語を話す男性からでした。

「予約を確認しますので、少々お待ちください」

ヨーロッパ内では国際通話も当たり前のため、表示番号を見ればどの国からかけてきたかわかるものですが、電話のディスプレイには見慣れない「+377」。

宿泊予約の詳細を確認すると、なんとモナコ公国(※)からではありませんか。あのセレブ感たっぷりのモナコからの予約なんて初めてのこと。人口たった4万人足らずの小国なんですから、それもそのはず。でも、そんなモナコの男性がこのヴィラに何の用があるというのでしょう。

と一瞬で考えながら冷静に答えます。

(※フランスの地中海沿岸にある独立都市国家。世界中からセレブが集まる国として知られている。)

◆恋愛のツボをわかっている男性…!?

「はい、確かにプレジデンシャルスイートを2名でご予約いただいておりますが、どのようなご用件でしょうか」

「いや、じつは部屋にバラの花束を飾ってほしいんです」

「もちろん可能ですよ。何本にしましょう」

「19本でも21本でも、お任せします」

この時点で恋愛のツボをわかっている男性なのは確か!

なぜなら、イタリアでは幸せのバラは奇数本が基本なのです(例外的に結婚式では12本)。今まで客からの要望で1輪のバラをベッドの上に飾ることはありましたが、20本前後ということはある程度のボリュームが欲しいようす。

電話越しの声はちょっと年配の雰囲気で、きっと結婚記念日だろう、と私は想像し始めました。

「色のご希望はありますか」

「うーん、オレンジかなぁ」

と少し迷った後に「やっぱりピンクで」と答えます。

花束
※画像はイメージです
イタリアでは、女性に贈るバラの色によっても意味があり、想いが軽めと言われているオレンジよりも、恋心がワンランクアップと言われるピンクを選択。深い愛情を表す赤色じゃないのは意味ありげだけど、婦人の好きな色かな、くらいに思ったものでした。

◆現れたのは、はにかみ笑顔のカワイイ好青年

当日、プレジデンシャルスイートはピンクのバラ21本で飾られ、早々に準備完了。勝手にモナコの熟年カップルを待っていると、午後一で笑顔のカワイイ若い青年フランソワが1人で現れました。一生懸命にイタリア語を話そうとするその姿、なんともキュートです。

「もう1人は後で迎えに行くことになっています」

そう言って先にチェックインを済ませ部屋を確認すると、ざっくばらんにお喋りが始まりました。

「このヴィラのことを教えて。エージェントに言われて予約したからよく知らなくってさ」

森に囲まれたプールやスパにあるエモーショナルシャワー(心地よい光とアロマが香るシャワー)、景色の美しいテラスなどを案内中、とにかく彼のトークが止まらない。通常、客の事情にはあまり立ち入らないようにするんですが、話してくる相手とにこやかに接するのも受付係の仕事です。

「彼女とは1週間前に知り合ったばかりでね、今日初めて会うんだよ」

と言われたときにはさすがにビックリしましたが、そこでようやく点と点がつながりました。つまりは出会いをサポートするエージェントが、このヴィラを予約して奇数のバラ(しかもピンク)を用意するよう裏で指示していた、というわけだったのです。こんなことまでためらうことなく教えてくれるフランソワ~、ピュアすぎて私の方が照れちゃいますよっ。

にしても、リッチでルックスも申し分ないモナコの好青年がエージェントに頼るなんて、純粋すぎて恋愛下手なのかしら。奥手なの?なんでなの??プールサイドで垣間見える、趣味のロードバイクで鍛えられたその体も超セクシーなのに、なんて下世話にも思ってしまったものです。

◆みずみずしい初逢瀬にドキドキ!

イタリア高級ヴィラ
さて、彼が迎えに行った女性というのはヴィラのある町に住むイタリア人で、彼ははるばるモナコから車を走らせて彼女に会いに来たそうです。まだ少し距離があるような、なんとなくぎこちないような。

夕方、テラスで一緒に過ごす2人からは、初々しさはもとより、みずみずしさがあふれていて、見ていてキュンとしちゃいます。チェックイン時に話しただけなのに、つい彼に親近感がわいてしまって、私までドキドキ。カクテルをサービスしながら様子をうかがいます。

結局、最初の晩は健全に家に帰って行った彼女も、翌日はお泊まり決定!めでたしめでたし、もう気分は初恋を見守るおばちゃんの私。特別にシュワシュワのワインを開けて乾杯です。

◆ハードスケジュールも愛のためなら

チェックアウトの日に「午前9時からモナコで仕事だから」と言って早朝3時に発ったフランソワ。「数週間後にまた来るね」とホテルスタッフに約束してくれました。忙しい合間に何時間もかけて会いに来てくれた貴公子のような男性が、高級ヴィラでバラの花束とともに待ってくれていたら。恋愛成就も間違いなしですよね。

初めて会うのにこの演出は日本ではちょっと考えにくいですが、モナコやイタリアともなると、さらりと大げさ感がないものかもしれません。ともあれ、次の来館を楽しみに待ちたいと思います。

<文/ゆきニヴェス>

【ゆきニヴェス】

脱サラを機にヨーロッパ中を旅し、ワイン好きが高じてイタリアに住み着いた自他ともに認める自由人。フリーライター及び取材コーディネーターとしても活動中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員