近視、脂肪肝、運動器障害。高齢者の症状を羅列しているように見えるが、実は近年、子どもにも見られる症状だという。なぜ、子どもに“老化”現象が? その背景には大きく2つの要因があった。
◆骨折しやすい子や近視、脂肪肝の子どもも急増!?
「ここ3か月で怪我した子の半数以上が骨折。骨折が多すぎてビックリしています」
こう話すのは都内の小学校教師。ようやくコロナ前の“日常”を取り戻せたかと思ったら、子どもたちの体には異変が生じていたというのだ。30代の保育士も次のように話す。
「コロナ自粛中に太り、一回り大きくなって登園してきた女の子が先日、何もないところで転んで剥離骨折しました」
◆ここ50年で骨折する子どもは2倍以上に
今、“骨折しやすい”子どもが増えているのだ。なぜか? 全国ストップ・ザ・ロコモ協議会理事長で、林整形外科院長の林承弘医師が話す。
「ロコモ(ロコモティブシンドローム)と呼ばれる運動器障害は関節痛や歩行障害を引き起こし、最悪の場合は要介護状態になるため、高齢者によく見られるものです。ところが生活環境の変化に伴い、10年ほど前から“子どもロコモ”も増えてきた。
埼玉県が行った調査では4割の子どもに兆候が見られました。コロナ禍でその数はさらに増加。子どもロコモは転びやすく、骨折しやすい特徴があり、実際ここ50年で骨折する子どもは2倍以上に増えています」
その実態は、さながら「子どもの老化」だ。林医師が最近診た患者のなかには、腰痛持ちの5歳児もいたという。
「毎日何時間もスマホを凝視していたせいで、猫背で顎が前に突き出た姿勢になっていました。姿勢の悪さが、子どもロコモの大きな要因です」
毎日1時間の運動が理想的だが、骨盤を立てた正しい姿勢を教えるだけでも子どもロコモ改善に繋がるという。すぐにでも実践したいところだが……子どもの老化は別の症状として表れることもある。
◆視力1.0以下の中学生は6割に達している
「小学校入学前に眼科に連れていったら視力は0.1未満。今、息子は瓶底のようなメガネをかけて過ごしています」
こう話すのは小2の息子を持つ男性だ。幼い頃からスマホで遊ばせていたところ、みるみる視力が低下。6歳のときに強度近視の診断を受けた。
「医師からは『タブレット端末の使用を控えさせるように』と言われました。放置すると緑内障の危険性もあると」
視力低下だけではない。老眼と似た症状を訴える子どもも増えている。二本松眼科病医院の平松類医師が話す。
「通常、人は1分間に20回ぐらい瞬きをしますが、スマホを見るときは回数が4分の1に減ります。すると、ドライアイになり、近い距離で凝視しすぎてピント調節機能が衰える“スマホ老眼”になる子どもも増えているのです。
並行して近視が進む子どもも多い。文科省の統計でも裸眼視力1.0以下の子どもは年々着実に増え続けており、中学生では6割に達しています」
◆子どもの目を守るには?
子どもの目に悪影響を及ぼしている“犯人”は明らかだ。
「本を読むときの目との距離は30cmですが、スマホは20cm。最も目から近い距離で、かつ長時間利用される傾向にあるため、目の負担が大きい」
子どもの目を守るには、「スマホ利用時は30分に一度、目を休ませ、一日2時間は外で遊ばせるのが理想」(平松医師)とか。ロコモ予防策同様、適度な運動は効果的なのだ。
◆コロナ太りを経て脂肪肝になる子が増加
さらに、子どもの異変は体の内側にも。小児科医院で働く看護師が話す。
「自宅で過ごす時間が増えて運動量が減った影響で肥満が進行し、10代で2型糖尿病を発症する子が増えてきている」
40代以降に発症しやすくなるとされる生活習慣病のリスクは子どもにも及んでいるのだ。済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科の十河剛医師も次のように話す。
「以前実施した子ども向け無料健診では半数に脂肪肝が見つかりました。肥満傾向の中年男性によく見られるもので、放っておくと肝硬変などの病気や動脈硬化が進行しやすくなるのですが、その兆候が多くの子どもにも見られた。高血圧症や、10代で痛風発作を起こした子どもも診ました」
背景にあるのは環境の変化。
「ゲーム機の普及に伴い、30年間で小学生の一日の歩数は半分に減少。塾に通い、帰宅後は食べてすぐ寝るという子も増えた。運動不足と生活リズムの変化は、コロナ禍で加速し、コロナ太りを経て脂肪肝になる子が増えた」
◆運動の目安は一日2万歩
放置すれば、糖尿病や動脈硬化に繋がり、心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険性もある生活習慣病。十河医師は予防策として歩数計を持たせることを推奨しているという。
「食生活の改善と適度な運動が効果的な予防策。その運動の目安として一日2万歩を目標にするといいでしょう」
子どもの老化は差し迫った問題だ。今すぐに実践したい。
◆子どもの“老化“症状と対策
・ロコモティブシンドローム(運動器不全)
加齢による運動器不全=ロコモとは異なり、姿勢不良や運動不足による「子どもロコモ」が増加中。転びやすい、骨折しやすいといった傾向があり、子どもの骨折数は増え続けている。幼少時から腰痛を訴える例も
予防策…骨盤を立てる正しい姿勢に改善し、ロコモ体操(肩甲骨を動かす胸郭運動+つま先立ちでの体前屈+スクワット)を推奨。一日1時間の運動が理想
・近視・スマホ老眼
加齢による視力低下と異なり、スマホでの動画視聴を繰り返しすぎて近視になる子どもが増加。長時間視聴でピント調節機能が低下する「スマホ老眼」になるケースも。視力・調節機能低下は集中力低下を伴い、学力にも影響
予防策…スマホ利用時間を一日1時間に制限するのが理想。利用時は30分に一度、遠くのものを見るようにして目を休める。一日2時間、外で遊ぶようにすると◎
・生活習慣病(脂肪肝・高血圧ほか)
家庭用ゲームの進化、コロナ禍での運動機会の減少で、生活習慣病を患う子どもが増加。十河医師によると「無料健診を受診した子どもの半数に脂肪肝が見られた」。放っておくと血圧上昇を経て動脈硬化、糖尿病に発展する可能性も
予防策…肥満児童には食事制限が必要(栄養士の助言をもらうのが理想)。運動時間は一日60分以上。子どもに歩数計を持たせて毎日2万歩達成を目指すのがよい
◆内斜視や顎関節症の子どもも増加?
老化に似た症状以外にも、近年、多くの子どもに見られるようになった症状がある。
「急性内斜視になる子どもが増えています。原因は、やはりスマホ。長時間、手元のスマホを凝視しすぎて、黒目が内側に寄ってしまうのです。斜視は高齢者にも見られる症状ですが、高齢者の場合は目の筋肉の衰えにより、外斜視になるのが一般的」(平松医師)
同じく、スマホの普及に伴い、顎関節症を発症する子どもが増えているという。
「猫背で頭を突き出した姿勢で長時間スマホを凝視していると、少しずつ下顎の骨が下がっていき、歪んだ状態で歯を食いしばるようになります。その結果、若くして顎関節症になり、頭痛やめまい、腰痛、肩こりといった副症状が出る子どももいます」(林医師)
コロナや生活環境の変化が影響しているのか、「アレルギー体質の子どもや精神疾患を発症する子どもも増えている」(小児科看護師)という。
<取材・文/吉岡 俊 池垣 完(本誌)>