アメリカの旅行会社で現地ツアーのガイド歴10年のメイリンです。コロナ禍ではほぼゼロでしたが、それまでは年間1000人、延べ1万5000人を超える客を案内してきました。

そうなると中には摩訶不思議な方々もいて……。今回はそんな中からアメリカでも傍若無人……じゃなくて縦横無尽に駆け回る「大阪のオバチャン」たちの姿をお伝えしましょう。

◆到着ロビーでの「大阪のオバチャン」の見分け方

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※写真はイメージです
私たち、現地ツアーガイドの仕事は、ツアー客のみなさんを空港の到着ロビーでお出迎えするところから始まります。税関を出たところの柵の向こうで、旅行会社の「旗」やお客様の名前が書かれたボードを持って待っている面々が私たちです(他に出張ビジネスパーソンのお出迎えをする現地採用社員などもいますが)。

同じような時間帯に東京(羽田)と大阪(関空)からの到着便が到着するときにはシッチャカメッチャカ……なんてことはじつはありません。関空からの団体を一発で見分ける方法があるのです! それ、何かおわかりになりますか? ヒントは「色」です。

正解、おわかりになりましたか? スーツケースや靴の色が「鮮やか」なら関西(大阪)方面からのツアー客。原色やショッキングピンク、水色のスーツケースに、金色のパンプスといういでたちの方々が多めです。逆に関東方面などからのお客さんは、黒や灰色、紺色のスーツケースと靴といったように、シックな色合いのコーディネートの方々がほとんど。

あっ、それと関西からのお客様はジャケットなどでも「花柄」や「ヒョウ柄」が多いですね~。

◆ツアーバスに乗り込むまで「大阪のオバチャン」とは話すべからず

さて、到着ロビーで日本からの添乗員さんに先導されたツアー客のみなさんをお出迎えしたのち、次に向かうのは「ツアーバス」。夕方到着の便であればホテルに直行しますが、朝方の便の場合、近場の見どころを半日ツアーで回ることがほとんどです。

アメリカ到着後は基本的にフリータイムというツアーなら話は別ですが、添乗員さん同行のツアーの場合、その後の数日、朝から晩まで一人の現地ツアーガイドが同じグループの世話をすることになります。いい関係を築くためには第一印象が大切なので、ここでなごやかな雰囲気でおしゃべりするのが基本です。

たとえば日本から到着したみなさんは空港ビルから出た途端、「思ったより暑いね~」「案外寒いわ」と天気や気候にふれることが多いので、それに乗って「昨日までは曇り空でしたけど、今後数日は晴天の予報です。晴れ男・晴れ女のみなさんがいい天気を運んできてくれたんですかね」などとなごやかな会話をくりひろげるように心がけます。ところが……。

「大阪のオバチャン」のツアーの場合、直接会話は最小限度。伝えたいことがある場合は添乗員さんに伝えそしてお客さまへの伝言リレーをお願いします。それは直接おしゃべりをし始めると、“大変な事こと”になってしまうからです。

◆バスの中で始まる怒涛の攻め

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お客様が無事に乗り込んでバスが出発すると、添乗員さんがスケジュールと旅の諸注意を話してから、私たちガイドにマイクが渡されます。

「皆さま、ようこそいらっしゃいました。長旅お疲れ様でした。機内ではゆっくりされましたでしょうか?」と歓迎の挨拶をします。ここで曖昧にうなずくくらいなのが関東などからのお客様。でも「大阪のオバチャン」は違います。

「えらいゆっくりさせてもらいました。せやけどガイドさん、こっち来て何年くらいなりますの?」

大阪のオバチャン軍団はすかさず質問を返してきます。

「もう○年になります」

「うわっ、○年もおるんかいな~」

「ほんなら英語もペラペラやな」

「結婚してるん?」

「相手アメリカ人?」

いきなりプライベートに踏み込んでくるのが大阪のオバチャン軍団です。

「子供はおるん?」

「ほんならハーフやんか。将来はモデルやなぁ」

「モデルってはどれくらい儲かるんやろ?」

「日本語できるんなら吉本でもええんちゃう」

「せや、吉本いれたらええ」

バスの中は一気に大阪の空気となり、井戸端会議状態でてんやわんや……。

まあ、バスの中はいいのです。移動中はあまりやることないですから(とはいえ折角の海外なので「車窓からの景色」も楽しんでいただきたいですが。笑)。

でももしこれが到着ロビーで勃発したら? 現地ツアーガイドを中心に、ワイドショーなどでよく見る芸能レポーターによる「囲み取材」状態。その間移動もできないので、いきなりツアーが滞ってしまいます。先ほど言った、“えらいこと”になってまうわけです。あかん、気がつけばウチも大阪弁になってもーた。(苦笑)

でも子供の将来まで心配してくれ、最後に飴ちゃんを握らせて「頑張りや」。そんな人情溢れる「大阪のオバチャン」にパワーをもらっている私です!

※ちなみに“ハーフ”は半分の意味で、あまり好意的な言葉ではありませんので、使用には注意しましょう。

<文/メイリン>

【メイリン】

アメリカ在住20年。現地の旅行会社でツアーコーディネーターとして年間1000人を超えるお客さまを案内。パンデミック以降はオンラインツアー月2回開講。国内大手のガイドブックのトラベルライターとして10年以上に渡り毎週投稿。生来のビール好きでブルワリー巡りが趣味。ビアジャーナストとしても活動。

世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。