結婚生活を続けていれば、「離婚」という言葉が頭の中で渦巻(うずま)くことは誰にでもあり得る。大ゲンカをしたとき、あまりの価値観の違いに呆然としたとき、そして些細な不満が積み重なっていったとき……。だが、誰もが離婚するわけではない。踏みとどまるのか結局は離婚するのか。

「いつか離婚するかも」と思った人が、その後、どうやって離婚にたどりついていったのか。あるいは今、渦中にいる人がこの先をどう考えているのか。「離婚」を巡る男女の悲喜こもごもをルポしてみたい。

離婚届
写真はイメージ(以下同じ)
◆決定的だった夫の一言

「いつかは離婚するのかなあ、と思うことはありますね。まあ、子どもが成人するまではこのままいくでしょうから、離婚するとしたら7年後ですかね」

エツコさん(45歳)は、そう言って苦笑した。結婚して17年、15歳と13歳の子がいる。夫のことが大嫌いというわけではない。だがときおり、「私の人生は、これでよかったんだろうか」と思うこともある。

「共働きだったので、子どもが小さいころ、どうしても時間的に都合がつかない日は夫の母に助けてもらったことがあります。最小限にとどめはしました。ただ、5年前に義母が倒れたとき、夫は『介護のために仕事を辞めてほしい』と言い出したんですよ。私はそれはできないと言い返しました。

夫は『お母さんの恩を忘れたの?』って。これ、かなり決定的な言葉でした。それほど義母に迷惑はかけていないし、そんなことなら、それ以前に子どものために辞めてますよ。せっかく積み重ねてきたキャリアをここで手放すなんて絶対にできない。私もちょっと感情的になってキツく言ってしまいました」

夫は黙り込んだ。それからふたりの間によそよそしい風がながれるようになり、今に至っているのだという。

◆「家庭を作る」イコール妻が専業主婦

男性
3歳年上の夫とは友だちの紹介で知り合った。

「生真面目でいいヤツなんだけど、いいヤツすぎて女性にモテないと言われてしまうタイプの人で。確かに口数は少なかった。でも嘘をつかない人だとすぐわかりました。

私、その前につきあっていた人に浮気されたんです。浮気というか、もともと彼にはつきあっている人がいたから、私が浮気相手ということになったんですが……。二股をかけられていたショックで、もう恋愛なんてしないと言っていたら、友人が夫となった人を紹介してくれた」

半年ほどデートを繰り返したところで、「一緒に家庭を作りませんか」とプロポーズされたという。家庭を作りませんかという言い方が、当時のエツコさんの心にしっくりきた。情熱的な恋愛がしたいというより、もう落ち着きたかったのだ。

「ところが夫の意識では、家庭を作るイコール私が専業主婦ということだったみたい。結婚前に仕事を続けると言ったら、一瞬、言葉を失って。でもその後、『家庭に支障がなければいいよ』と。

一緒に家庭を作ろうと言ったのだから、家事も、今後生まれてくるかもしれない子どもの育児も一緒にやろうねと言いました。夫は素直な人ではあるので、がんばってくれたとは思います。でも指示待ち、言われたことしかやらない、あげく想像力がないので先を見通して家事育児をすることができない。だから8割方は私がやっていました」

◆母親のところに寄りつかない口ばかりの夫

義母ストレス
できる限り、義母の時間をとらないよう配慮し、がんばりすぎるほどがんばったので、上の子が小学校に上がったころ、エツコさんは過労で倒れたこともある。義母自身、それをわかっているので、「私はひとりでやっていけるから」と今も、介護保険を使いながらひとりで暮らしている。

エツコさんも時間があれば義母の家に行って、作り置きのおかずなどを用意する。夫は口ばかりで母親のところにはあまり寄りつかない。

「結局、きちんと話し合いができなかったんですよ。本当はどう思っているのかがよくわからない。結婚してからずっとそんなふうに思っていたけど、忙しかったので、私もなかなか正面切って夫にさまざまなことを話そうと言えなかった」

◆夫は踏み込んでこない

話そうと言っても、言葉数の少ない夫は肝心なところで踏み込んできてくれない。義母のときも、エツコさんが仕事を辞めないと言ったら、それきり夫は何も言わなくなったのだ。あとのことは義母自身とエツコさんで決めた。

「中途半端に絡んできて、途中で引いてしまう。揉めたくないみたいだけど、一緒に家庭を作る意識が低いとしか思えない。彼が思っていた家庭と、私が考えていた家庭が違うんでしょう。

今は子どもがいるから家庭という形を維持したいと私も思っているけど、子どもたちが自立したら、夫婦ふたりでいる意味はないような気がしています」

それでも日常生活は回っている。最近は子どもたちが自分のことをできるようになったので、いくらか楽にはなってきた。それでもエツコさんはフルタイムで働き続け、夫は今日も妻の作った料理を食べている。

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】

フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio