結婚すれば、配偶者とその家族も自分の人付き合いに関わってくる場面があります。歓迎できる振る舞いならいいけれど、身勝手な言動で自分の友人が迷惑をこうむるなんて、絶対に避けたいですよね。
「この人、ヤバい家の人と結婚したんだ」と思われたら、その後のお付き合いは消え友情まで終わってしまうこともあります。
柳井優子さん(仮名・32歳)も、「ヤバい義家族」で大切な女友達をなくしかけたひとり。
「夫と義母には二度と友人を会わせません」
と固い決意を口にする優子さんに、何があったのでしょうか。
◆「宗教一家」であることは知っていたけれど
優子さんの夫は35歳、義父がやっていた工務店の事業を引き継いで今は自分が社長として仕事をしています。
義父名義で所有する土地を人に貸しておりそちらでの収入もあるので、「生活にはまったく困っていない」と優子さんは言います。
お付き合いしている頃から、夫とその一家が“ある宗教”を信心していることは知っていました。
夫からプロポーズされたときは、その宗教に自分も入らないといけないことが気になったけど
「専業主婦をさせてもらえるし、活動は家族内だけで済むことを見ていたから、目をつぶってOKしました」
と、深く考えることはしなかったそうです。
義実家はその宗教団体に多額の寄付をしており、そのせいで団体のなかでは高い地位にありました。
それを鼻にかける夫と義母、義父の姿はたまにイヤになるけれど、布教活動は生活の範囲内でやれるので、優子さんは特に文句は言わずに従ってきたそうです。
問題が起こったのは、優子さんが親しくしている女友達Aさんが乳がんを患ったときでした。
◆友人の病気を何気なく夫にも伝えた
「Aさんなんだけど、この間の健康診断で乳がんが見つかったんだって」
ある日の夕食の終わり、優子さんは何気なくこの話題を口にします。
その女友達は、まだ初期の発見なのですぐの入院や手術などは必要なく、しばらくは投薬で様子を見る状態でした。
会ったことがある夫は驚いたように「それは大変だ」と返し、医療保険や薬の話などをしてその日は終わりました。
◆「○○さまのご加護で必ず治る」と言い出した夫
次の日の朝、家族の朝ごはんを準備していると、
「うちで救ってやろう」
と夫が言い出し驚いた優子さん。
「救うって、どういうこと?」
「だから、入信してもらえばいいんだよ。○○さまのご加護で必ず治る」
淀(よど)みなく入信を語る夫に、優子さんは「絶対にAに言いたくない」と一瞬で思ったそうです。
◆自分たちは神に選ばれた人間だと信じ込む義実家
優子さん自身、結婚したので仕方なく団体に入り活動もしていますが、
「正直に言って、そこの神さまに何の魅力も感じないです。
選民思想みたいなのが強くて、“寄付が多いほど幸せになれる”みたいな雰囲気で、それって本当に救いなの? と。
でも、夫も義家族もたくさん払って団体でちやほやされているから、自分たちは神に選ばれた人間なんだって信じ込んでいますね」
と信仰に疑問があり、そこに自分の大事な女友達を巻き込むなんて「絶対にイヤ」と焦ったといいます。
ですが、やんわりと「Aは宗教とか否定するタイプだから、無理に話さないほうがいいんじゃない?」と伝えても、
「それはうちの○○さまを知らないからだろう。教えを知ればきっと救われることがわかるはずだ」
と、夫は自信満々に返すのでした。
◆身勝手な夫に押し切られ…友人を食事に誘うことに
「自分の意見は絶対に正しいと夫は思っているので、私に何度も『Aを家に呼べ。食事でもしながら話そう』と迫りました。
仕事が忙しいそうだから無理と返しても、『だったら俺が話す』と言い出してスマホを奪おうとするので、もう仕方なくて」
そのときを思い出して深くため息をつく優子さんでしたが、結局夫に押し切られて女友達に連絡し、自宅での食事に誘いました。
「『あなたの病気のことを夫に話したの、ごめんなさい』って、まず謝ったんですね。
夫がこんなことを言い出すなんて思わなかったから、本当にうかつだったと思います」
勝手に病気を身内に話した優子さんに対して、友人は「気にしてないよ、初期だから全然軽いし、私も実感がなくて」とすぐに返信をくれてほっとしたそうです。
この女友達は優子さんがその宗教に入信しているのは知っていましたが、あまり良く思っていないことも聞いていたため、「夫が参拝とか勧めてくると思うけど、スルーしてね」というメッセージに「OK。うまくやるわ」と返してくれます。
◆「俺の神さまを信じればすぐに治るから」
女友達を夕食に招いた日。
優子さんが何よりもショックだったのは、「友人に病気について確認するでもなく、体調を気遣うこともなく、いきなり宗教の話を始めた夫の姿」でした。
「乳がんなんだって?
そんなの、俺の神さまを信じればすぐに治るから大丈夫。
信者のなかには神さまを頼って病気が良くなった人が何人もいるし、君もお願いすればいい」
優子さんお手製のローストビーフやバケットが並ぶ食卓で、「いただきます」の後、夫は唐突に切り出したそうです。
デリカシーがまったく感じられない優子さんの夫に、友人は「目を見開いて体を固くしていました」と優子さんは肩を落としました。
友人は、「気を使ってくれてありがとう」と夫にまずお礼を言いましたが、その後は「乳がんといっても初期だし、そこまで大げさなものじゃないから」とだけ返し、すぐに別の話題を振ってくれたそうです。
◆想像を超える夫の失礼さに、さすがに頭にきた
友人への申し訳なさでいっぱいだった優子さんは、解散後すぐに「夫が失礼な言い方をして本当にごめんなさい!」とLINEします。
既読がついてしばらくしてから、友人が送ってきたのは
「聞いてはいたけど、本当にヤバいね。
私はその宗教には入らないってこと、ちゃんと伝わればいいのだけど」
という、困惑が伝わる言葉でした。
「想像を超える夫の失礼さに、さすがに頭にきました」と話す優子さんは、すぐ夫に「Aは入信しないって。二度と宗教の話はしないでね」と強い口調で伝えます。
すると、夫から返ってきたのは
「男の俺が言うからダメなのかもな。女同士ならもっとわかりやすいかもしれん」
と、優子さんも女友達も無視した自分勝手な解釈でした。
「それは関係ないでしょ」と優子さんは反発し、結局「うちに呼んだときに宗教の話はしない」ことを約束したそうです。
◆追い打ちをかける義母の登場「信じないと救われないわよ」
それから数週間後、その女友達から「この間の食事のお礼に、おすそ分けを持っていきたいの」と連絡をもらった優子さんは、「食事だと夫がまたおかしなことを言い出しそうだから、玄関先でもらって、また別の機会にゆっくり会おうね」と返し、夕方に訪ねてくることが決まります。
それを夫に告げると「上がってもらえばいいのに」と言われましたが、友人の嫌がる気持ちを想像して「時間がないから」と断ったそうです。
そして、友人がおすそ分けを持ってチャイムを鳴らしてくれたとき、それは起こりました。
「はーい」
と返事をして玄関に向かう優子さんが目にしたのは、ドアを開ける義母の姿。
あっと思ったときにはすでに遅く、満面の笑みで友人を迎えた義母は
「息子から乳がんだった聞いたけど。軽いうちにうちの神さまにお願いしておけば大丈夫よ。
信じないと救われないわよ」
と、夫と同じく一方的にまくし立てます。
突然のことに言葉もなく立ちすくむ友人と義母の間に慌てて飛び込んだ優子さんは、
「今日は時間がないので。ね?」
と言って友人を義母から引き離しました。
◆「親切心で言ってあげてるのに、受け取らないのも失礼だ」
友人に土下座する勢いで謝罪したという優子さん。
「女友達は『あなたは悪くないじゃない』と言ってくれたけど『旦那さんたち、本当にそれしか頭にないっぽいね』と呆れていて、本当に恥ずかしかったです。
夫も姑も、女友達の気持ちなんて全然知ろうとしないし、身勝手すぎる」
友人が帰った後、怒りを抱えて夫のもとに向かった優子さんでしたが、
「俺とは宗教の話はしなくても、母さんならいいだろ。
せっかく親切心で言ってあげてるのに、受け取らないのも失礼だと思うぞ」
といけしゃあしゃあと言われ、「もうダメだ」と思ったそうです。
◆他人を気遣えない人間が語る「信心」の異常さ
「自分たちは親切でやっているんだ、って信じて疑わないんですよね。それは別にいいですけど、言われる側の気持ちを考えないのが本当に恐ろしくて。
病気を患っているとわかっているなら、まずは体調の心配とかするじゃないですか? そういうことがいっさいなくて、気遣えない人間が宗教を語るって異常だなと思います」
声を落としてこう話す優子さんは、自分の友人は金輪際(こんりんざい)夫たちには近づけないと決めています。
女友達は、無礼な夫たちを「会わなければいいから」と許してくれたけれど、嫌な思いをさせたことに変わりはありません。
病気というデリケートなことを自分たちの宗教に結びつけて信心を迫る義家族に、優子さんは「いつまで耐えられるだろう」とぼんやり考える時間が増えたそうです。
―シリーズ「ヤバい家族/義家族で苦労エピソード」―
<文/ひろたかおり イラスト/ただりえこ>
【ひろたかおり】
恋愛全般・不倫・モラハラ・離婚など男女のさまざまな愛の形を取材してきたライター。男性心理も得意。女性メディアにて多数のコラムを寄稿している。著書に『不倫の清算』(主婦の友社)がある。