大きな社会問題となっているいじめ。学校側がいじめの事実を認めるのはあくまでごく一部で、実際にはなかったこととして扱われるケースも多く、その隠蔽体質は変わらないようです。
写真はイメージです。(以下同)◆中学生のいとこの涙
矢神佳南さん(仮名・28歳)は一人っ子ですが近所に6歳年下の従妹(いとこ)が住んでおり、実の妹のように可愛がっていたといいます。
ところが、大学進学を機に一人暮らしを始め、従妹とは離れ離れに。その年の夏、帰省して久しぶりに会いに行くと彼女はすごく喜んでくれたものの、どこか元気のない様子。本人に尋ねても「ううん、なんでもないよ」と否定されましたが、心の中ではずっと引っかかっていたそうです。
「でも、従妹の通う中学校の新学期が始まった9月頭、私はまだ大学が休みだったので実家にいたのですが従妹に会いに行くと目が真っ赤。さっきまで泣きはらしていたのがわかるほどでビックリしました。
声をかけると『お姉ちゃん……』と涙をポロポロと流し、ただ抱きしめることしかできませんでした」
◆担任に相談したことを知られ、いじめがさらにエスカレート
落ち着かせると何があったか少しずつ話し始めた彼女。それは一学期の途中から同じクラスの女子グループにいじめを受けているというものでした。
例えば、上履(うわば)きや教科書を隠されるのは日常茶飯事。教室では一番後ろの列だったので自分だけプリントを回してくれず、学校裏サイトでも誹謗中傷の嵐だったとか。
二学期が始まってもいじめが続いたため、勇気を振り絞って担任に訴えるもきちんと対応してもらえず、それどころかチクったことがバレていじめがさらにエスカレートしたそうです。
◆突然いじめはなくなり、加害者グループからは謝罪
「実は、私も小学校高学年のころ、いじめに遭っていました。だから、あの絶望感と辛さは痛いほどわかります。ただ、『お父さんとお母さんには絶対言わないで……』と懇願されてしまい、かといって自分で学校に乗り込むこともできず悩みました。
でも、仲のいい大学や地元の友達に相談すると、2人とも『約束を破ることになっても親には話すべき』って。それで彼女の父親、つまり叔父さんに包み隠さず話すことにしたんです」
打ち明けてくれた佳南さんに感謝の言葉を口にする叔父。そのうえで「娘のことはこっちでなんとかするから」と言われたそうです。
「ただ、『私も知らないフリを続けるから打ち明けたことは娘に内緒にしておいてね』と言われました。どうやっていじめを止めるのかは見当もつきませんでしたが、妙に自信ありげに語っていたので任せることにしました」
それから約10日後、次に従妹に会うと「毎日あった嫌がらせが突然止んだ」と報告されます。それどころかいじめグループの女子たちが全員謝ってきたというから驚きです。
「叔父さんが何かやったのだと思いました。けど、彼女はその辺の事情を何も知らなそうだったので、いじめがなくなったことを一緒に喜びました」
◆娘のいじめ撲滅のために公務員父がコネをフル活用?
その後、叔父からは事の顛末を少しだけ教えてもらったそうですが、彼は地元市役所に勤める公務員。それも少し前まで教育課に配属されており、教育委員会のメンバーや市内の公立学校の校長・教頭とも顔見知りの関係でした。
当然、従妹が通う中学校も例外ではなく、「個人的なツテがあってね、ちゃんと対処してくれるようにお願いしたんだ」と説明を受けたそうです。
「本人は笑いながら『職権乱用はしてないからね』と言いましたが冗談には聞こえませんでした(苦笑)。いずれにしても叔父さんが動いてくれたおかげでいじめがなくったわけですし、無事解決してよかったとは思っています」
具体的にこの叔父と学校の間でどんなやり取りがあったのかは気になるところですが、“お願い”された側にとってはたまったものではなかったはず。それでも本気でやればこんなにスピーディに対応できるわけですし、どのいじめ問題についてももっと迅速に取り組んでほしいものですね。
<文/トシタカマサ イラスト/とあるアラ子>
【トシタカマサ】
一般男女のスカッと話やトンデモエピソードが大好物で、日夜収集に励んでいる。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。