ファッション雑誌『MEN'S NON-NO』の専属モデルとして活躍しながら、2017年からは俳優としての存在感を増している宮沢氷魚さん(28)。現在も出演映画『グッバイ・クルエル・ワールド』が公開中。一夜限りで結成された強盗団の顛末を描く、西島秀俊さん主演のクライムムービーです。
撮影の裏話に始まり、俳優デビューすぐのタイミングで共演し、本作で再共演した大森南朋さんとのエピソードや、俳優として「求められるようになって、幸せだからこそ」感じている現在の心境についても聞きました。
◆脚本では想像しきれないシーンがたくさん
――日本にはあまりないタイプの作品ですね。
宮沢氷魚さん(以下、宮沢)「『こういう感じの現場になるんだろうな』といったことが全く想像できませんでした。芝居部分はある程度想像がつきますが、銃撃戦が始まって血がバッと出るみたいなものも多いので、脚本を読んでいて、とにかく現場に行くしかないなと思いました。そしてそのことが、すごく楽しみでした。
物語としては西島さんが主演ですけど、それぞれの登場人物にフィーチャーしていて、ひとりひとりのストーリーがあって、みんなすごく立っているので、いろんな人に感情移入ができます。本当に飽きないし、とても気に入っています」
◆銃を撃ちまくるシーンで心拍数が急上昇
――強盗団が押し入るラブホテルで働く矢野を演じました。どんな点に気を配りましたか?
宮沢「難しかったですね。希望も全部なくしてしまって、死ぬことに対する恐怖も失っていて、もうなんでもいいやみたいな気持ちになっているんですけど、実はどこかで『生きていたい』という希望を持っている。でもそれを口で語る人ではないので、ひとつひとつの表情や、目の奥に、何かしがみついていきたいという気持ちを表現できたらいいなと大森(立嗣)監督ともお話しました」
――喫茶店で銃を撃ちまくるシーンが印象的でした。
宮沢「本物の銃のような反動があるわけではないので、そこは芝居で足しているのですが、音は思った以上にすごいんです。あの喫茶店は室内だし、耳栓をしないと鼓膜が破れるんじゃないかというくらいの音でした。その音からの恐怖もあったのか、心拍がすごくあがって、なんとも言えない緊張感、高揚感がありましたね」
◆大森南朋と大森立嗣監督には同じ空気感が
――裏稼業にのめりこむ刑事役を演じた大森南朋さんとは、俳優デビューしてすぐのドラマ『コウノドリ』第2シリーズでもご一緒されていますね。
宮沢「すごく可愛がっていただいていて、面倒を見てくださいました。共演はあのとき以来ですが、4年間空いた感じが全然しませんでした。南朋さんはすごくみんなのことを見てくださっていて、僕とか(玉城)ティナちゃんとかにも、いろいろ話しかけて緊張をほぐしてくれるんです。
南朋さんがいると安心して自由にお芝居ができます。そうした心の状態にしてくれる先輩方っていいなと思います。その安心感は、監督にも感じました。ご兄弟ということが関係しているのかわかりませんけど、同じ空気感がありました」
◆ひとつひとつの役が大きくなってきた
――俳優デビューから5年経ち、宮沢さん自身、後輩も増えてきたと思います。自分が先輩になってきていることを意識することはありますか?
宮沢「まだそんなに余裕がないです。自分のことでいっぱいいっぱいですね。ひとつひとつの役が大きくなっていくにつれ、お芝居をする時間が長くなってくるので、その役と向き合っている時間もより長くなります。そのことによって感情移入もより深くできるし、役のことをより理解できるようになってきたかなとは思います。
今までの役柄すべて、その時にできる自分のマックスでしてきていますが、たとえば朝ドラに出演させていただいて、1年間ずっと役と向き合ったりすると、役との距離感はやっぱり近くなります」
◆仕事と私生活のバランスを考えるべき時期に入った
――お忙しくされていますが、仕事と私生活のバランスについて考えますか?
宮沢「考えないといけない時期に入ったなと感じています。これまでは、お仕事をさせていただきながらも自分の時間もたっぷりあって、だからあまり考えなくても勝手にバランスが取れていました。それが、とても幸せなことに重要なポジションを任せていただける役が増えてきました。作品自体も面白いものばかりですし、そうなると、家にいてもずっと仕事のことを考えてしまうんです。
起きた瞬間から、『今日はこれをやって』と考えて、現場が終わって家に帰ってからもずっと考えている。だから、あえて違うことを考える時間を設けなきゃいけないなと、求められるようになって、幸せだからこそ感じます」
◆新しい趣味を探しているところ
――仕事以外には、どんなことを考えたり行動したりしてスイッチを切り替えるようにしているのでしょう。
宮沢「探しているところです。新しい趣味とか。なかなか見つからないですけどね。でもこの映画なんかは、観て本当にスカッとできました。今って、世の中全体で、みんなのストレスレベルがピークを迎えていると思うんです。
ただのバイオレンスものだと思って、『必要なのかな?』と感じる人もいるかもしれません。でも、よりよい世界になることを願って一生懸命生きようとしている人間を描いていて、生きることをすごく考えさせられる映画だと思います。僕にとって、みんなにも、少しでもいいから希望を持って毎日を過ごして欲しいなと思える作品になりました」
(C) 2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
<撮影・文/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi