学校用水泳用品の老舗メーカー「フットマーク」(東京都墨田区)が、男女共用のスクール水着を今年6月に発売しました。

「男女共用セパレーツ水着」という名のこの商品は、上が長袖で下が膝丈のサーフパンツ仕様になっており、既に3つの公立中学校が導入しています。

異例のヒット。男女同じデザインのスクール水着、100校以上が「採用したい」
フットマークから発売された「男女共用セパレーツ水着」
 スクール水着としては全く新しい形のこの水着。開発の経緯についてフットマークの佐野玲子さんにお話を聞いてみました。

◆開発のきかっけは子どもたちの切実な悩みだった

――スクール水着として「男女共用セパレーツ水着」を作った経緯を教えてください。

佐野玲子さん
佐野玲子さん
佐野玲子さん(以下、佐野)「3年ほど前から、弊社の営業担当者が『ジェンダーやLGBTQに対応した水着がなくて困っている子どもがいる』という学校の先生の声を販売店さんを通して聞くようになったんです。ただ、当時はそのような声を聞いてもどんな形の水着を作ればいいのかわからない状況だったので、まずは学校現場にある声を集めようという話になりました」

――3年前から既に話はあったんですね。

佐野「はい。それから3年の間、営業担当が様々な地域で多くの声を集めました。集まった一つ一つの声を聞いていく中で『着られる水着がなくて困っている』『人前で、しかも男女同じ空間で肌を露出したくない』という子どもの切実な思いがひしと伝わってきました。そのような声を聞き、私たちが作る意味を改めて社内で話し合い開発に踏み切りました」

◆子どもが安心して着られる水着を

――子どもの切実な声が開発のきっかけだったんですね。

佐野「ある小学校の先生が、水泳の授業を欠席する子に理由を聞いたところ『水着姿になるのが嫌だから』と答えた生徒が多かったそうです。『水着を着たくない』『なぜ自分の体を見せないといけないのか』という生徒たちの声に対し、先生と保護者とPTAが話し合い『水着を変えよう』と動いたそうです。

 学校側の『子どもが安心して着られる水着を探している』という声が地元の販売店さんを通じ弊社に入り、開発した水着を試験的に導入していただくことになりました。現在その学校を含めた3校の公立中学校が導入してくださっています」

子どもが安心して着られる水着を
――「男女共用セパレーツ水着」が長袖にハーフパンツという形になった理由を教えてください。

佐野「プールの授業では日焼け止め禁止という学校もあります。日焼け止めの成分でプールの水が汚れて循環器などに支障が出ないようにするためなのですが、紫外線量は昔よりも強くなっています。日焼け対策ができるように上半身はサンガード機能のついた長袖にしています。

 ズボンに関しては、水中での動かしやすさを重視した形と丈にしています。膝丈であればお尻周りや太ももなど気になる部分も隠れます。長ズボンですとどうしても動きにくく着脱にも時間がかかります。水泳の授業は着替える時間が短いので簡単に着脱できる形にしました」

◆体にフィットするけど、体のラインは出ないようにした

――上着はラッシュガードではないんですね。

佐野「ラッシュガードでもよいのですが、ラッシュガードは水着の上に着る前提で作られるものなのでダボつくんです。また、1枚では着られないので着脱に時間がかかります。1枚で着られてラッシュガードよりも体にフィットして動きやすくしたのがこの商品です。体にフィットするけど体のラインは出ないように形にもかなりこだわりました」

体にフィットするけど、体のラインは出ないようにした
――1枚で着られるのはいいですね。

佐野「ただ、1枚で着るとなると泳いでいるうちにファスナーが下がって脱げてしまっては困ります。ですので水着にはロック式のファスナーを採用しました。顎を守るチン(顎)ガードもファスナーに付けているのでファスナーで皮膚を痛めたり勝手にファスナーが下がることもありません。スクール水着でしっかりしたロック付きの商品はほぼないのですが、この水着だからこそ必要だと思い採用しました」

◆「安心感がある」と子どもたちからも好評

――実際に水着を使用した子どもや現場からはどのような声が届いていますか。

佐野「『泳ぎやすい』『撥水加工がしてあるから水着が水を吸わない』『水に濡れても体にまとわりつかない』『安心感があるのでこの水着がいい』という声が届いています。子どもから『評価をつけるなら4か5』という好成績もいただきました(笑)。

 泳ぎにくいのでは?という声も聞くのですが、先生方から『学校の水泳授業で使用するものとして全く問題ない』という声をいただいています」

◆商品名に「ジェンダーレス」と入れなかった理由

――デザインがシンプルなので、学校以外でも着られそうです。

商品名に「ジェンダーレス」と入れなかった理由
写真はイメージです。
佐野「男女兼用なので性別関係なくおさがりもできますし、海や公共のプールで着ても違和感のないデザインだと思います。私たちはこの水着を『ジェンダーレス対応』としていますが、あえて『ジェンダーレス』という言葉を商品名に入れていません。それはジェンダーやLGBTQを気にする子だけが着る水着ではないからです。

 小学校高学年や中学は個人の成長の差が出やすい時期です。体毛など体のことでからかわれて嫌な思いをする子もいますし、怪我やアトピーなど人前で肌を見せたくない子もいます。もちろん、特に理由はなくただ人前で肌を出すのが嫌という子もいますしLGBTQで悩んでいる子もいます。どんな理由であってもこの水着を選べるように『男女共用セパレーツ水着』としています」

◆この水着を選択肢の一つにしてほしい

――たしかに理由は人それぞれですね。

佐野「はい。ですので、私たちもこの水着を採用してくださった先生方に『この水着が選択肢の一つになる事を願います』とお伝えしています。この水着を選ぶ子がいる一方で露出度の高い競泳用の水着を選んで、ガンガン泳ぎたい生徒もいると思います。この水着は体育の授業で使う分には全く問題はないですが、とにかく速く泳ぎたいという子にはやはり泳ぎにくいものです。そういう子は自分の着たい水着を選んでどんどん泳いで欲しいなと思います。自分の好きなものを選んで水泳の授業を思いきり楽しんでほしいです」

◆100校以上から「採用したい」

――今後は多くの学校で採用されそうですね。

佐野「実は現段階で、100校以上の学校から採用したいという声をいただいており、その数は日々増えています。通常ですとプールがはじまる年の春頃に水着の注文が入るのですが、今回はプールシーズンが終わってすぐに翌年の注文が入っています。弊社としても異例のことで驚いています。使用者から集まったアンケートをもとにさらに改良を重ね、来年からは一般市場でも販売しますのでぜひ手に取って見てくださいね」

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 気になる部分が隠れるデザインになっているのはもちろんですが、着脱が簡単な形になっていたり、日焼け止めや撥水加工、ロック式ファスナーがついていて『子どもが快適に安全に水泳の授業が受けられる』ことを実現させた水着であることがわかります。

 子どもの切実な気持ちを、多くの大人が真剣に受け止め本気で動いて形になった『男女共用セパレーツ水着』。この水着を選ぶ子も速さに特化した水着を選ぶ子も、どんな子も自分の好きなものを選んで学校生活を楽しんでほしいと思います。

【フットマーク株式会社】

創業74年目の水泳用品・介護用品・健康インナーのメーカー。水泳分野では水泳帽子、学校用水着において高い国内シェアを誇る。介護分野では1980年に「看護」と「介助」という言葉を組合せ、「介護」という言葉を発明。赤ちゃんからお年寄りまで”健康づくり”に役立てる商品を数多く創る。

<取材・文/瀧戸詠未>

【瀧戸詠未】

大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB