子どもの成長を写真とともにSNSに投稿するアカウントは多く、フォロワーからの人気を集めているものもあります。微笑ましい子どもの写真ですが、一方で医師が子どもの写真を安易にアップしないように注意喚起をしたツイートが広がっています。

子どもの写真をSNSに上げないで!小児科医に危険性を聞く
写真はイメージです。
 ツイートには「小児性加害者と話すと『親がSNSにあげる子供の写真を集めるのが趣味。特に夏は水着がよく上がるのでベストシーズン』と答える輩が確かにいる。顔隠しても風景で行く場所は容易に特定される」(ツイート転載)とあり、微笑ましい気持ちで投稿した写真が子どもの性被害につながる危険性をはらんでいることがわかります。

 そこでこのツイートを投稿した新生児科医の今西洋介先生に取材。SNSでの子どもの写真投稿と子どもの性被害についてお話を聞いてみました。

◆生後12日の新生児が性被害にあった事件も

生後12日の新生児が性被害にあった事件も
今西洋介先生
――未就学児など、幼い子どもが性被害にあうこともあるのでしょうか。

今西洋介先生(以下、今西)「あります。北アイルランドで生後12日の新生児が性被害にあったという事件もありました。子どもの性被害は子どもが生まれた瞬間から起きうる問題であり、何歳であっても被害者になる可能性があります」

――生後12日というのが信じられません…。

今西「2002年にWHOが18歳未満の女性に行った調査によると、性被害にあったことがあると答えた女性はヨーロッパやアメリカで約9%という数値でした。ヨーロッパやアメリカは子どもの性被害が多いイメージがあると思うのですが、一方のアジアで性被害にあったことがあると答えた女性の割合は約24%です。アジアでは約4人に1人の女性が性被害にあっているということです。この数字からも、子どもの性被害は我々のごく身近にある問題であることがわかります」

※出典:Wihbey J. Global prevalence of child sexual abuse. Journalist Resource.

◆「小児わいせつ」は性犯罪の中で二番目に再犯率が高い

「小児わいせつ」は性犯罪の中で二番目に再犯率が高い
写真はイメージです。(以下同じ)
――子どもがいつ被害者になってもおかしくないということですね。

今西「アメリカの研究者エイブルは性犯罪研究のなかで、性犯罪を犯した加害者を治療することなくそのままにしておくと、生涯で平均して380人の被害者を生むと指摘しています。驚きの数字ですが、この380人という数字に対しては『実際はもっと多いはずだ』と言う専門家もいます」

※出典:Abel GG. he measurment of the cognitive distortions of child molesters. Annals of sex research 1987;25:135-152

――380人という数字にゾッとしました…。

今西「性犯罪の再犯率が一番高いのは強制わいせつ(痴漢)というデータがありますが、その次に多いのが小児わいせつです。『小児わいせつ』と聞くと私たちは『変態的で異常な行動』と考えますが、加害者は依存症であり実際に話を聞くと『おなかが減ったからご飯が食べたい』と同じような感覚で犯行に及んでいることがわかります。また、加害者は加害行為に対して認知の歪みがあり、『子どもから誘ってきた』と思い込んでいたり『性教育になると思った』と言うこともあります」

◆公園で父親のふりをしてターゲットを物色

――加害者は私たちの想像が及ばない感覚を持っているということですね。

今西「そして、彼らは犯行に至るまで異常なほどの執着心を持っています。警察に聞いた話では、小児性加害者がターゲットになる子どもを探すために子ども用のリュックや水筒を持ち『父親に擬態』することもあるようです。父親に擬態し、デパートのキッズスペースや公園などに行き、そこで遊んでいる子どもの父親のフリをして、ターゲットとなる子どもを物色するそうです」

◆子どもの顔を隠しても反応する加害者はいる

子どもの顔を隠しても反応する加害者はいる
――性被害から子どもを守るために、SNSで気をつけるべきことがあれば教えてください。

今西「子どもの顔写真や裸の写真、水着姿をSNSにUPするのは絶対にNGですが、SNSへの投稿に関して気をつけてほしいのは『小児性愛者が興奮する画像をあげない』ことではなく『子どもが性被害に直結しないようにする』という点です。なぜなら、投稿した子どもの写真のどこで小児性愛者が興奮しスイッチが入るかはわからないからです。顔を隠したり服を着ていても体に反応する加害者はいます。加害者の執着は我々の想像以上で、一度スイッチが入るとその子の服装まで覚えてしまうほど執念深くなります」

――顔を隠しているから大丈夫という問題ではないのですね。

今西「写真に写っている風景から住んでいる地域を見つけ、よく行く場所や〇時にどこにいるなどの生活習慣を特定します。子どもの顔を隠しているから本人まで辿り着かないと思うかもしれませんが、加害者はSNSの投稿から親の顔や情報を見つけます。親の顔を特定して見つけ出した後で親の近くにいる子どもを探し出すんです。SNSに子どもの写真や情報をあげることは、加害者にエサをあげているようなものなのです」

◆保護者や知り合いの中にも小児性愛者はいる

――そう考えると、不特定多数の人が見るSNSに子どもの情報をのせるのはリスクしかないですね。

今西「不特定多数の人だけではなく、保護者や知り合いの中にも小児性愛者はいます。ですので、鍵をかけたアカウントや知り合いしかしかいないメールアプリなどでも注意は必要です。そう考えるとやはりどんな写真であっても、安易に子どもの写真をSNSにあげるべきではないと思います」

――子どもの年齢・性別・状況関係なく、気をつけた方がよいということですね。

保護者や知り合いの中にも小児性愛者はいる
今西「保育園やスイミングスクールなど、子どもの写真をネット上で公開しているところもあります。施設側としては仕方のないことなのかもしれませんが、男女年齢関係なく私はそれもやめるべきだと思っています。子どもの性被害のデータによると男性の推定 7.9%、女性の 19.7% が、18 歳になる前に性的虐待に直面したと推定されています。女児と比べて割合は少ないですが男児も当然被害者になります」

◆信頼関係を築いてから犯行に及ぶ

――なるほど。

今西「小児性加害者はターゲットとなる子に対しすぐに犯行に及ぶのではなく、公園などで近づき何度も声をかけ信頼関係を築きます。これを『グルーミング』というのですが信頼関係を築いた後で犯行に及ぶので、被害にあった子もそれを大人に告げにくく犯行が繰り返されやすいのです。私たちが思っている以上に小児性加害者は様々な手段で子どもに近づいてきます。親が先回りして子どもを守ってあげてほしいと思います」

 幼い子どもを性の対象にしている大人は存在し、その対象が生後2週間の乳児になることもあると知り小児性加害者の異常さを知りました。気軽にUPした子どもの写真や情報がどのように使われるのかは、もはや私たちの想像を超えたところにあります。今西先生の話を聞き、改めて子どもの写真や個人情報の取り扱いは慎重すぎるくらい慎重にする必要があると感じました。

【今西洋介(いまにし・よすうけ)】

新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー代表理事、漫画やドラマ『コウノドリ』の取材協力。国内複数のNICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。著書に『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)がある。

Twitter:@doctor_nw

<取材・文/瀧戸詠未>

【瀧戸詠未】

大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB