さかなクンをモデルとした主人公を、のんさんが演じることでも発表当初から注目を集めていた映画『さかなのこ』が全国公開となり、好意を持って受け止められています。主人公の“ミー坊”を演じたのんさんにインタビュー。

俳優のん、さかなクンの次は口の悪いスーパーヒーローを演じたい
のんさん
 ミー坊とのんさんの共通点や、吸収したいことのほか、のんさん自身が「女性であること」の縛りを感じた瞬間を聞きました。

◆自分の才能を面白いと思ってくれる人の傍に行く

――ミー坊は、のんさん自身と重なる気がします。

のんさん(以下、のん)「そうですね。好きなことにまっすぐ突き進むエネルギーや、自分がうまく行っていないときでも『お魚しかないんだ!』と信じ切っているところにすごく共感しました」

自分の才能を面白いと思ってくれる人の傍に行く
『さかなのこ』より
――ミー坊が周囲を変えてもいますが、好きなことに突き進む上で、ミー坊のまっすぐさはもちろん、周りの人々の温かさも印象に残ります。のんさんも、周囲の支えを感じることはありますか?

のん「私は誉められたいタイプなので、誉めてくれる人とか自分の才能を面白いと思ってくれる人に話を聞いたり、アドバイスをしてもらったり、そういう人の傍にいくようにしています」

――そうした相手をのんさんは感知できるのでしょうか。

のん「感知できます! それに私のお母さんも、ミー坊のお母さんとまではいかないですけど、テストの点数がいいよりも、『楽しかったらそれでいい』という考えなので、勉強とかでうるさく言われたことはありませんでした。女優になりたい、上京したいとなったときにも、最終的に送り出してくれました」

◆ハリウッドの演技メソッドも取り入れ中

ハリウッドの演技メソッドも取り入れ中
『さかなのこ』より
――ミー坊から吸収したい部分はありますか?

のん「知識欲です。私は本当に演技が好きで、オーディションに受かっていないときでも『自分はいい役者になるんだ!』と信じていました。でも、いろんな表現を盗もうという気はあるんだけど、知識を蓄えたいという欲はあまりないんです。だからミー坊みたいに、好きなことに関しての勉強をしたいと思いました。学術的に知っていくというアンテナに憧れますね」

――ハリウッドの演技論などにも興味はありますか?

のん「すごくシステマチックですよね。色んな流派があるし、ハリウッドの役者さんはいくつも勉強していますよね。かなり前にアクティングコーチをしているアーロンスペイサーさんが日本に来たときに、ワークショップをやっていて参加したんです。役を演じる前提としてノートを書くんです。その役柄の人生の目的とか、そのオブジェクティブを遂行する為のシーン・オブジェクティブ、その人のオブジェクティブの障害になっているもの、その人のペインを書き出していきます。そうしたところは、取り入れています。その上で、現場では五感を動かす演技に集中するんです」

◆性別抜きなら『アイアンマン』を演じたい!

――本作のキャスティングが発表された当初、性別の違いが話題になったことがありました。これまでにのんさんが「女性であること」の縛りを感じた瞬間はありますか?

性別抜きなら『アイアンマン』を演じたい!
『さかなのこ』より
のん「役に関してですね。作品を観たり、小説を読んでいて、『この役、私がやりたい! 絶対にできる!』と思えることがあるんですけど、そう感じる役って大抵はそのポジションに男の人が入っていることが多いんです。そういうときに性別の縛りを感じることはあります」

――たとえばどんな役をやりたいと思ったことが?

のん「『アイアンマン』とか! ああいう嫌味でヤなヤツなんだけど、子どもっぽくて甘えん坊で、でも心の奥底ではすごく傷ついているといった役が好きなんです。イヤなところがあるのが好きなんですよね。口が悪いところ。特にそういうヒーロー。でもそういうのって、だいたい男の人なんです。女性だとないとは言わないけど、でもあまり定番じゃないんです。『ワンダーウーマン』とかも好きですけどね。誰よりも強くて」

――ヒーロー系もお好きなんですね。

のん「スーパーヒーローは大好きです!」

◆男か女かはどっちでもいい。ミー坊という唯一のジャンル

男か女かはどっちでもいい。ミー坊という唯一のジャンル
『さかなのこ』より
――では、本編にも登場した「大人なのに」という言葉には、のんさん自身は何を感じますか?

のん「私は『ミー坊みたいに生きたい。子ども心を持って年齢を重ねていきたい』と常に思っています。映画のあの場面のようなことを言う人は、現実でもいると思います。私の場合は、同じことを言われたらはね返しちゃうタイプです。パワーで(笑)。でもそういうのって相手にとったら寝耳に水。持ってる概念が違うだけなんだと気付きました。ちなみに映画本編で『大人なのに』と笑う、島崎(遥香)さんの演技は素晴らしかったです。全然悪気なく言う。ミー坊(のような人)が周りにいなかった人の反応だと思います」

――ありがとうございました。改めて、ミー坊がのんさんで良かったです。

のんさん「ありがとうございます。ミー坊を演じることに、自分自身は違和感がなかったんです。でもオファーにはビックリしたし、観る人が受け入れてくれるのかというのは、すごくドキドキしていました。本読みの時に、ホワイトボードに、それこそ『男か女かは、どっちでもいい』と沖田(修一)監督直筆で貼り紙がされていて、それを読んだときにすごく勇気が湧きました。お魚好きのミー坊という人を演じればいいんだと。自信を持って演じました。男とか女とかじゃなくて、ミー坊という唯一のジャンルだと思います」

(C) 2022「さかなのこ」製作委員会

<撮影・文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi