フランスでもスペインでもない?独自の文化が魅力のバスク地方「ピぺラード」

こんにちは。菓子・料理研究家の山本ゆりこです。4回目となる今回は、独自の文化を築いたバスク地方をご紹介します。バスク人が住み、バスク語を話してきた歴史を持つこの地は、7つの地域で構成され、フランス(3地域)とスペイン(4地域)に広がっています。今月はフランスサイドのバスクの旅へ行ってみましょう。

 

独特の文化を育んだバスク地方


中央の建物の上の方に、赤×白×グリーンの「バスクの旗」が縦に飾られています

フランス南西部、大西洋に接しピレネー山脈を挟むようにして、スペインとの国境に位置するのがPays-Basque(ペイ・バスク|バスク地方)です。赤地に白十字とグリーンの斜十字が交差したバスクの旗や、ヴィヴィッドな色でペイントされたカラフルな木組みの建物、ぶらさげられたPiment d’Espelette(ピマン・デスプレット|バスク産の唐辛子)に生ハムのかたまり、ベレー帽をかぶった陽気なムッシュからの「ボンジュール!」という挨拶……。バスクに足を踏み入れると、こんなインパクトのある風景が目に飛び込んできて、すぐそこはスペインなのだなあという高揚感が膨らんでいきます。


バスクでは、肉屋やパン屋で商品をのせたり、テーブルクロスやテーブルナプキンなどにも使われたりするバスク織り。7本の線はバスクにある7つの地域を表しているとか

バスクも前回のコルス同様、海の幸と山の幸、両方が楽しめる土地。大航海時代に南米からスペインにもたらされた様々な食材がいち早く取り入れられ、唐辛子やとうもろこしなど、フランスの他地域では珍しい食材がポピュラーだったりします。


軒先にぶら下がっている乾燥させたピマン・デスプレットのホール。バスクでは、このような状態で売っている光景をよく見かけます


バスクにしかない泡のホットチョコレート。チョコレートの原料カカオも大航海時代の賜物で、スペインから最初にフランスにもたらされたのがバスクだったとか

なかでも最もバスクらしい食材といえば、ピマン・デスプレットでしょう。やや内陸側に位置するエスプレット村特産の唐辛子で、一般的には乾燥させて細かいパウダー状にしたものを煮込み料理やソース、卵料理などに入れて使います。辛味がほとんどなく、ドライトマトのようなコクのある芳香が特徴で、「美食家の唐辛子」と称されるほど!


サン・ジャン・ド・リュズのレストランでいただいた、バスク柄のお皿に盛りつけられたイカと生唐辛子のソテー。少しオレンジ色をしているのはピマン・デスプレットがかかっているから

 

ラタトゥイユと似て非なるバスクの「Piperade(ピペラード)」


バスクの中心都市バイヨンヌで見かけたJambon de Bayonne(ジャンボン・ド・バイヨンヌ|バイヨンヌ産の生ハム)のかたまり

今月はこのピマン・デスプレットと、トマト、玉ねぎ、バスク産の唐辛子で作るバスク料理の代表格「Piperade(ピペラード)」をご紹介。フランスでもピペラードをアレンジしたレシピが多く出回っていますが、「バスクの旗と同じ色をした野菜、赤いトマト、白い玉ねぎ、グリーンのバスク産の唐辛子を煮込んだものに、卵を加えてスクランブルエッグのようにし、バイヨンヌ産の生ハムを添えて出す」というのが正統派のようです。

ピペラードの野菜部分は、一見、プロヴァンス料理の「ラタトゥイユ」に似ています。しかし、ナスやズッキーニが入らないこと、香りづけにピマン・デスプレットを使うこと、フランス料理ではほとんど使わない「砂糖」を加える……といった違いがあります。今回は正統派にアレンジを加え、卵は落として、半熟になる程度に加熱しています。塩気の強い生ハムにとてもよく合うので、軽めの赤ワインと一緒に、バスクの味をお楽しみください。

 

Piperade〈ピぺラード〉の作り方

フランスでは前菜としていただきますが、パンを添えれば、軽食やランチにも。卵は目玉焼きや半熟ゆで卵、プレーンオムレツなど好きな卵料理にして、煮込んだ野菜、生ハムと一緒のお皿に盛りつけてもOKです。

 

【材料】(2人分)

・トマト(大):3個(※1)

※トマトの水煮缶 1缶半(600g)でもOK

・玉ねぎ(小):1個(150g)

・にんにく:1片

・甘唐辛子:3本

※ない場合はししとう60gでもOK

・赤パプリカ:1個

・オリーブオイル:大さじ2

・塩:小さじ1/2+適量

・砂糖:小さじ1~2(※2)

・ピマン・デスプレット(※3):小さじ1/2

・卵:2個

・粗挽き黒こしょう:適量

・生ハム:4枚

 

※1:生のトマトを使う場合は、総量650gを目安にしてください

※2:砂糖の量は、生のトマトを使う場合は小さじ1、水煮缶を使う場合は小さじ2で

※3:ない場合は、パプリカパウダー小さじ1/2に、好みでカイエンヌペッパーを少々加えたもので代用可

 

【作り方】

1.野菜を切ります。

・トマトは湯むきをし(皮が気にならない人はそのままでも)、ヘタをとって乱切りします。

・玉ねぎは薄皮を除いて薄切りにし、にんにくは薄皮と芽を除いてみじん切りにします。

・甘唐辛子とパプリカはヘタと種をとり、1~1.5cm幅の短冊状に切ります。

 

2.炒めて、煮込みます。

・鍋にオリーブオイルとにんにくを入れ、中火にかけます。

・にんにくが少し色づいたら、玉ねぎを加え、玉ねぎが透き通るまで炒めます。

・甘唐辛子とパプリカを加え、パプリカがしんなりするまで炒めます。

・トマト、塩小さじ1/2、砂糖を加えて軽く混ぜ、ふたをしないで弱火で20~25分煮込みます。

・ほどよい水分量になったら火を止め、ピマン・デスプレットを加えて軽く混ぜます。味見して足りないようなら塩を加えます。

 

3.卵を落として、加熱します。

・煮込んだ野菜をオーブン皿に入れ、くぼみを2ヶ所作り、くぼみに卵を落とします。

・卵黄に竹串などで数ヵ所穴をあけ、粗挽き黒こしょうをふります。

・220℃に温めたオーブンで約20分焼きます。オーブントースターや電子レンジを使うとより早く加熱できます。

 

4.トーストしたパンと生ハムを添えたら完成です。

 

 

ブランチにも、アペロにもぴったりなPiperade(ピペラード)。トロッとした卵と一緒にパンにのせて頬張れば至福の時間。ぜひお試しください!