【いまどきの男を知る会 ファイルNo.36 投資系男子】

ファイルNo.36 投資系男子
 岸田首相が「貯蓄から投資へ」と煽った影響もあるのかもしれませんが、最近投資関連のニュースが世間を騒がせています。TKOの木本武宏が、芸人仲間を投資に誘い、7億円以上の資金を集めたものの運用がうまくいかず、トラブルに発展……。「週刊文春」の記事によると、FXや仮想通貨、不動産投資などにハマっていたそうで、木本氏が信頼してお金を預けていた人物が飛んだと言われているとか。被害に遭わなかった芸人さんの間でネタにされたりしていますが、数千万円預けた人もいて事態は深刻です。

◆投資をする人、内容のないポエムを書きがち

投資をする人、内容のないポエムを書きがち
写真はイメージです。(以下同じ)
 また、「必ず儲かる」と言って投資スクールの客を集め、総額19億円も巻き上げたグループの構成員も逮捕された、というニュースも。主犯格の横田健一容疑者はFX投資のオンラインスクールを開催し、参加者に高額な入学金を払わせていました。グループラインで相場解説はしてくれたそうですが、内容が薄かったとのこと。

 横田容疑者は、ゴルフ三昧、フェラーリにベントレーに高級時計、といった優雅なライフスタイルをインスタで公開。「目先の欲を求めたら先の大きな目標はいつまでも達成できない 大きな目標に向かうための目先の行動をとるべき-後略-」「成功というのは誰かより優れていることや誰かより大きな結果を出したことだけではない。幸せになる! これも成功-後略-」などとよく読んだらあまり内容がない格言風のポエムをストーリーに投稿していました。投資をする人は、ツイッターなどでもポエムを書きがちです。株が下がったときなど、自分の心を落ち着けるようなポエムを書いたり……「恐怖指数」を乗り越える処世術なのでしょうか。

◆投資で30万円が2億になった元板前

投資で30万円が2億になった元板前
 今、気になる「投資系男子」の生態……。今年になって2回ほど足を運んだのが東京ビックサイトで開催された「資産運用EXPO」というイベントです。株式、不動産、保険、外貨預金、暗号資産などの投資商品を扱う会社が多数出展していて、不労所得への果てなき夢が渦巻いています。トランクルーム投資とか、蓄電池投資(蓄電池を再利用するシステム)、コンテナでしいたけを栽培する農業投資(利周り10.8%にもなるとか)、成長率が目覚ましいフィリピンの不動産投資、など、おいしい儲け話ばかりが目に入ります。

 1月に行った時、最も熱かったのが、暗号資産のブース。高級時計をはめた茶髪の若者が、かつて板前修業をしていたのが、暗号資産に30万円ほど投資したら800倍になって「一撃で2億円以上の利益が出ました。コインを買って人生が変わりました」と話していて、お客さんもテンションが高まっていたのが印象的でした。「仮想通貨は運だけです。一発当てれば何とかなってしまう」そしてその若者は、集まった人々を投資スクールに勧誘していました。

◆半年後、暗号資産が暴落。元板前は?

 それから約半年……また同じ会場で開催された「資産運用EXPO」に足を運びました。前回とは大きく状況が変わり、オミクロン株と米国の利上げとウクライナ侵攻によって米国株が大幅下落。それに連動して日本株も下がってしまいました。

半年後、暗号資産が暴落。元板前は?
 暗号資産市場に至ってはメジャーな通貨も軒並み暴落し、メルトダウンしたコインもある、という惨憺(さんたん)たる状況です。ビットコインと投資信託保有者としては気が休まらない状況ですが、「資産運用EXPO」に一発逆転できる希望はあるのでしょうか。

 会場に入ってみて、暗号資産関係のブースはトークダウンしているのを実感しました。誰もいなくてチラシだけ置いてある所も。元板前の億り人とその仲間たちの姿もありません。実は手堅いのか、しいたけコンテナ投資のブースはまだ存続していました。他に目に付いた資産運用は……「利回り10%超え!」とパンフに書かれた「トレーラーハウス経営」。一瞬夢がありますが、まず建てるのに初期費用2000万円近くかかってしまうようです。災害時は仮設住宅として利用できて社会貢献にもなるそうなので、儲けだけではない充足感が得られるのかもしれません。

◆まだまだある怪しい投資話

「ブラジル・レアル建ゼロクーポン社債」(利回り10.633%)という、難易度が高い金融商品も。この商品を発行している銀行は「気候ファイナンスの分野におけるパイオニア」で「赤道原則に署名した最初のフランスの銀行」だそうで、そんなこと言われても素人にはわかりません。

「外貨両替機FCオーナー募集」というビジネスも。機械代金250万円~を払って両替機を設置し、下取り保証も。両替機を設置できる施設を持っている人に限られてきますが、ただ置いておくだけで為替差益などが得られるようです。具体的な年利は表記されていませんでした。

 そんな中、会場で異様に高い利益率のブースが。「利回り35~40%!!」というビジネスは「eスポーツ施設投資(運営委託)」だそうです。利回りが高すぎて怪しまれていたのか、お客さんはあまりいませんでした。

◆TKO木下はどうなる?

 会場で、暗号資産のセミナーがあったので出席。再生可能エネルギーとマイニングをかけ合わせたビジネスだそうで、まじめそうな社長が登壇していました。ビットコインのマイニングには多大な電力が使われますが、こちらの会社では、環境負荷を軽減させるため太陽光発電で採掘しているとのこと。前回のイベントで見かけた、茶髪の億り人と比べて、高級時計もひけらかしていないし、チャラチャラしたところはありません。つい信用して入金してしまいそうです。

 今後、投資先として、エコロジーやSDGsなど社会貢献をしている会社が選ばれるようになっていく予感が。ただ儲けに走った会社は淘汰され、意識が高いところが残っていくのでしょうか。万一損が出ても、社会に貢献できたという満足感は残ります。木本氏も事業を再スタートする時はSDGsの理念を掲げた方がいいかもしれません。

<文/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子】

東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著書は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。