インターネットが普及し簡単に情報を入手できる時代となった今、トレンドファッションやハイブランドが多くの人に親しまれています。
そんな現代からは想像できないような奇抜なメイク、髪型、洋服を身にまとう「ギャル」と呼ばれる10代~20代の女性たちが1990年代に存在しました。時代とともにギャル文化は衰退していったものの、ギャルたちのもつポジティブマインドは現代に通ずることもあるとか。
V6のテレビ番組『学校へ行こう!』の名物コーナー「東京ラブストーリー」人気を集めていた元ギャルのサオリこと藍原沙織さん(41歳)は「年齢に関係なく自分の好きを貫ける世の中をつくりたい」との想いから、今年7月にヴィンテージショップ「KALEKALE(カレカレ)」をオープン。
前編では、藍原さんにギャルのもつパワーや全盛期で過ごしていた藍原さんの話を聞きました。後編では、ブランド立ち上げのきっかけやこだわりについて聞いていきます。
◆トレンドを追いかけないファッション
――KALEKALEをオープンしたきっかけについて教えてください。
自分のライフスタイルや価値観が変わっていくなか、35歳をきっかけに、洋服のキラキラしていない側面に興味をもちました。ちょうどいろいろなメディアで、ファッション業界が抱える環境問題について発信されるようになった時期で、トレンドを追いかけるだけでは、洋服が消費されていくだけと問題視するようになったんです。
今年買った洋服でも次の年になると時代遅れになって、また新しい洋服を買わなければならない。そういうサイクルから脱却したい気持ちが強くなって、何か価値観の変わるファッションを一つ作りたいという想いでKALEKALEを立ち上げました。
――今のファッション業界はトレンドを追うことに焦点を置いているので、その逆を進むのは興味深いです。
今はSNSを使う人たちが増え、簡単にトレンドや情報を追えるようになりました。Instagramを開くと、ハイブランドの洋服や小物を身につけている海外のインフルエンサーや有名人が多くいて、このことに違和感を覚えました。高価なものにこそ価値があるとか、30代を過ぎた女性は若者の一歩後ろを下がるべきなど、世の中のラベリングによりファッションを楽しめない大人は多くいるはずです。
今までとは違う楽しいことをファッションで作り出したいという想いが2年間くらい頭の中にあり、もともと働いていたSPINNSなどのブランドを販売しているアパレル会社に相談しました。今年7月にようやくオープンしたところです。
◆幅広いファッションを自由に楽しむ選択肢を与える
――KALEKALEのもつこだわりとは何でしょうか?
KALEKALEの商品は、基本的にヴィンテージをリメイクしたアイテムを展開しています。一番のこだわりは、ほぼすべての商品をフルクリーニングしてから販売していることです。一般的な古着屋では、買取した洋服をまるごと洗濯乾燥して店頭に並べることが多いので、買ってから洗い残しのシミや汚れに気づく人もいます。そのため、洋服がすぐに捨てられる可能性があります。
私たちは昔の洋服でもお手入れ次第で気持ちよく着られることや、幅広い選択肢のなかからファッションを自由に楽しめることを実感してもらいたいので、それぞれの洋服の年代、素材、汚れの程度に合わせ、職人さんにフルクリーニングをしてもらっています。
――洋服は海外で仕入れたものがほとんどなのでしょうか?
アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、韓国、日本など、国内外に問わず仕入れています。そのなかでも韓国の古着は、日本人があまり着ないようなデザインもあり、独特のセンスが魅力的です。私はKALEKALEがターゲットとしている、30代~40代の人が好みそうなテイストをセレクトしデザインし、縫製を担当する部署にリメイクをお願いしています。
また、9月からはお客様から使わなくなった洋服を無料で回収させてもらう予定です。KALEKALEのテイストに合いそうなものはリメイクさせてもらったり、海外に送ってリユースしたり、ただ買取りするのではなく、お客様が洋服を通して社会の役に立っていることを感じられるコミュニティを作りたいです
――古着をクリーニングしリメイクすることで、新たな洋服として展開していることに魅力を感じました。今の10代~20代の間ではヴィンテージが流行している印象を受けますが、30代~40代の人たちにはあまり馴染みがないのでは?
第一次ギャルブームが起こった1995年前後に、一部のギャルの間で古着が流行りました。ですが、古着を楽しむギャル以外の人たちにとっては、一枚数百円の洋服を購入することに馴染みがないと思うんですね。なので、そういった人たちでも自然とヴィンテージに入り込めるように、クリーニングやデザインにはこだわりをもっています。
◆年齢に関係なくかっこよくいられる社会へ
――では、KALEKALEが今ギャルではなく元ギャルに向けている理由をお聞かせください。
日本にいる人たちが、歳を重ねてもかっこよく楽しめるような未来を作りたいと思っているからです。雑誌やSNSを見ても、20代を中心としたトレンドアイテムばかりが紹介されていて、上の年代のファッションは後回しにされがちな印象があります。30代や40代に向けたブランドはありますが、お金に余裕のある人しか買えないような価格帯で販売されていることが多いので、もっと表現の自由があってもいいのかなと感じます。
――やはり、日本では年齢の壁は大きいように感じますか?
そうですね。それは、仕事で海外に行くとき、ヨーロッパやアメリカなどの空港で車椅子に乗った高齢者の方をよく見かけるときに感じます。日本では、表参道に高齢者や車椅子の方は欧米に比べてあまり見かけないですし、着替えやすい・着替えさせてもらいやすい服ばかりが溢れているように思います。ですが、年齢や障害がハンディとされていない環境があるように、属性にかかわらず好きなファッションを楽しんでもいいと思うんですね。
社会人になってから文化服装学院で障害者の方々の服について勉強していたとき、授業に来てくださった障害者の方が「ファッションが制限されているように感じていたけど、自由に好きな洋服を着てみたら人生が変わった」と言っていたことを覚えています。今の時代だからこそ、ネガティブをポジティブに変えるギャルマインドで洋服を楽しめる未来を作りたいですね。
――KALEKALEを通して、どのような世の中にしていきたいですか?
元ギャルが進んで環境への貢献や古着を取り入れることで、古着そのもののイメージや世の中の認識を変えたいです。そこに参加していることが当たり前のスタンスとなり、かっこいいと思えるような空気感になれば嬉しいです。
<取材・文/Honoka Yamasaki>
【Honoka Yamasaki】
ライター、ダンサー、purple millennium運営。
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