元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。

宇垣美里さん
撮影/中村和孝
 そんな宇垣さんが映画『マイ・ブロークン・マリコ』についての思いを綴ります。

映画『マイ・ブロークン・マリコ』
●作品あらすじ:ある日、ブラック企業勤めのシイノトモヨ(永野芽郁)を襲った衝撃的な事件。それは、親友のイカガワマリコ(奈緒)がマンションから転落死したという報せでした――。

 幼い頃から父親や恋人に暴力を振るわれ、人生を奪われ続けた親友に自分ができることはないのか…。シイノがたどり着いた答えは、学生時代にマリコが行きたがっていた海へと彼女の遺骨を連れていくことでした。道中で出会った男・マキオ(窪田正孝)も巻き込み、最初で最後の“二人旅”がいま、始まる。

 平庫ワカの同名コミックを、『ふがいない僕は空を見た』『浜の朝日の嘘つきどもと』のタナダユキ監督が映画化した本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

◆言葉にならない「なんで」が悲鳴のように響いているよう

映画『マイ・ブロークン・マリコ』
『マイ・ブロークン・マリコ』より
 残された者が死んでしまった人のためにできることなんて、ほとんどない。別れはいつも突然で、受け入れることなんていつまでたってもできなくて、だから、シイノはマリコの遺骨と共に旅に出た。

 幼なじみの自殺をニュースで知ったシイノは、マリコを長年虐待していた父親から遺骨を強奪し、生前彼女が行きたがっていた「まりがおか岬」を目指す。道中マリコからの手紙を読み返し、シイノは彼女との記憶を辿(たど)る。

 弔いのようなその行為から浮かび上がるマリコは、面倒くさくて、重くて、でも一番の親友だった。もっともっと愛していると伝えればよかった。シイノにだってマリコしかいなかったのに。

映画『マイ・ブロークン・マリコ』
 マリコが死んでから、どのシーンからもシイノの言葉にならない「なんで」が悲鳴のように響いているよう。一方の垣間(かいま)見えるマリコの人生はあまりに不憫(ふびん)で、もはやきっかけなど不要なほどに彼女が傷つき壊れ切っていたことがわかる。

 地獄味溢(あふ)れる現実の解像度が高すぎてぐりぐりと心を抉(えぐ)り、シイノが爆発させるごちゃまぜで剝(む)き出しの感情が沁みて沁みて、涙が止まらなくなった。

◆ハードボイルドで鮮烈なシスターフッド映画に爽快感

 シイノを演じる永野芽郁の体当たりなタフさや、マリコ役の奈緒の繊細で危なげなゆらぎはもちろんのこと、マリコの義母を演じる吉田羊の溢れる慈愛や、旅先でシイノに手を差し伸べる窪田正孝の誠実さなど、キャスト陣の地に足の着いた存在感が物語にさらに深みを増す。

 原作マンガの持つ疾走感そのままに、ハードボイルドで鮮烈なシスターフッド映画となっており、悲しい話であるはずなのに観賞後には不思議と爽快感すら感じた。

◆救えなかった自分を抱え、忘れる恐怖に怯えながら、私たちの日常は続く

「もういない人に会うには、自分が生きているしかない」。

 そう、生きている者にできることは、ただ生きて思い出すことだけ。残された者のやるせなさや後悔が、尽きる日などきっと来ない。

 救えなかった自分を抱え、忘れる恐怖に怯えながら、私たちの日常は続く。だから、生きて、生きて、一抜けしちまったあんたへの愚痴を言い続けよう。私たちはきっと、大丈夫。

『マイ・ブロークン・マリコ』

監督/タナダユキ 原作/平庫ワカ 脚本/タナダユキ、向井康介 出演/永野芽郁、奈緒、窪田正孝、尾美としのり、吉田羊 配給/ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA ©2022映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会

<文/宇垣美里>

【宇垣美里】

’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。