支払いをしようとしてびっくり
ギックリ腰になりたてでまだ熱を持った部分を冷やし、足の付け根部分をじっくりとマッサージしてもらうと、大分痛さがゆるみました。
「まだ痛いは痛いですが、ゆっくりなら座ったり立ったりはできるようになっていて驚きました。以前ギックリ腰になった時なんて2日間程は何をするのも激痛で大変だったのに」
そしてマッサージ代の支払いをしようとしたら、例の彼が払ってくれたと聞いて優佳さんは驚いてしまいました。
「名も名乗らないで、そんな親切な人っている?嘘みたいと思いました。しかもタクシー代もいつの間にか払ってあったし、あの人何者って感じでした」
腰痛の王子様にときめき…
そして受付の女性に「彼にお礼が言いたいので、連絡下さいとお伝えください」と自分のメールアドレスと携帯番号を託すと…。
「すると『彼はちょっと前にも同じように、ギックリ腰の人をここに連れてきて助けてあけていたんですよ』と聞き、え?と思い『それはどんな人だったんですか?』と聞いてみたんですよ」
すると「30代後半の男性でしたよ」と聞き、優佳さんは胸が高鳴ってしまったそう。
「一瞬、困っている女だけを助けるナンパ目的の親切なのかな?と疑ってしまったのですが、男性も助けているなんて、これは私の“腰痛の王子様”が現れた!とドキドキが止まらなくなってしまって」
彼からの連絡が待ちきれない優佳さんは、スマホばかり気にしながら数日過ごしました。
「それから5日後に彼から『腰の痛みは良くなりましたか?』とメールがきて嬉しくて飛び上がってしまいました。恐縮する彼に、どうしても直接お礼が言いたいとグイグイ迫ってしまいました(笑)」
彼女に立候補
彼(Yさん・41歳・独身)はデザイン事務所の社長兼デザイナーだということがわかり、優佳さんはランチの約束をすることに成功しました。
「ランチ当日Yさんに、なんでそんな風に見ず知らずの人を助けられるんですか?と質問したんですよ」
すると実は大学生の頃、海外旅行中にギックリ腰になってしまったYさんは、言葉も通じずに痛さで動けずに不安な気持ちで途方にくれていたら、現地の皆さんが驚く程親切にしてくれて、その感動が今でも忘れられず、それから困っている人を見かけたら、自分にできる範囲で助けるようにしているんだと話してくれたそう。
「そんな風にして、余計な出費をしたり、約束の時間に遅れたりしていたのが原因で奥さんに逃げられてしまい、バツイチになってしまったという話も聞いて…なんで?こんな良い人と離婚するなんてもったいないと思い、つい『彼女に立候補したい』と言ってしまいました」
最初Yさんは「落ち着いて。まだ優佳さんは僕のことよく知らないじゃない?」と、少し引き気味にたしなめてきましたが、6回目のデートでようやく首を縦に振ってくれました。
「やっぱりYさんって、私の腰痛の王子様だったんだなと思いましたね。ギックリ腰には腹筋と背筋、あとお尻を鍛えると良いそうなのでよく2人でスポーツクラブデートしていますよ」
「今、とても幸せです」と微笑む優佳さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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