「性的なことに潔癖なタイプ」ではなかった
――主人公のYさんは、以前から下ネタが苦手だったり性的なことに潔癖だというわけではなかったのでしょうか?
加藤かとさん(以下、加藤):本にも少し書きましたが、全然そんなタイプではないんです。Yさんは独身時代からの友人なので、若い頃は女子会で彼氏の話をしたり、ちょっとした猥談をすることも普通にありました。
読者から「お母さんが潔癖過ぎる」「自分は自慰以上のことをして子どもを作ったくせに」というコメントがくることもありました。それとは関係なく、Yさんにとっては「幼い娘が自慰をしていること」がショックだったのだと思います。
Yさんのように、「小さい子の自慰に苦しんでいる親もいるんだよ」と知ってもらいたくてこの漫画を描きました。
――Yさんが実家の両親に虐待を受けていた描写がありましたが、そういう過去はAちゃんとの関係に影響していたのでしょうか?
加藤:Yさんの子どもの頃の虐待の話は、特定を避けるために少し脚色した部分もあるのですが、本人が体験したことをベースに描いています。
でもそれが原因でAちゃんの自慰が受け入れられないというよりも、「実家の両親には相談できない、絶対に頼れない」という気持ちがYさんの気持ちを一層追い詰めてしまったのだと思います。親御さんと関係性が良ければ、相談したりすることで気持ちが違ったかもしれません。
――Yさんは次第に娘のAちゃんに嫌悪感を持つようになってしまいますが、その時期は親子関係にかなり影響があったのでしょうか?
加藤:普段からAちゃんに触るのが気持ち悪くなってしまったそうです。抱きしめてあげることが苦痛でしょうがなくて、Aちゃんに触られるだけで鳥肌が立つような時期がタイトルの通り700日くらいは続いたそうです。
夫とは捉え方の“違い”が
――Yさんは夫にもなかなか相談できなかったのでしょうか?
加藤:やはり「母親なのに自分の娘を気持ち悪いと思っている」ことは、旦那さんにもずっと言えなかったし、他の誰にも相談できなかったと言っていました。
読者から「こんなにひどいことを思うんだ」とか「娘さんがかわいそう」という意見をいただくのですが、Yさん自身が誰よりも自分のことを「ひどい母親だ」と感じていたのだと思います。
――Yさんが夫に悩みを打ち明けたとき、すごく冷静に受け止めていました。なぜYさんと反応が大きく違っていたのでしょう?
加藤:旦那さんの性格の大らかさもあると思うのですが、子どもと関わる時間が圧倒的に少なかったからだと思います。平日はYさんが一人で子どもをみていて、旦那さんは土曜も仕事だったので関わるのは日曜だけでした。あまり関わりがないから、たまたまAちゃんが触っていることに気づいても「ふーん」くらいの反応だったようです。
それに、異性の親だから客観視できることが多いのかもしれません。私も共感できるのですが、同性だとまるで自分を見ているようでイライラすることがあって、自慰のことだけでなく勉強やスポーツでも「どうしてこうなの?」と思ってしまうところがあると思います。