異国との距離を踏破する公演
他にも、『二羽の鳩』では、実際に白い鳩が演出に使われ、舞台上へ飛び立つ鳩が、この憂うべき時世に祈願を込めた。最終演目『春の詩』は、キエフ・バレエの十八番で重要なレパートリー。同バレエ団のアンナ・ムロムツェワとプリンシパルのニキータ・スハルコフが満を持して登場し、ダイナミックな踊りに会場が湧いた。
そしてカーテンコールには芸術監督である草刈さんが登場。花束を抱えながら、出演ダンサーが勢揃いする中央に位置し、客席に右手を上げる。その毅然とした姿からは芸術監督として存在することの重みが伝わってくる。正真正銘のスタアだと思った。
象徴的な鳩の演出にしろ、ウクライナの魂が宿る『春の詩』の演目にしろ、日本でのこのチャリティー公演が、ウクライナへ、そしてそこで暮らす人々に向けて全方位的に注がれていたことに疑いの余地はない。世界は広い。広いだけに、芸術による創造力が、遠く異国との距離を踏破することがある。それを客席で感じた非常にダイナミックな公演だった。
論より証拠の“本能的な回答”
「War is over , if you want it」
ジョン・レノンがベトナム戦争への反戦を歌詞に込めたクリスマス・ソング「Happy Christnas」を発表したのは、1971年。同年には、マーヴィン・ゲイが、ニューソウルの名盤『What’s Going on』の先行シングルとして表題曲をドロップ。ジョンもマーヴィンも愛の大切さを本気で訴えた。同時に、世界で起きている出来事に対して関心を持つことを問うてもいた。裏返せば、無関心が蔓延した世界に救いはないということを。
この2曲の反戦歌が発表されてから50年以上を経た今日、危機に瀕したウクライナに対して、どれだけの日本人が関心を寄せ続けているだろうか。草刈さんをチャリティー公演に衝き動かしたのは、世界的な振付師アレクセイ・ラトマンスキーが自身のSNSに投稿した「ダンサーにはきれいな脚だけでなく、頭と心がある」という言葉だったという。
2009年にNHKで放送された『Shall we ラストダンス?』では、不屈の大バレリーナ、マイヤ・プリセツカヤを前に、「なぜ自分がこれをやってるのか。なぜなのかということを分かってないとだめ」と自問自答していた草刈さん。ここで筆者が冒頭で引用したエッセーの一節が、改めて立体的に浮き上がってくる。その言葉を反芻するなら、ウクライナ危機を前にひとりのバレエ人として何ができるのか?となる。
バレエによる支援は、バレエの流儀に則る。今度は芸術監督として草刈さんの信念が貫かれ、結実したチャリティーが、論より証拠の“本能的な回答”となった。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。
ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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