老後のための資産運用を考えている人にとってiDeCo(イデコ)はとても魅力的な制度ですが、実は投資をやったことがなく、制度の名前ぐらいしか聞いたことがない人にとっても、イデコは転職や退職の際にお世話になるかもしれない身近な制度です。今回はイデコのメリットとデメリット、そして会社員の方にどのように関わってくるのかということをご紹介します。
イデコってどんな制度?
自分で加入し、自分で運用する、自分のための年金
イデコは、個人型確定拠出年金とも言われ、加入するか加入しないかを自分で選ぶことができる私的年金の制度です。自分で加入を申し込み、自分で掛金を拠出し、自分で運用というように、良くも悪くもすべて個人の責任で利用します。老後にそれまで投資してきた掛金と運用で出た利益の合計額を元に、給付を受けることができます。
さまざまな税制上の優遇措置が受けられるので、国民年金や厚生年金保険にプラスして、老後資金の準備のための選択肢の1つとして注目されています。
掛金の上限は国民年金の加入区分によって違う
個人型確定拠出年金は、そもそも自営業者や企業年金が無い会社に勤めている方の将来の老後資金形成のために誕生した制度でしたが、2017年1月からはその対象が、企業年金のある会社に勤めている方や主婦の方にも広まり、今では基本的に20歳以上60歳未満の方であれば誰でも加入できるようになっています。
ただし、掛金の額は国民年金保険の加入区分や所属している会社によって以下のように上限が決まっています。
表1. イデコの掛金の拠出限度額
国民年金の加入区分 | 対象者 | 掛金の上限額 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 自営業者、フリーター | 月額6万8,000円 |
第2号被保険者 | 会社に企業年金がない会社員 | 月額2万3,000円 |
企業型確定拠出年金のみに加入している会社員 | 月額2万円 | |
確定給付企業年金のみ、または確定給付企業年金と 企業型確定拠出年金の両方に加入している会社員 |
月額1万2,000円 | |
公務員 | ||
第3号被保険者 | 専業主婦(夫) | 月額2万3,000円 |
イデコのメリットは税金で優遇されること
税制メリット3つを紹介
イデコの一番の特徴は、3つの税制メリットが受けられることです。どのような税制優遇がどのタイミングで受けられるのかをしっかり確認しておきましょう。
税制メリット1.掛金が所得控除される
イデコに拠出した掛金は全額が課税対象である所得から引かれ、税金が安くなるので結果として同じ年収でも手取り金額が増えます。例えば、毎月の掛金が1万円の場合、年間では12万円拠出することになりますが、仮に所得税が10%、住民税も10%かかっている方の場合、12万円の20%の2万4,000円税金が軽減され、手取りが増えるということです。
税制メリット2.運用益が非課税で再投資できる
普通、投資で利益が出ると、その利益に20.315%の税金がかかりますが、イデコでは非課税で再投資できます。例えば、100万円の資金を運用して120万円に増えた場合、通常なら利益の20万円の20.315%である4万630円の税金が引かれ、受け取れるのは15万9,370円ですが、イデコで同じ利益が出た場合、20万円まるごと受け取ることができます。
税制メリット3.受け取る時の控除が優遇される
イデコでは受取方法を、毎年定期的に一定期間受け取る年金形式か、1度にまとめて受け取る一時金形式かで選ぶことができます。また、金融機関によっては一部を一時金で受け取って、残りを年金形式で受け取るといった受取方法を選べるところもあります。
まず、一時金で受け取る場合は退職所得控除の対象になります。退職所得控除の額は、勤続年数によって次のように決まります。
表2. 退職所得控除額の計算
勤続年数が20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
---|---|
勤続年数が20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数ー20年) |
例えば、勤続年数が30年の場合、退職所得控除額は
800万円+70万円×(勤続年数ー20年)=1,500万円
となるので、1,500万円まで税金がかからないということになります。ただし、気をつけたいのは、この1,500万円という金額がイデコだけではなく、他の退職金も含めた金額であるという点です。会社から退職金が出る人の場合、その退職金とイデコを合わせて1,500万円までが税金がかからない金額です。
次に年金形式で受け取る場合ですが、この場合は「公的年金等控除」を受けることができます。
会社員の方は、年収の金額全部に税金がかかるわけではなく、年収からさまざまな控除を引いた後の課税所得に税金がかかります。つまり、控除が多ければ多いほど課税所得が少なくなり、税金が安くなります。その控除の最も大きなものとして、会社員の方は本来「給与所得控除」が受けられますが、イデコの年金にはそれとは別の控除が適用されるということです。
では、給与所得控除と公的年金等控除の額をそれぞれ確認し、どれぐらい違いがあるのかを見てみましょう。
表3.給与所得控除額(2017年~2019年分)
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
180万円以下 | 収入金額×40% ただし、65万円に満たない場合は65万円 |
180万円以上、360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円以上、660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円以上、1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1,000万円以上 | 220万円(上限) |
表4.公的年金控除額(2005年~2019年分)
受給者の年齢 | 公的年金等の年間収入額 | 公的年金等控除額 |
---|---|---|
65歳未満 | 130万円以下 | 70万円 |
130万円以上、410万円未満 | 収入金額×25%+37万5,000円 | |
410万円以上、770万円未満 | 収入金額×15%+78万5,000円 | |
770万円以上 | 収入金額×5%+155万5,000円 | |
65歳以上 | 330万円以下 | 120万円 |
330万円以上、410万円未満 | 収入金額×25%+37万5,000円 | |
410万円以上、770万円未満 | 収入金額×15%+78万5,000円 | |
770万円以上 | 収入金額×5%+155万5,000円 |
収入による区分が違うのでわかりにくいですが、例えば年間の収入が300万円の場合を比べてみると、
給与所得控除額 =300万円×30%+18万円 =108万円
公的年金控除額(65歳未満) =300万円×25%+37万5,000円 =112万5,000円
公的年金控除額(65歳以上) =120万円
となり、公的年金等控除の方が給与所得控除より、大きな控除を受けられることがわかります。
イデコのデメリットも理解しておこう
原則として60歳まで引き出せない
税制面で多くの優遇を受けられるイデコですが、メリットの半面デメリットや制約もあります。中でも最も注意していただきたいのが、原則として60歳まで資産を引き出すことができない点です。
イデコの本来の目的が老後資金の準備であるため、このような制約があるのですが、特にこれから結婚・出産、住宅購入など多くのライフイベントが控えている方や、起業・転職などを考えている方は、緊急に資金が必要になった場合でも、イデコに拠出してきたお金は使えないことは覚えておきましょう。
また、人生では時に予期しないアクシデントが起こります。ある日急に大きな病気に罹ったり、仕方なく会社を辞めなければならなくなったりする時も来るかもしれません。イデコは確かにお得な制度ですが、イデコだけで老後の準備をすることなく、預貯金などいつでも使えるお金も同時に貯めていくようにしましょう。
毎月手数料がかかる
イデコでは、加入する時に2,829円、運用期間中に毎月171円~629円、受取時に440円(振込の都度)の手数料がかかります。銀行口座に預金する場合であれば、ATM手数料などはかかりますが、基本的に預入するだけで手数料を取られることはありませんので、この点はデメリットと言えます。
イデコで購入できる商品には元本確保型と投資信託がありますが、投資で失敗するのが怖いからといって元本確保型の商品ばかりで運用していると、手数料を考えたら全然利益にならなかったとか逆にマイナスになっていたということも起こりうるので注意しましょう。
投資で損をする可能性がある
元本確保型の商品ばかりの運用では、手数料を考えるとイデコのメリットがあまり生かせません。投資信託には当然リスクがあるので、運用がうまくいかないと損失が出る可能性があります。もちろん商品を適当に選んでいては利益を出すことは難しいでしょう。投資信託を買うならしっかり勉強して投資に関する知識を得ることが大切です。
退職金とイデコの関係
イデコは確かにお得そうだけど、投資は怖いので利用しないようにしようと思った人もいるかもしれませんが、実は会社員の方は好む好まざるに関わらず、将来イデコを利用することになるかもしれません。
最近では会社員の方の退職金を企業型確定拠出年金で準備する会社が増えてきましたが、この企業型確定拠出年金とイデコ(個人型確定拠出年金)は基本的に同じ制度です。企業型確定拠出年金の特徴として、転職しても転職先に企業型確定拠出年金を実施していれば、新しい転職先の制度に資産を移管することができます。
では、転職先の会社に企業型確定拠出年金が無い場合や、起業したり専業主婦(夫)になったりする場合はどうなるでしょうか。この場合は前の会社で退職金として積み立てられた資産をイデコに移管することになります。
つまり、確定拠出年金を実施している会社に勤めている方は、みなさんイデコを利用する可能性があるということです。投資に興味がない自分には無関係だと思わずに、イデコのことを理解しておくことが大切だということを理解していただけるのではないでしょうか。
老後資金が心配なら利用して損は無い制度
イデコを利用すると税金面での優遇があり、老後資金の準備を目的とするならとてもお得な制度といえるでしょう。もちろん人生で必要になるのは老後のための資金だけではありませんし、期待したように運用がうまくいかないかもしれません。しかし、会社員の方であれば誰でも関わる可能性がある制度なので、内容はしっかり理解しておきましょう。
【こちらの記事もおすすめ】
>iDeCo(個人型確定拠出年金)はSBI証券と楽天証券どちらがおすすめ?FPが解説
>iDeCo(個人型確定拠出年金)そろそろ始めたい!金融機関と運用商品ランキング
>iDeco(個人型確定拠出年金)におすすめの金融機関は?失敗しない選び方も解説!
>iDeCo(個人型確定拠出年金)で節税できる仕組みを解説。年収500万円でいくら得する?
>iDeCo博士になろう!iDeCoについて徹底解説