家計の経済状況は人によってさまざま。今は安定していても、リタイア後の資金が多すぎることもあれば、不足することもあります。今回は、リタイア後に家計破綻の可能性が高かった自営業Aさんのケースを紹介します。

自営業Aさん夫婦の場合

年齢:夫45歳 妻45歳 子ども2人 12歳、9歳
収入:夫700万円  妻100万円(50歳で仕事を辞めたい)
貯金:800万円 住宅ローン残1,300万円

夫は自営業、妻はアルバイトで世帯収入は夫婦あわせて800万円です。収入的には比較的ゆとりのある生活に思えますが、キャッシュフロー表を作成してみると、年金生活が始まって間もない70歳頃には破綻することがわかりました。

収入が多いのに老後破綻するのはなぜ?

Aさんの老後の収支をシミュレーションすると、以下のような結果になりました。

収入 

年金予想額:国民年金は、夫と妻の分75万円×2で、厚生年金は妻の支給のみで約30万円
合計180万円

支出

生活費予想額:60歳からの生活費年額330万円

このままでは毎年150万円の赤字となります。自営業の場合、会社員と比べて受け取る年金額が少ないため、事業収入がなくなったときに家計への負担が一気に大きくなる可能性が高いのです。現役時代はまとまった収入がある人も、しっかり対策を考えておかないと老後破綻につながりかねないので注意しましょう。

Aさんの老後資金への対策

下記の対策をとり、約3,700万円の改善を見込みます。

収入を増やすための対策

  1. 夫:70歳までは自営業を続ける
    →増加見込み 約1,500万円

2.夫: iDeCoに加入し老後資金を増やす
・45歳から60歳まで年間30万円拠出
・年率3%で算出すると、
元金450万円で受け取り額は約700 565万円
掛金非課税益 135万円(所得税90+住民税45万)
 565+135-450=250万円  →増加見込み 約250万円

  1. 妻:厚生年金へ加入できる勤務形態に変更し50歳で辞めるのではなく45歳から55歳まで10年間は勤続する
    ・勤務増による収入の増加と厚生年金受給額増額
    → 増加見込み 約1,250万円

支出の見直し

  • 生活費を見直す、年間330万円かかっていた生活費を280万円まで減らす(60歳-75歳までの15年間)
    330-280=50
    50×15=750
    →削減額 約750万円

自営業の老後資金計画で必要な基礎知識

自営業の年金と会社員の年金の違い

自営業の方の年金は、国民年金(老齢基礎年金)です。20歳から60歳までの40年間、全期間にわたり保険料を納入した場合に満額の受給ができます。年金受給額は満額で約78万円。65歳から受給が可能となります。

また、受給資格期間が10年以上あれば年金の受給が可能となりますが、この場合は加入期間に応じた額を受給することになります。

会社員の方の年金は、国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(老齢厚生年金)です。厚生年金は現役時代の給与と勤務年数で受給額が変わり、年間1万円位から200万円位まで個人によって異なります。厚生年金に加入するには、勤務先や勤務条件、年収106万円以上などの条件をクリアする必要があります。

自営業の人にはiDeCo(個人型確定拠出年金)がおすすめ

iDeCoは、もらえる年金が少ない自営業の方にとって、老後の資金づくりにぜひ検討したい選択肢です。20歳から60歳まで加入できる「長期・積立」の投資のことで、自営業の場合、加入上限は68,000円/月、81.6万円/年となっています。

iDeCoは掛金と運用益が非課税。給付時には公的年金控除があるなど、大きな節税メリットがあります。一方、原則60歳までお金が引き出せないなどデメリットもあるので、よく確認してから加入するようにしましょう。

キャッシュフロー表は100歳まで作成しよう

「平均寿命」は毎年のように伸びています。平成30年簡易生命表の概況によれば、男性は81.25歳、女性は87.32歳(2018厚労省)となっています。現在40歳の方の平均余命は男性で42年、女性は48年。つまり、男性は82歳まで女性は88歳まで生きる計算です。50%の確率で100歳まで生きるという説もあり、できればキャッシュフロー表は100歳まで考えたほうがよいでしょう。

公的年金が不足の場合、早めに複数対策を!

老後の対策は、複数考えて実施することが大切です。検討すべき項目について整理しておきましょう。

自分の状況を把握する

  • 年金支給の概要、支給年齢や概算額、受給額などを調べておきましょう。
  • 状況の変化を予測するために、キャッシュフロー表でシミュレーションしましょう。

収入を増やす

  • 自営業の場合、定年を意識せずに収入を得ることもできます。しかし厚生年金がないので、個人年金、iDeCo、NISA等対策を考えておきましょう。
  • 配偶者の厚生年金が増える場合もありますので確認しましょう。

支出を減らす

  • 収入に合わせた生活レベルを考え、貯蓄額を決めて支出額を逆算するのが基本です。

自営業の場合、老後資金が不足する可能性がありますので、早めに自分の年金額を調べるようにしましょう。

 
文・淺井敏次
肩書・FP事務所ASAI代表/CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、ビジネス法務エキスパート\

大分県知事任命「豊の国 かぼす特命大使」、京都大学卒\

ビール会社退職後、中立な立場で社会貢献するため、FP事務所開設。独立系FPの視点でお客様の利益最優先に提案業務にあたっています。

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