高齢化社会への対策として、AI(人工知能)活用への期待が世界中の国・地域で高まっている。

日本はもちろん、中国では政府の「AI発展計画」とともにアリババ、テンセント、バイドゥの3大IT企業がAI医療分野に参入したほか、シンガポールでもAIを活用した大規模な医療システム改革が行われている。

欧米でもAmazon Alexaやクラウドサービスを融合させた在宅支援ツール、年金生活者の多い地域での自動運転タクシーの普及など、様々な取り組みが拡大している。

2050年には20億人が60歳以上、4億人が80歳以上に?

高齢者を支援する慈善団体エイジ・インターナショナル の2017年の発表によると、過去50年で出生時の平均余命はほぼ20年伸び、60歳以上の世界人口は96.2億人に達した。そのうち60%が発展途上国で暮らしているが、2050年には80%を上回ると予想されている。つまり60歳以上が20億人、80歳以上が4億人に増えることになる。2000年に発表された数字の2倍だ。

急速に進む高齢化社会に対応する意図で、AIの活用に注目が集まっている。身体的な支援を行う介護向けロボットのほか、労働力の不足を補う目的で単純作業から知的な業務もこなせるAIの開発が強く求められている。

身体的な介護だけではなく、在宅生活を支援するツールも重要

「超高齢化社会」と称される日本では経済産業省が産業変革の一環として 、「AIにより認識・制御機能を向上させた医療・介護ロボットの実装」を発表。厚生労働省の調査では、2025年には日本における65歳以上の割合は人口の30%を超える3657万人に達すると予測されており、早急な対応策が必須となる。こうした流れから、現在様々な企業がAIを利用した高齢者支援商品の開発に乗りだしている。

高齢者支援と聞くと介護ロボットが真っ先に頭に浮かぶが、高齢者の自立を促進するためには在宅支援ツールも重要となる。例えばMJIが開発したコミュニケーション・ロボット「タピア(Tapia) 」は、あらゆる機能をパーソナライズ化し、対話形式のコミュニケーションを実現することで機械にありがちな冷たさをなくし、家族や友人のような温かみの感じられる工夫がなされている。

顔や名前、誕生日といったユーザー認識から、スケジュール管理、ニュースや天気予報の読み上げなど基本的な日常生活を支援するだけではなく、外出先からのモニタリング、遠く離れた家族への通知と、ユーザーにとってもその家族にとっても心強いサポート機能が満載だ。

国外大手との代表的な提携例としては、2015年、日本郵政局がIBM、Appleとの共同開発を発表している。IBMとAppleは2014年にエンタープライズ分野での戦略的提携関係を結んでおり、日本郵政局が目指すiPadをベースとした高齢者向けネットワークサービスの開発・普及を手助けするという試みだ(テック・クランチより )。

2.5兆円投じた中国政府「AI発展計画」 20年までに世界水準目指す 

中国でも高齢化社会対策が重要な課題となっている。60歳以上の人口は1.85億人。そのうち子どもと同居している割合は38%。多くの高齢者が介護施設での生活を余技なくされているが、医療・介護現場の負担の軽減とともに介護の質向上を目指すうえで、AI技術が要となる。

2017年7月、中国政府は「次世代AI発展計画」を発表した。2020年までに1500億人民元(約2.5兆円)を投じ、「AI技術の水準を世界レベルにまでひきあげる」というものだ。他国同様、多様な分野でのAI活用を目指しており、高齢社会化対策もここに含まれる。2025年までには予算を4000億人民元、2030年までには1兆人民元に増やす。蘇州市や深セン市など特定の都市では、自治体が地元の企業に支援を提供している(フォーブス誌より )。

アリババ、テンセント、バイドゥがAI医療分野に参入

アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)、バイドゥ(百度)の中国3大企業も、AIを活用した医療・介護事業に参入している。

アリババの医療部門であるアリヘルス(阿里健康信息)は国内の病院と提携し、読み込んだCATスキャン画像からAIが炎症細胞を特定する診断サポートソリューションを開発中だ。バイドゥはチャットボット型の医療コミュニケーションツールを開発、テンセントは深セン市のAI医療データスタートアップiCarbonX(?雲智能) や、インドのヘルスケア情報スタートアップ、プラクト(Practo)などに出資している(サウスチャイナ・モーニング・ポストより)。

中国大手ロボットメーカー、上海SIASUNロボット・アンド・オートメーション(新松机器人自動化)は高齢者専用の在宅支援ロボットを発表したほか、済南市にある山東大学のロボティック研究所が、音声・視覚情報を顔認識技術と組み合わせたセキュリティーシステムを開発した。訪問者の写真を家の所有者に通知し、なんらかの問題が生じた場合、緊急の連絡先に通報するというものだ(チャイナデイリーより )。