スペイン、ヴァレンシア州の街ブニョールを舞台に、毎年8月最終水曜日に行われる収穫祭「ラ・トマティーナ」。日本でも「トマト祭り」の名で広く知られており、祭りに参加するためのツアーまで組まれているほどの人気ぶりだ。2016年は8月31日に、街の人口の倍以上となる2万2000人が参加、160トンのトマトが盛大に空中を飛び交った。これだけ大量のトマトを使用するために必要な費用はどのくらいなのだろうか。トマティーナの歴史を振り返りつつ、みていこう。

トマティーナの歴史

1940年代半ばに始まったトマティーナだが、その起源については「トマトを売っていたスタンドの前での喧嘩」というのから、「住人同士の階級闘争」、「戦争の負傷でこんなに真っ赤になっても死なないとのメッセージ」など、様々な説がある。

トマト投げが過激になり過ぎて、2度にわたり禁止されたトマティーナが、開始のタイミングや、祭りの前後には絶対にトマトを投げないなどのルールを決めてオーソライズされたのは、1959年のことだった。

やがて祭りは国際的なものへと発展し、はじめのころは参加者が持ち寄って投げ合っていたトマトも、1975年からはブニョールが用意するようになった。参加人数も増える一方だったため、ある程度の節度を保つ必要もあって、2013年からは有料の入場予約制となった。2016年の普通料金は10ユーロ、日本円の約1150円だった。

整然、騒然、そして再び整然へ

祭りの朝、広場に「パロ・ハボン」と呼ばれる、石鹸でつるつるした数メートルある棒の先端に生ハムをくくり付けたものが持ちだされる。毎年多くの果敢なチャレンジャーたちが、生ハムを取ろうと我先に棒に登ろうと試みる。もちろん一番最初に生ハムを取った者が勝利者だ。

ところがその勝利者は表彰されるわけでもなく、「生ハムが取られた」という行為がトマト投げ開始の合図となって、広場に集まった人々が一斉に「ト・マ・テ!ト・マ・テ!!」と叫び始める。トマト投げをスタートする儀式が終わったところで、大量のトマトを載せたトラックが広場に到着するのを、今や遅しと待ち構えているのだ。

参加者は、「ビンなどの危険物は持ち込まない」、「他人のものも含め、服を破らない」、「トマトは投げる前に適度につぶしておく」などのルールに従いながら、とにもかくにもトマトを投げまくる。そして一時間後の合図と同時に投げ合いは見事にストップ。この終了の合図から2時間も経つと、街はまるで何事もなかったかのような日常を取り戻す。