IT展示会が時代の大きな変化の波に飲まれつつある。

IT企業が自社の製品と名前を知ってもらうIT展示会。ソフトウェア・ハードウェアどちらの企業も同様であり、自社のビジネスを広げるという意味で大きなイベントのはずだ。

しかし今や企業がWebサイトで自社の商品を世界中に宣伝するということが当たり前となり、相対的に展示会の重要性は低下しているとも言える。

実機に触りたい欲求にこたえる場

特に21世紀になってからのIT系展示会は縮小傾向であり、かつては米国ラスベガスで開催されていた世界最大のIT展示会COMDEXは既に無くなり、世界各地で開催されていたMacWorldExpoは本家本元のAppleが出展を取りやめた途端に消滅した。

しかし、IT展示会が必要とされなくなったのかと言われるとそうではない。事実、現在でも大規模なIT展示会は開かれているし、集客数も決して少なくない。

インターネット上では、特にハードウェアのスペックや外見などは確認できるが、実際に目にして見るのとでは大きな差がある。ソフトウェアも同様で、店頭で試せるものやダウンロードして試用できるものを除いては、業務用のシステムなどを試せる場所というのは、展示会以外ではなかなか存在しない。

つまり実際に目で見て試したい、触れてみたいという欲求に応える場所としては、実際の展示会が一番というわけである。

デモ製品の側には技術者がいることも多く、消費者が実際の技術者に疑問を投げかけられる数少ないチャンスという点も見逃せないだろう。

またマーケティング担当者も会場に数多く詰めており、Webサイト上などの文字に残る場ではなかなか出てこない話を彼らから聞けることも少なくない。

展示会場の「空気」で感じられる勢い

2007年3月のCeBIT(ドイツ・ハノーファー)では、当時、シェアを争っていたブルーレイ陣営とHD DVD陣営がほぼ横並びに展示していた。

HD DVD陣営は薄暗いブースの中に映画館を模した形の展示で、入場者にはポップコーンを振舞うという徹底したプロモーション。

しかし来場者の関心はかなりの割合でブルーレイに向いており、どちらの陣営が集客していたかは一目瞭然だった。そしてその展示会から1年経たずして、HD DVD陣営は終息宣言した。

ちなみにHD DVD陣営の某社の担当者が言っていた「うちはポップコーン配ってるだけだから(来場者がポップコーンを取ってブルーレイのブースに行く、という意)」というボヤきは強烈だった。

当時の普及の度合いを考えれば既にこのCeBITの時点で勝負は付いており、どれだけ派手なプロモーションをHD DVD陣営が行おうとも、来場者はその「空気感」を読み、どちらが勝者なのかをハッキリと感じ取っていた。