本連載も三回目である。投資対象としての有価証券がFinTechによりどのような影響を受けるかを検討する。

第1回「FinTechが資本市場に与える影響とは?
第2回 「仮想通貨」とは何か?

「有価証『券』」は、市場では取引されていない?

「有価証券」とは何かという問題について、私法上の通説として、「私法上の権利(財産権)を表章する証券であって、それによって表章される権利の発生、移転または行使の全部又は一部に証券を要するもの」というものがあり、有価証券法理と呼ばれる。

要は、財産上の権利は目に見えないので、それを目に見えて発生・移転・行使をさせるために証券という「紙」を媒体とするという考えである。

2009年1月から日本国内の証券取引所で売買される上場株式の株券は電子化された。投資信託の受益証券は、2007年1月から電子化されている。

そして、会社法も、例外的に定款で定めれば株券の発行が可能となるものの、原則として株券は発行しなくてよいように改正された。

つまり有価証券取引といいながら、市場で実際に行われるほとんどの取引では、「有価証『券』」という「紙」は取り扱っていない。実際には“有価証”明“情報”を取引しているにすぎない。

金融商品取引法(金商法)上の「有価証券」の考え方

しかし、金商法上では前述の有価証券法理を前提としながら、有価証券の定義として第2条第1項各号で、伝統的な“紙”の証券の国債証券、株券、投資信託の受益証券などを限定列挙している。

そして、例外的に同条第2項で、昨今の有価証券のペーパーレス化により券面(「紙」のこと)が発行されていない場合でも、第1項の特定の権利を有価証券とみなすことを定めている。例えば、株式で株券が発行されていないものでも、株券とみなされる。

前述のように実際には市場で売買されるほぼ全ての株式はこのみなし株券であり、例外が原則となっているという奇妙な状態になっている。

「有価証『券』」は必要か?

有価証券という概念は、財産権という目に見えない価値を実際に手に取って、見えるようにし、発生・譲渡・保管しやすくしたという点で、人類にとって画期的な発明であった。

もっと広く言えば“価値”を記録する対象としての“モノ”、過去の情報通信技術の下では、「紙」しかなかったから発展した概念ともいえる。

そして近時の情報通信技術の発展の結果、せっかく目に見えない権利を目に見えるようにした「有価証券」を、わざわざ電子化してまたその権利を見えないようにしているという皮肉な状態となっている。

「有価証『券』」という概念があるために、かえってめんどくさいことになっているのである。

では本当に「有価証『券』」という概念は必要なのか?