早速で恐縮だがこの問題を解いてみてほしい。

あなたは友人とお金を賭けてサイコロで勝負をすることにした。大きな目が出た方が1勝で、先に3勝した方が掛け金を総取りできる。友人が2勝、あなたが1勝したところで、あなたの携帯が鳴った。緊急の用事で勝負は中止しないといけない。そこで友人はこの段階で掛け金を分けようと提案してきた。

さて、掛け金はどうわければいいのだろうか?

それまでの勝負を振り返ると、友人は2回、あなたは1回勝っている。そのため2:1でわければ良いと考えた人がいるかもしれない。

しかし、それは数学的に間違いである。正解は3:1だ。

金融のプロは期待値で考えることが基本

金融の世界ではバックテストと呼ばれる過去の検証をよく行う。ファンドの運用実績を比較したり、私の専門のひとつであるアルゴリズムトレードにしても過去のデータを振り返って改善を図ったりすることをしばしば行っている。

しかし、バックテストはあくまでも過去を参考にして現在に活かすために行うものだ。友人が2回勝ち、あなたが1回勝ったというデータは、「友人がいかにラッキーだったか」を数値化したものにすぎない。

本来、比較すべきはあなたと友人が「どれだけ3勝に近いか」を見える化することである。これを期待値と呼ぶ。つまり未来選択の可視化である。そして、金融のプロは常に期待値で判断する。

私は金融畑に30年いるので、よく人から「金融を知っているとお金持ちになれますか?」と聞かれる。私は決まってこう答えるようにしている。「それは神のみぞ知ることです。ただ、宝くじを買うくらいなら株を買ったほうがいいことくらいは断言できます」と。

たとえば2015年の年末ジャンボ宝くじで1等7億円が当たる確率は2000万分の1だ。こうして見える化してみれば、いかに割に合わないギャンブルかよくわかる。一方、期待値を考えずに過去のデータだけ見ていると「この売り場から高額当選が出たんだ。すごい行列だな。買ってみようかな」と心が揺らぎ、時間と金の無駄使いをすることになる。

先の問題に話を戻そう。1勝しかしていないあなたが先に3勝するためには、2連勝しないといけない。その確率は「1/2×1/2=1/4」だ。一方、友人が勝つ確率はあなたが負ける確率と同じなので「1-1/4=3/4」になる。よって、「3/4:1/4=3:1」となるわけだ。

これこそフランスの偉大な自然哲学者ブレーズ・パスカルが確率論を生むきっかけとなった問題である。数学をかじったことがある人や金融機関で運用に携わる方なら、既知であったはずだ。