首相級の進退にも波及し、物議を醸す「パナマ文書」。アイスランドのグンロイグソン首相(当時)が同文書の公開を受けて出された、租税回避地を利用した資産隠し疑惑への批判に抗しきれずに辞任した。ほかにも、英国のデービッド・キャメロン首相の父親もパナマ文書で名指しされており、同国内で議論を巻き起こした経緯もある。

世間を騒がせているこの「パナマ文書」は、タックスヘイブン(租税回避地)の一つであるパナマの法律事務所・モサックフォンセカから流出したもの。政府首脳にも連なる人物や大企業の名も取りざたされ、潤沢な資金を持つ個人や組織だけが、租税面でも有利になる仕組みに「不公平ではないか」との声も出ている。

その中で、「タックスヘイブンは不要」など、パナマをはじめとした租税回避地そのものに否定的な見解も示されている。他方で、「合法的な節税には何ら問題ない」との意見も登場しており、真っ向から反対派の意見と対立。租税回避地の是非については、反対派と容認派が火花を散らせていると言えそうだ。現状を改めて解説する。

「パナマ文書」騒動は収まらず国内にも飛び火

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は、2013年にタックスヘイブンに設立された10万超のペーパーカンパニーなどの情報を公表した。5月9日には続いて「パナマ文書」に21万4000件の情報を新たに加えた「Offshore Leaks Database」をICIJが公開しており、こちらも注目を集めた。

同データベースには、タックスヘイブンの一つであるパナマに設立された約32万社のペーパーカンパニーとそれに関連する36万以上の個人と企業の名前、および住所が格納されており、「節税熱心」な人々の膨大なリストが明らかになった格好だ。

その中で、日本にゆかりのある名前も登場するなど国内への影響も強まりそうな情勢。具体的には、三菱商事 <8058> 、伊藤忠商事 <8001> 、丸紅 <8002> 、ソフトバンクグループ <9984> などに、同文書は言及。さらに、セコム <9735> の飯田亮取締役最高顧問、楽天 <4755> の三木谷浩史会長兼社長の名前も登場しており、大手企業や著名な経済人らが説明責任を果たせるかどうかも注目だ。

なおパナマは人口350万人弱の独立国家であり、パナマ運河関連など通常の経済活動を目的に現地法人を設立した企業も少なくない。正当な目的に基づいて設立された企業と、過度な節税を目的としたペーパーカンパニーを容易に識別できないことには留意すべきだ。

「租税回避地」反対派・ピケティ氏らと容認派・堀江氏ら

ICIJのデータ公表を受けて355人の世界的な経済学者がタックスヘイブンの根絶を求める書簡を公表した。その中には「21世紀の資本」で大きな注目を集めた、パリ経済学校で教授を務めるトマ・ピケティ氏も含まれるという。

さらには、2015年ノーベル経済学賞者である、プリンストン大学教授のアンガス・ディートン氏、貧困問題の著名な研究者で、コロンビア大学教授のジェフリー・サックス氏が含まれ、学界からは主に、反対の声が上がっている様子だ。

同書簡では、「(タックスヘイブンは)一部の富裕層や多国籍企業を利するだけで、不平等を拡大させている」と批判し、「世界全体の富や福祉の拡大に寄与せず、経済的な有益性はない」と断じている。

他方で、パナマ文書に関し楽天の三木谷浩史氏の名前が挙がったことなどを踏まえて、堀江貴文氏はツイッターで、「パナマ文書のどこにニュースバリューがあるのかさっぱりわからん。普通に個人として無駄な税金納めないのって普通じゃね?」と述べるなど、租税回避地の活用に理解を示した。

ほかにも、タックスヘイブン自体は合法的な仕組みでまったく問題ないもので、むしろ情報をリークした側の犯罪を問うべきだとの意見も出ており、「節税は合法なので問題ない」という反対派への反論も出てきているのが現状だ。