30代後半に差しかかった独身女性が婚活を始めるなら、あまり時間をかけずにゴールインしたいと思うのは無理のないこと。妊娠・出産を考えると早い方がいいと思ってしまいますし、なかなか決まらないと焦ってしまいます。

しかし筆者は、焦りから急いで結婚を決めようとしているのなら「ちょっと待って!」と声を掛けたい。というのも、スピード婚の陰には「離婚」という落とし穴も潜んでいるからです。大きなリスクの存在や、筆者が直面したDVのお話をしたいと思います。

離婚の原因、もっとも多いのは?

(写真=Alex Linch/Shutterstock.com)

日本では、離婚した夫婦の33.5%が結婚期間5年未満というデータがあります。(厚生労働省『人口動態調査』2017年、同居期間不詳を除く)。離婚理由は何か、結婚期間別のデータではありませんが、「司法統計年報-家事編」(最高裁判所事務総局、2017年)から探ってみましょう。

男女ともトップは「性格の不一致」だけれど……

「司法統計年報-家事編」には、全国の家庭裁判所が扱った離婚調停など家事事件のデータがまとめられています。申し立て理由を見ると、トップは男女とも「性格が合わない」で、夫の32.7%、妻の21.3%が理由に挙げています。

妻側の理由から浮上する「夫の暴力」

しかし、妻側の理由に注目すると、別の側面が見えてきます。

妻の離婚理由で2番目に多いのが「精神的に虐待する」の13.6%。それに「暴力を振るう」を合わせてフィジカル・メンタル両面の暴力の割合を見ると、25.2%になります。後ほど詳しく解説しますが、暴力には性的なものと経済的なものも含まれるので、それらを示唆する「性的不調和」「生活費を渡さない」を含めると、44.7%に上ります。

つまり、妻側からの離婚申し立ての約半数は、その陰に夫の暴力の可能性があるのです。

DVの誤解を解きほぐす

(写真=StepanPopov/Shutterstock.com)

「DV=ドメスティック・バイオレンス」という言葉は、今では誰もが知っている言葉だと思います。それでも、「えっ、それもDVって言うの?」「被害を受けた方も悪いんじゃ……」と思ってしまうことも多いのではないでしょうか。DVについて言われがちなことを、一つ一つ検証してみましょう。

殴らなければセーフ?

「手を上げなければたいしたことではない」という感覚は、年代性別問わず根強くあるのではないかと思います。現に、筆者も「殴られた訳じゃないんでしょ?」と言われた経験があります。

しかし、暴力とは「手を出したか否か」ではありません。1993年国連で採択された『女性に対する暴力の撤廃に関する宣言』では、女性への暴力を「公的私的な場を問わず、身体的、性的、精神的に有害または苦痛な性差に基づく暴力行為」と定義しています。夫婦間の性行為の強要も含まれます。

この考え方を踏襲する日本の『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律』(通称『DV防止法』2001年制定)でも、暴力の種類を「身体的なもの」「精神的なもの」「性的なもの」と規定し、生活費を渡さない、仕事や就業を制限するといった行為を「経済的な暴力」に分類することもあります。

もっとも重要なことは「どのような行為が暴力に当たるか」ではなく、その本質にあります。男性が女性を支配し従属的な立場に置くために力を行使すること、それによって女性の人権を侵害することが、DVの真の問題なのです。

結婚前に見抜けなかった方の落ち度?

「そうは言っても、そんな人と結婚しなければよかったんじゃ?」という疑問も、DV被害を受けた人には向けられがちです。結婚前に気を付けていれば、DV加害者と結婚せずに済んだのでしょうか。

内閣府男女共同参画局が発表したデータによると、2017年の配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は10万6110件。さらに、女性の約3人に1人は配偶者から暴力を受けたことがあるというアンケート結果も出ています。純粋に受け取ると、普通に結婚するとかなりの確率でDV被害に遭うということです。

DVの重要なポイントは「性差による支配」です。例えば、既婚女性が夜飲み会に参加するときなど、「旦那さん、よく許してくれたね」「寛容だね」などと普通に言われませんか?もちろん、黙って飲みに出かけるのは夫でも妻でもマナー違反だと思いますが、心の中のどこかに「妻はその行動に夫の許可を得るべき」という「常識」が潜んでいないでしょうか。

私たちの社会はつい「夫の支配」を当然だとみなしてしまいがちで、その意味で誰でもDVに発展する「芽」を持っているのです。

とっとと逃げないなら、どっちもどっち?

DV被害を受けている友人に対して、「あんな男とさっさと別れろと言ってるのにぐずぐずしてるし、結局好きなんでしょ」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、DVの本質は「支配」。相手にコントロールされた状態で、きっぱりと決断できるものでしょうか。

例えば、会社で上司から無茶なスケジュールの仕事を割り振られた挙句失敗し、「お前の実力不足だ」と叱責を受けたとして、その場で辞表を叩きつけられる人はどのくらいいるでしょうか。それができないのは、上司と部下の関係が対等ではないからです。

また、内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査」(2015年)によると、交際相手から暴力を受けて別れなかった理由の約半数は「相手が変わってくれるかもしれないと思ったから」です。好きで交際した相手に、そう思ってしまうのは自然な心情なのではないでしょうか。

DVだと主張すれば、男性はすぐに加害者扱いされてしまう?

一方で、「本当にDVか分からないのに、女性が訴えれば問答無用でDV扱いされてしまうんでしょ?男性もかわいそう」という意見もあります。

日本のDV保護法では、基本的に被害を受けた人の保護と支援しかしていません。加害者にはアプローチしないのです。

被害者は保護命令を申し立てて身の安全を図ることができますが、申し立てができるのは、身体への暴力や脅迫があって生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに限られます。発令されるのは裁判所へ申し立てた後、口頭弁論や相手立ち会いのもとの審尋を経てからのことです。

被害者や関係者への接近とコンタクトが禁止されるのは、発令後6ヵ月間。また、2ヵ月間は被害者と同居する住居から立ち退かなければならず、被害者がこの期間内に引っ越しができなかったなどの理由がなければ延長はできません。

「DVを受けた!」と相手が主張すれば、すぐに逮捕されて隔離されるといったような、スピーディでイージーな制度ではないのです。

また、配偶者から暴力を受けた女性の約4割はどこにも相談しておらず、前述した配偶者暴力相談支援センターへの相談件数10万6110件に対し、保護命令発令数は1826件のみです。ほとんどのDVは水面下にあると言えます。

「何をDVと考えるか」も問題です。例えば、筆者の元夫は結婚後、前妻からの「ほうきが折れるほど殴られた」という訴えに対して、「そのほうきは腐っていたからそんなに強く殴った訳ではない」と筆者に説明しました。「確かに〇〇したが、それはDVではない」論法はよくあることですが、皆さんはどう思われますか?