(本記事は、小澤竹俊氏の著書『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』、アスコム、2018年8月27日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
 
【『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』シリーズ】
(1)3000人を看取った医者が見た「死ぬまで幸せに生きる」ために必要なこと
(2)死を直面したときこそ「本当の幸せ」に踏み出すチャンスである
(3)「お金はあなたを幸せにしない」半世紀後も残る哲学者のスピーチ
(4)なぜ苦しみが「真の豊かさ」を生み出すのか

後悔や挫折、苦しみは、これから出会う誰かの役に立つ

人生には、実にさまざまなことが起こります。

素敵な出会いがあったり、夢が叶ったり、勉強や仕事で大成功を収めたり、欲しいものが手に入ったり、飛び上がって喜びたくなるようなこともあれば、挫折したり、大事なものを失ったり、病気になったり、つらく悲しいこともあるでしょう。

「できれば、いいことや嬉しいことばかり起こってほしい」と思うのが人情というものですが、なかなかそういうわけにはいきません。

生きている限り、人はつらいこと、苦しいことから逃れることができませんし、もしかしたら、そちらの方が、いいことや嬉しいことよりも多いかもしれません。

そして苦しみの真っただ中にいるとき、多くの人は「なぜ自分が、こんな苦しみを味わわなければならないのか」と思うはずです。

「こんな目に遭うなら、死んでしまった方がマシだ」「苦しみなんて、この世からなくなってしまえばいいのに」と思う人もいるでしょう。

その気持ちはとてもよくわかりますが、私は、つらいことや苦しいことこそが、人生を真に豊かにしてくれると考えています。

ある程度時間がたってから振り返ってみると、苦しみ悩む中で学べたことや得られたものが必ずあるからです。

「人生とは、美しい刺繍を裏から見ているようなものだ」

これは、フランスの古生物学者であり、カトリック司祭者でもある、ティヤール・ド・シャルダンの言葉です。

刺繍を裏から見ているときは、一つひとつの縫い目が何を意味しているか、まったくわかりませんが、それを表から見られるようになったとき、初めてその意味や美しさがわかります。

もし、いいこと、嬉しいことしかなかったら、人生はとても平板な、つまらないものになってしまうかもしれません。

いいこと、悪いこと、喜び、悲しみ、いろいろな出来事や感情が入り乱れているからこそ、人生という刺繍は、より複雑で味わい深いものになるのです。

さらに、自分が苦しみの中で学んだことをほかの人に伝えることで、人は相手の人生をも豊かにすることができます。

かつて私が関わった患者さんの中に、40代の会社の社長さんがいました。

彼は、若いころからがむしゃらに働き、一代で会社を大きくしましたが、人を信頼するのが苦手で、どんな仕事でも最終決定は自分で下していたため、常に多忙だったそうです。

家庭や自分の健康を顧ることもなく、がんが発見されたときには、病状はかなり進行していました。

体力が急激に衰え、彼は仕方なく治療生活に入ったのですが、仕事から離れたとたん、部下や取引先は潮が引くように彼のもとから去っていきました。

大切に育ててきた会社すらも失うことになり、彼は初めて「自分の生き方は正しかったのだろうか」と考えるようになりました。

そして、あるとき私に、こう語ってくれたのです。

「私は今までずっと、自分は周りの人間から信頼され、愛されていると思っていました。社員とも取引先の人とも、たくさん飲んで食べて語り合って、お互いに気心が知れ、わかり合えていると思っていたのです。でもそれは、おごりでした。みんなが信頼し愛していたのは私ではなく、私が動かしている仕事やお金だったのです。こんなに寂しいことはないですね」

それと同時に彼は、常に自分のそばにいてくれる家族のありがたさに気づきました。

彼がこの世を去る前にお子さんあてに残した手紙には、「どうか周りの人を信頼し、大切にできる人間になってください」と書かれていました。

人生の最終段階でつらい思いをした彼ですが、愛する子どもに同じ失敗をさせないため、自分が学んだことをしっかりと伝えたのです。

父親の必死の思いと願いは、きっとお子さんにも届いたはずです。

なお、「経験から学んだことを、あとに続く人たちに伝えたい」という思い自体が、生きがいとなり喜びとなることもあります。

やはり以前関わらせていただいた、ある60代の患者さんは、最初のうちはよく「早くこの世を去ってしまいたい」と言っていました。

彼は末期のがんで、余命半年と宣告されており、「残された時間はわずかだし、こんな状態で生きていても仕方がない」「周りの人や家族に迷惑をかけたり、みっともない姿を見せたりしたくない」と考えていたのです。

しかし、在宅チームのスタッフとコミュニケーションをとっているうちに、少しずつ気持ちが変わっていったのでしょう。

彼は「病気になって初めて人の弱さを知り、人のありがたさ、優しさがわかるようになりました」と口にするようになり、やがて、苦しみの中で気づいた家族の大切さ、人の優しさについて文章に書き残し、若い人に伝えたいと考えるようになりました。

「この世でできることなど、もう何もない」と言っていた彼が、「たとえ残された時間は短くても、体の自由がきかなくても、できることがある」ということに気づいたのです。

それからの彼は、もう「早くこの世を去りたい」などとは言わず、最後の瞬間まで前向きに過ごしていました。

人生で起こるあらゆる出来事から、できるだけ多くのことを学び、それをほかの人に伝えること。

それができたとき、一つひとつの経験は大きな意味と価値を持ち、あなたの人生だけでなく、周りの人の人生をも輝かせてくれるはずです。

(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

小澤 竹俊(おざわ・たけとし)
1963年東京生まれ。87年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。91年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院ホスピス病棟に勤務、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3000人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書『今日が人生最後の日だと思っていきなさい』は25万部のベストセラー。

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