(本記事は、小澤竹俊氏の著書『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』、アスコム、2018年8月27日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』シリーズ】
(1)3000人を看取った医者が見た「死ぬまで幸せに生きる」ために必要なこと
(2)死を直面したときこそ「本当の幸せ」に踏み出すチャンスである
(3)「お金はあなたを幸せにしない」半世紀後も残る哲学者のスピーチ
自分の心に正直に生きてこそ、品と艶のある人生が手に入る。お金はあなたを幸福にしない
昨年、アラン・ワッツというイギリスの哲学者のスピーチが、SNSで話題になりました。
「もしお金が存在しなかったら、何がしたいですか?」と題されたそのスピーチで、アランは次のように語っています。
「私はよく学生の進路相談に乗るのですが、『大学を卒業した後、何をしたらいいのかわかりません』と尋ねる彼らに、『もしお金が存在しなかったら、何がしたい?』『何をして人生を楽しみたい?』と問いかけると、彼らは答えます。『画家になりたい、詩人になりたい、作家になりたい……。でもそれではお金が稼げません』また、中には『馬に乗ってアウトドアな生活をしたい』と答える学生もいます。そこで私は『君は乗馬学校の先生になりたいのですか? 本当にしたいことは何なのか、もっと深く考えなさい』とさらに問いかけ、彼らがついに“自分が本当にしたいこと”に気づいたら、こう言います。『では、それをしなさい。お金のことは忘れるんだ』」
そして、アランは続けています。
「生きるために、したくない仕事をし続けるのはばかげている。どんなことでもいいから、本当に好きなことを一生懸命していれば、必ずその道の達人になり、それなりの報酬を払う人も出てくるだろう。だから何も心配することはない」
アラン自身は1973年に亡くなっていますが、半世紀近い時を経てこのスピーチが多くの人の心をつかんだのは、同じような悩みや迷いを抱えている人が、まだまだたくさんいるせいかもしれません。
しかし、みなさんの中には「お金のことを考えず、自分のしたいことをやって生きていけたら理想的だけど、そう簡単にはいかない」と思った方も、おそらくいらっしゃるのではないでしょうか。
たしかに、この社会で生きていく以上、お金は必要であり、「お金のことを考えずに仕事を決める」というのは、あまり現実的ではありません。
特に先行きが不透明で、若者から老人まで、多くの人が将来に対し不安を感じている昨今、「本当にやりたいことだけやればいい」「お金はあとからついてくる」などと思い切ることは、なかなかできないでしょう。
また、若く健康で、バリバリ働いていられるうちは、人はどうしても、お金や名誉などの「わかりやすい幸せ」「目に見える幸せ」「自分だけの幸せ」を追いかけてしまいがちです。
世の中には楽しいこと、魅力的な商品があふれていて、お金を出せば、それらを手に入れることができます。
しかも、お金や名誉などは、簡単に他人と比較することができます。
人よりも多く手に入れられれば、優越感を覚えることもできますし、それが働くうえでのモチベーションになったり、生きていくうえでのエネルギーになったりすることもあるでしょう。
高い報酬につられてやっているうちに、最初は好きではなかった仕事がだんだん楽しくなってくる、ということもあるかもしれません。
ですから私は、お金や名誉などを追い求めることももちろん否定はしませんし、決して無駄ではないとも思っています。
ただ、残念ながら、それらによって得られる幸せには限界があります。
お金も名誉も、手に入れた瞬間は人を幸せな気持ちにしてくれますが、同時に苦しみをも生み出します。
一度それらを手に入れる喜びを知ると、欲望が刺激されてもっと欲しくなり、「これだけ手に入れたから満足」などとは、なかなか思えなくなるからです。
簡単に他人と比較できる分、それを生きる目的や、幸せを測る基準にしてしまうと、「自分の方が少ない」と不満に思うことも増えるでしょう。
そうなると結局、幸せよりも、「満足できない」という苦しみの方が大きくなってしまうのです。
さらに、人との別れや挫折など大きな苦しみを味わったり、年齢を重ね、仕事を退いたり、体の自由がきかなくなったり、病気になったり、死が間近に迫ったりしたとき、多くの人は、お金や名誉などが決して自分の心を安らかにしてくれないこと、自分を本当の意味で幸せにはしてくれないことに、ようやく気づきます。
人生には、お金や名誉などがあってもどうにもならないことが、たくさんあるからです。
お金は、「生活していけるだろうか」といった不安を和やわらげ、一時的な楽しみや喜びを与えてくれますが、別れや挫折などによる苦しみを癒してはくれません。
どんなにお金を積んでも治らない病気はありますし、お金や名誉が死に対する恐怖を和らげてくれるわけでもありません。
仕事を退けば、名誉や役職は、ほとんど意味をなさなくなります。
苦しみを抱えたとき、若さや健康を失ったとき、自分の心に本当に安らぎや幸せをもたらしてくれるものは何なのか、病気や死の不安から自分を救ってくれるものは何なのか。
それは、いつもそばで自分を支えてくれている家族や友人の存在かもしれませんし、圧倒的な自然の偉大さ、美しさかもしれません。
あるいは「自分の存在が、または自分の仕事やしてきたことが、誰かの役に立った」「いつでも自分の心に正直に生きてきたし、悔いはない」「自分の人生には意味があった」という思いかもしれません。
この社会で生きていくうえで、お金のために働くことも、ときには大事かもしれませんが、それだけでは、人は本当の意味で幸せにはなれません。
そして、何歳になろうと、お金や名誉以外の「本当に大事なもの」に気づいたとき、本当の人生がスタートするのです。
小澤 竹俊(おざわ・たけとし)
1963年東京生まれ。87年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。91年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院ホスピス病棟に勤務、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3000人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書『今日が人生最後の日だと思っていきなさい』は25万部のベストセラー。
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