「国の借金は1人当たり○○万円!」という報道をよく目にする人は多いだろう。それにあわせて、日本経済はいよいよ破たんする、ギリシャのように債務不履行に陥るなどといった謳い文句も毎回のように見られる。果たしてそれは本当なのだろうか。

国の借金とは、誰が誰から借りているお金なのか、そもそも国民に返済の義務があるような書き方は正しいのだろうか。国の借金にまつわる表現が誤解を招く理由について、まとめて解説していこう。

「国の借金」とは何か?

2016年11月10日に財務省から発表された「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」、いわゆる「国の借金」は、9月末時点で1062兆5745億円となったそうだ。これは過去最高を更新し、10月1日時点の日本の人口推計(概算値1億2693万人)を元にして単純計算した場合、国民一人当たりの借金は「約837万円」になるという。

この借金は、16年度末には1119兆3000億円にまで膨らむ見通しだ。猛スピードで増え続ける国の借金だが、「国民一人あたり~」という表現に疑問を感じたことのある人も多いのではないだろうか。というのも、まるで、国民が借金をし、返済の義務を負っているかのような書き方だからである。冗談じゃないと思う人がいる一方で、いざとなれば、自分たちが返さなければいけないのではと不安をかき立てられる人もいるかもしれない。

実際のところ、国の借金とは誰が誰に借り入れているお金なのだろうか。国の借金とは、国民が借りているお金ではなく、日本政府が借りているものだ。それでは、誰に借りているかと言えば、その多くは日本国民からになる。日本銀行の「資金循環データ」(2016年)によると、国が発行する債券、国債の94.5%は国内で購入されているのだ。国内というのは、その多くが金融機関ということになるが、金融機関が自分たちで国債を買っているわけではない。私たち国民や企業が預貯金に預けているお金の運用先として、国債が購入されているのだ。つまり、国の借金のほとんどは、日本国民から「借りている」と言うことができるわけだ。

ちなみに、「国の借金」という表現も、正確には誤りだ。国の借金とは本来、政府の借金以外にも、金融機関や非金融法人企業、民間の家計なども含めた日本国全体の借金ということになる。しかし、よく言われる国の借金とは、正しくは「政府の借金」のことだ。国の借金と政府の借金があたかも同じであるかのように使われていることも、債権者債務者を曖昧にする要因の一つかもしれない。

まとめると、国の借金とは、政府が日本国民から国債の発行という形で借りているお金であり、国民に返済の義務はないということだ。つまり、「国の借金は国民一人当たり○○万円!」は、借り手と貸し手を一緒くたにした表現と言うことができる。