色々な経済活動を総合的に判断し、先行きの景気がどうなるかを把握するためには、それぞれの経済活動が経済全体のなかで、どのように位置づけられているのかを理解することがとても重要である。そのためには、経済の構造がどうなっているのか、その仕組みを理解することが必要不可欠である。

経済というものは循環的、つまり良くなったり悪くなったりを繰り返して動いている。そして、景気が良いとは、具体的には我々の収入が増え、使うお金が増えるということである。使うお金が増えれば、企業の売上げも増える。企業の売上げが増えれば、そこで働いている人の収入が増える。これが繰り返されていくのが、景気が良いということになる。

現在の状況を見ると、アベノミクスの効果もあり、景気が少し良い方向に向かってきた。実際、消費者の購買意欲を示す個人消費は2014年4月の消費増税で落ち込んだが、再び持ち直しつつある。その結果、企業の売上げや生産が増え、残業代や労働者の採用も増えてきた。

ただし、家計の収入が増えているのはまだごく一部であり、多くの人々の家計収入が明確に増えているわけではない。景気というのは、良くなる場合も段階を踏んで良くなっていく。悪くなる場合も段階を踏んで悪くなっていく。そのようにして、景気は循環的に動くということである。

この循環を少し専門的な言葉で説明すると、「3つの経済活動の循環」ということになる。経済というのは、「支出」(需要)、「生産」(供給)、「収入」(所得)という3つの活動の循環から成り立っているということである。

そして、景気が良くなる場合でも悪くなる場合でも、まず、はじめに動くのは需要である。需要が増えれば景気が良くなり、需要が減れば景気は悪くなる。需要というのは、言い換えれば支出である。何かモノを買いたいということでお金を使う。つまり、支出が増えるという形で最初に需要が動く。

逆に、リーマンショックや東日本大震災のようなことが起きると、将来の生活への不安から、人々は出費を減らす。そうなると、製造業であれば在庫が積み上がってしまうため生産(供給)を減らす。すると、そこで働いている人の収入(所得)が減り、彼らの出費も減る…という形で景気が悪くなっていくのである。このため景気が悪くなったときは、景気をよくするために、国が需要というものを第一に考えるわけである。

アベノミクスでは、これまで「3本の矢」で需要を増やそうとしてきた。1本目の矢が、大胆な「金融緩和政策」である。これで円安・株高になって需要が増えてきた。円安になれば日本の製品や日本の旅行等は海外から見て安くなるため、海外からの需要が増える。また、株価が上がれば、資産効果によっても消費や設備投資が増える。

2本目の矢が、「機動的な財政政策」である。これは、政府がお金を使って公共事業を増やしたり減税をしたりすることである。これも需要が増えるということで、これまでは生産や収入も少しずつ増えてきた。しかし、本格的に良くなるにはもう少し時間がかかりそうである。そこで政府は、3本目の矢として、「民間投資を促す成長戦略」を進めようとしているわけである。このため、経済指標をみるときも、この3つの経済活動のどこの循環のデータなのかということが重要になってくる。

また経済を別の側面から分けると、「4つの経済主体」(家計、企業、政府、海外)に分かれる。特に需要に注目して見ることが必要となり、家計の需要なのか、企業の需要なのか、政府の需要なのか、海外の需要なのか、これらのどの分野についての動きなのかが重要になる。

ここでポイントになるのが、経済の教科書に必ず出てくる「三面等価の法則(原則)」である。すなわち、3つの経済活動のそれぞれの合計金額は、一国全体で一致するという法則である。誰かが支払った金額と同じ金額のものが必ずどこかで生産・供給されていて、その同じ金額が、必ずどこかに所得として分配される。従って、それぞれの合計は一致するということである。

例えば車を購入する場合、誰かがディーラーにお金を払うと、それは必ず誰かが生産に携わっているため、そこにお金が流れる。ディーラーもメーカーから車を仕入れているため、メーカーにお金がいく。メーカーも下請け会社から部品等を買っているため、そこにもお金が流れ、また、そこで働いている人や企業の所得としても分配される。

このような形で、最終的に生産した分だけ誰かの収入が増えることになるため、生産と収入の金額は同じになる。これが三面等価の原則であり、経済主体との関係をまとめたのが下の表である。

縦軸が3つの経済活動で、横軸が4つの経済主体となっている。ただし、右端の「全体」の欄の「物価」「金融」「為替」というのは、複合的に絡み合っている。例えば物価は、端的にいえば需要と供給の関係で決まってくるため、需要側か供給側かという分離はできない。金融も為替も同様である。これらを除けば、この表のどこかに必ず当てはまる。このため、経済の先行きを見通す上では、注目している経済活動がこの表のどこに該当するかということを把握することが重要となってくるといえよう。

文・永濱利廣(第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト)/ZUU online

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