「ブラックホールの特異点定理」で世界中にその名を轟かせた英著名理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士が、2018年3月14日に他界した。全身の筋肉が徐々に動かなくなる筋委縮性側索硬化症と戦い続けた「車いすの天才」は、独創的な宇宙論だけではなく、経済や金融、人類の未来についても深い見解を示していた。

ホーキング博士が遺した数々の予言から、「AIによる人類・経済への影響」「人類にとっての真の脅威」、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOやロシアの大富豪が巨額の投資を行う「他の惑星への人類大移動計画」など、経済に関する3つの大予言を見てみよう。

(1)「AIによって人類が救われるか、破滅に追いやられるかは分からない」

近年、AIの社会進出が目立つが、ホーキング博士は2014年という比較的早い段階で、AIの潜在的危険性に警告を発していた。博士はインデペンデント紙への寄稿(2014年5月1日掲載)の中で、自動運転車やチャットボットといったAI商品の開発により、人類にもたらされる恩恵を認める一方で、十年後、二十年後にどのような未来が待ち受けているのかに懸念を示した。

またガーディアン紙への寄稿 (2016年12月1日掲載)では、中所得層がAIに職を奪われるリスクについて語っている。既に自動化が昔ながらの製造産業に大きな影響をおよぼしているが、今後は「最も創造的で(人間特有の)思いやりが必要な仕事、あるいは監視・監査の役割を担う仕事以外」は、中所得層の仕事がAI化されるとの見解だ。

博士の予言が的中すれば、「AIは金融市場や投資アナリスト、リサーチャーを脅かす存在となる」だけではなく、金融市場の構造自体を現在とは全く異なる物へと作り変えるかもしれない。
これらの懸念を受け、国民全員に最低限の生活費を支給するという「ベーシック・インカム」が、フィンランドやイタリア、カナダなどの一部の地域で試験的に実施されているが、現時点ではあくまで「本格的な導入を決定づけるためのデータ収集期間」である。

ホーキング博士は生前、「AIを普及させる準備が整っていない」と指摘していた。AIの恩恵を最大限に活かすためには、準備期間が必須—というホーキング博士の警告が、博士の死とともに思い出される日が来るのだろうか。同様の警告はTeslaのイーロン・マスクCEOも繰り返し発している。

(2)「人類にとっての脅威は、ロボットではなく資本主義」

2015年にはテクノロジーと所得格差の拡大に関して、「所得格差を拡大させるのは、ロボットではなく資本主義」という意味合いの発言している。IT大手のトップが何百万ドルという資産を所有し、慈善活動に精を出す一方で、貧困問題は今も根強い。自身は豪邸に住み、優雅な生活を満喫しながら行う慈善活動では、焼け石に水ということだろうか。

この発言は、投稿サイト「Reddit」 で一般人からの「ロボットは本当に人類から仕事を奪うのか」という質問に応じたものだ。

ホーキング博士は「ロボットが何もかもやる世の中になった場合、結果はそれによって創出された富がどのように分配されるか次第」と語った。富が平等に分配されれば全人類が豊かな生活を送れるが、ごく一部の人間だけが支配するのであれば「ほとんどの人類が貧困にあえぐことになる」。

ホーキング博士いわく、残念ながら現状は後者に傾いている。英非営利団体オックスファムの最新調査によると、2017年に世界で生みだされた富の82%は、世界で最も裕福な1%の手にわたり、貧困層の半分に値する37億人はわずか1%しか得られなかったという。つまり人類にとっての脅威となりかねないのは、ロボットではなく資本主義ということになる。

これに対しては、米ジョンソン & ウェルス大学経済学部の講師ステュアート・ドンペ氏が「博士は経済学を理解していない」と異論を唱えているが、「テクノロジーが所得格差の拡大を後押ししている」という揺るぎない事実には反論できないだろう(Foundation for Economic Education2015年10月26日付記事)。